舞台「MOTHERS AND SUNS‐母と息子‐」が7月26日(金)より東京・サンシャイン劇場にて上演される。第68回トニー賞戯曲賞ノミネート作品の翻訳劇となる同作で原田美枝子さん、大塚明夫さんと共演を果たす小野健斗さんにインタビュー。現在放送中の日本テレビ系プラチナイト木曜ドラマF『わたし旦那をシェアしてた』にてレギュラー出演中の彼に、また全く異なる世界観のLGBTを題材にした本作で同性婚カップルを演じる。本作への意気込みなどを聞いた。
◆「MOTHERS AND SUNS」の脚本を拝読して難しそうな会話劇だなと思いました。
海外戯曲を翻訳しているので、あまり日本人の会話には出てこないような言葉が多く出てきます。だから理解するまでには時間がかかるのかなと。僕も一度読んで「これ何だったっけ?」と考えて、数ページ戻ってまた読んでようやく理解するなんてこともありました。
◆LGBTを題材にした作品ですが、脚本からはどんなことを感じられましたか?
何て言うんだろう…LGBTの方々が抱えているものを何でもっと知ろうとしてこなかったんだろうと。まだ日本ではLGBTという言葉の意味も知らない人がまだまだ多いと思うんです。脚本を読んで、現状LGBTの方々に起きていることを目の当たりにすると、演劇を通して出来ることを何か発信しないといけないなと感じました。だから素晴らしい題材を扱っているなと思いました。
◆小野さん演じるウィルは男性と結婚し、男の子の養子がいます。ウィルをどのような人物として捉えていらっしゃいますか?
題名を日本語にすると「母と息子」ですが、どちらかというとウィルは女性的な性格だと思います。「子供ができて最初からいとおしかった。最初から子供の世界に入り込んでしまった」というせりふもあるんですが、ウィルは心情としては母なんでしょうね。逆にウィルのパートナーであるキャルは男っぽいんです。だから演じるに当たって母性のようなものを大事にしないとなと思いました。
◆男性の方が母性を感じるのは難しそうではありますよね。
母性を大事にしなきゃなとは思いますが…男なので分からないものは分からないんですよね。男として母性本能をくすぐるとかは何となく理解できるんですけど、母性を出すのは、自分からはかけ離れすぎていてまだ未知の領域です(笑)。
◆そのあたりは養子バド役の子役さんたちとの関係性も大事になってきそうですね。
子役の子たちともいろいろネタ合わせみたいなことをしなきゃなと思っています。ただ面白いことに、子役の子たちって礼儀正しいししっかりしていてもう役者としての自己を確立しているんですよね(笑)。みんな厳しい現場でビシバシ育てられてきているんでしょうね。だから逆にものすごく僕に気を使ってくれるんです(笑)。
◆逆に(笑)。
そうなんです(笑)。中身はもう大人なんですよね。わーい! ドーンッ! ってふざけてぶつかってくるような子たちではないから、その微妙な距離感は稽古段階で何とかしなきゃなと思います。もちろん仲良くなることが一番ですけど、今の段階ではまだそこまで手を伸ばせていないんですね。せりふ量も多いし、まだまだ違うことを考えないといけない段階だと思っているので。といってもそこはそんなに焦りはないんですけどね。時間が解決してくれるでしょうから。
◆ではウィルという役を演じるやりがいはどんなところだと思いますか?
この舞台には養子のバドも含めたら4人の登場人物がいますが、大人3人の中ではウィルは年齢が若い分、抱えてきたもの背負っているものが薄いんです。だけど腹をくくって芝居をしなければならなきゃいけない瞬間がくる気がしていて。それがいつかというと、多分本番前なのかなと。だから役者としてすごく良い勉強になるだろうなと思って取り組んでいます。
◆どんな部分で腹をくくることになるだろうと?
先程も言いましたが、分からないものはどうしても分からないって部分で…。
◆例えば養子に感じる母性だったり、LGBTの人たちが抱えているだろう苦悩だったり。
そう、でもそれをいつまでも引きずって本番に立つわけにはいかないですからね。今の段階で腹をくくるって決めているので、本番までに理解するために最善の努力をしようと思っています。
◆台本を読んでもキャルもウィルもただ普通の男性だというのが分かります。
演出の三ツ矢雄二さんも稽古が始まった時におっしゃっていたんですが、“普通だよ”って。だから僕らもしぐさや立ち居振る舞いといったものは意識しないで演じようと思っています。もし何か普通とは違うことがあるとしたらそれは個性。人それぞれの個性が出ているだけだから、特に何をしなくちゃとは考えずに普通に1人の男性を演じようと思っています。
◆LGBTをより理解してもらうための「LGBT THEATER」の第1弾作品ですが、見てくださる人に伝わってほしいことは?
LGBTの人たちが抱えている現状の問題は、この作品を見れば分かっていただけると思いますし、この舞台で描かれていること以外にもさまざまな問題が起きていると思うんです。だからこの舞台を見たことによって、LGBTについて調べるきっかけになってくれればなと思います。僕も発信する側として、少しでもそのための協力できればいいですね。僕は今年30になるんですが、この作品は人生の分岐点になると確信しています。なのでたくさんの方に見に来ていただきたい…というか見てやってください!
■作品情報
舞台「MOTHERS AND SUNS-母と息子-」
7月26日(金)~8月4日(日)東京・サンシャイン劇場にて上演
■PEOFILE
●おの・けんと…1989年8月9日、神奈川県生まれ。O型。2006年ミュージカル「テニスの王子様」で俳優デビュー。2010年『天装戦隊ゴセイジャー』に出演。ドラマ『わたし旦那をシェアしてた』(日本テレビ系)に出演中。
●photo/金井堯子 text/佐久間裕子 hair&make/小倉優美(LaRME)