話題沸騰中の乃木坂46のドキュメンタリー映画「いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46」のメガホンを取った岩下力監督にインタビュー。撮影上の工夫や、間近で見て感じたメンバーの素顔について聞いた。
◆トップアイドルグループを追ったドキュメンタリー映画ということで、どういうことを意図して作られましたか?
劇中でも流れていますが、最初は“どうしたらいいんだろう?”っていう思いがありました。とりあえずゴールを決めずに撮ってみることにしたんですが、素材をずっと撮りながらもどういうふうに物語っていくか悩んだ時期はありましたね。
◆乃木坂46の密着を始める前はメンバーにどんなイメージを抱いてましたか?
最初は何も分からなくて、ただ単に怖いわけですよ。“日本一売れてる美少女軍団”みたいなイメージしかなかったから、人間関係も分からなければ、それぞれのキャラクターも分からなくて。だから“この前あんなことがありましたよね”“どんなことですか?”みたいな些細な会話から始まって。そういうのを蓄積させて一から人間関係を作っていく感覚でしたね。
◆いろんな現場に自然にいらっしゃったという話を聞きました。
観葉植物ですって言って撮影していったんですけど、本当にそうなってしまって(笑)。目の前でカメラを向けてる時とそうでない時の差がほぼないような局面もあったりしたんです。もうちょっと体をカメラに向けてほしいと思った時は話しかけてみようとか。でもカメラに撮られ慣れてるということもあって、カメラをパッと向けてもかしこまったり姿勢を変えるようなことはないんですよね。本当に正直な人たちで、そこは助かりましたね。こちらも自然体の映像が欲しいなと思っていたので。
◆序盤からメンバー同士の仲の良さが取り上げられてますよね。
カメラが回ってるかどうかは関係なく、ずっと寄り添い合ってるんですよね。その光景は衣装とロケ場所さえ変えてしまえば何かのファンタジー映画なんじゃないかと思うぐらいの不思議な感覚があって。これを形にできないかなっていう思いはありましたね。ショービジネスというどこか殺伐としたものがあるかもしれない世界のど真ん中に、そういう得体のしれないファンタジックな光景が広がっているっていうのは面白いなと思って。まずはそこから映画を始める方向にしました。
◆ドキュメンタリーでありながらも、ファンタジーを感じられるというのは乃木坂46ならではなのかもしれませんね。
そうですね。『日本レコード大賞』の授賞式の裏でみんなで気持ちを一つにするっていうシーンがありますけど、完全に魔術めいてるというかスピリチュアルなものを感じて。これがもしハリウッドのフィクション映画だったら、CGで「気」のようなものが映っていてもおかしくないような(笑)。それが現実に起きているのが不思議で、僕としても撮り甲斐がありました。
◆今作はまた、西野七瀬さんに代表される“卒業”も1つのテーマになっていますね。
その前後を詳しく知ってるわけではないですが、その春夏秋冬の間には何か得体の知れないグループの潮の流れの変化を感じました。実際、メンバーに確認してもみんな何かを感じているところがあって。確かに“誰と誰がいなくなった”というのは本当に大きいと思いますが、それぞれのメンバーの立ち位置だったり、その時の楽曲とか年齢とかパーソナルなところでどういう心境なのかというのが複合的に合わさって、大きな潮の流れを作っているんだと思います。でもそれはその一時で、今はまた別の物語がきっと走っているんだろうなと思っていて。テレビなどで彼女たちを目にすると、裏ではどんなことが起こっているんだろうっていう興味が湧いてきちゃいますね。“みんな元気かなぁ”って親せきのおじさんみたいな目線が強まってしまったところはあるかもしれないです(笑)。
◆映画の軸として登場する、齋藤飛鳥さんについてあらためて印象を教えてください。
どういう人なのか最初は分からなかったけど、最終的には一番シンパシーを感じる人になりました。それでも分かり切ったっていうことはないんですけど、彼女の考え方を一つひとつ知るにつれ、自分も確かにそう思っていたことを呼び起こされたっていうことが多くて。そうやって脳に風穴を空けてくれる、考え方のきっかけを与えてくれる答えが返ってくることが多かった気がします。
◆具体的なエピソードを挙げるとすれば、どんなことでしょう?
インタビュー中に「あまり先のことは考えてなくて…」みたいな話をしていて。でも誰もがみんな野心を抱いて幸福を追求することだけが幸せなんだっけって、一回立ち止まって考えさせられるみたいな。そういう考え方もあっていいんだという想いが募って、独自の考え方を吐露する飛鳥さんを映画にも大事に盛り込みたいと思うようになりました。
◆ほかに見ていて面白いと思ったメンバーはいますか?
大園(桃子)さんは面白かったです。一見、天真爛漫な感じに見えるけど大人がハッとするようなことをポロッと言うんですよね。どこでそういう考えを抱いたんだろうっていう。「季節がこの世界では道具にされてる気がする」って言った時にすごいなと思ったというか、発想がクリエイティブというか。それが地なんでしょうけど。触発される言葉を、大人がハッとする言葉を平気で言うところが面白かったですね
◆撮影で工夫した部分はありますか?
例えば西野さんの卒業に対する高山(一実)さんの気持ちを理解するために、僕の中で何かを経由しなくてはいけないと思ったんです。それで考えた結果“これって恋愛かも。てことは失恋なのかな”と。いつも隣にいた人がいなくなる虚無感という感情をどう表現すればいいかはものすごく考えました。飛鳥さんの母校の同窓会のシーンでも、過去と対峙するみたいな、昔の自分が今を見てるみたいな演出をしたりとか。そういうのは映画だからこそ描けると思ったので、立体的になるようにはしました。
◆岩下監督が映像の仕事をされたきっかけについても教えてください。
小さいころから映像が好きで、最初は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とかジャッキー・チェンの映画を見て。アカデミー賞を取るような映画を小学6年生ぐらいでたくさん見ました。中学ではヨーロッパ映画、高校では世界中の映画や実験映画、大学に入ったら映画史を知ってもっとたくさん見て…っていう感じですかね。作り手になるというよりは作品に参加したいと思ってました。ただ映画監督になりたいとは恥ずかしくて言えなくて。映画のポスターを描く人になりたいとか、そういう逃げ方をしてたんですけど(笑)。果たしてそれをできる能力が自分にあるんだろうかっていう思いもありましたし。
◆実際に今回映画監督になったわけですが。
ドキュメンタリー映画なのが意外って知り合いは言ってますね。ドキュメンタリーであることも意外だし、被写体がアイドルっていうことも意外だって言ってます(笑)。
◆今後はどんな映画を撮りたいですか?
すさまじく回転していく日常の中で見落としてしまうような微細な気持ちを、しっかりくみ取ってしっかりと残していく…みたいな。今回の映画で高山さんが小旅行のシーンで見せている何とも言えない横顔がありますが、ああいう気持ちになったことがある人なら共感できますし。人間の社会の中にある感情をとどめておけるのなら、見過ごしてしまうようなことをしっかりと形にできるなら、ドキュメンタリーでもフィクションでもどんなテーマでも撮っていきたい。“こういう気持ちだってあるんだよ”みたいな、なにか些細なものを礼賛できるような形でいろんな感情を描けたらと思います。
■PROFILE
●いわした・つとむ…1983年生まれ。08年ディレクターデビュー。主な作品にポカリスエットTV-CM、午後の紅茶WEBムービー、NISSAN WEBムービー、グリコTV-CM、長編ドキュメンタリー「乃木坂46 BEHIND THE STAGE IN 4TH YEAR BIRTHDAY LIVE」 など。
■作品情報
映画「いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46」
公開中
<STAFF&CAST>
企画:秋元康
監督:岩下力
出演:乃木坂46
前作「悲しみの忘れ方~」から4年ぶりとなる、乃木坂46のドキュメンタリー映画第2弾。エース・西野七瀬の卒業をきっかけに自分自身と向き合うメンバーの心の葛藤と成長を、貴重映像と彼女たちの証言を交えて描く。
©2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会