映画「ソワレ」で、ある事件をきっかけに逃避行するヒロイン・タカラを演じた芋生悠さん。「TVer(ティーバー)」のCMでも話題の日本映画界の新星に、撮影裏話や好きな映画について伺いました。
◆今回のタカラ役は、100人以上から抜擢されたそうですが、どのようなオーディションだったのでしょうか?
翔太役の村上虹郎さんがオーディションに立ち会われていたので、あるシーンのお芝居をご一緒できました。虹郎さんとはその時が初めましてだったのですが、真っすぐで輝く目がとても印象的でした。その時のお芝居の感触から、「やっぱり、タカラを演じたい!」と感じながら、家に帰ったのを覚えています。
◆ちなみに、タカラ役は過去にトラウマを持った役柄です。
この仕事を始めて「自分は役者として生きる」と言っていたものの、どこか中途半端なものを感じていたんです。それがやっと「私は役者です」と胸を張って言えるようになった時に『ソワレ』のオーディションだったので、かなり覚悟がいる役とはいえ、絶対にチャレンジしたいと思っていました。
◆オーディション合格後、脚本を読んだ時の率直な感想は?
「タカラがもっと報われるように、幸せになるように物語を変えられないのか?」と思ったぐらい、とても孤独でかわいそうな子に見えました。これまでもタカラのように大変な思いをする役を演じたこともありましたが、役に振り回されることで我を忘れることもありました。今回はタカラに寄り添い、一緒に歩んでいきたいといった感覚でした。
◆そのため、役作りも大変だったのでは?
タカラはたくさん汚れたものを見ているため、一見とても弱い子に見えるかもしれません。でも、自分の脚でしっかり立っている強い子でもあるので、その芯の強さを出せたらいいなと思っていました。外山文治監督も私の意見を取り入れてくださり、タカラを見守ってくれましたし、虹郎さんも私が迷っている時に、そこにいてくれる存在でした。そのため、お芝居的にもぶつかりにいくことができ、タカラを演じ切ることができました。
◆ちなみに、一番苦労されたシーンは?
タカラは全編通してトラウマを抱えた役なので、そこからずっと逃れられないんですが、翔太君と逃避行をすることで不思議と生きることの幸せや喜びを感じてくるんです。そのため逃避行が始まる前、ドキュメンタリータッチで撮られた序盤の撮影は精神的にもキツかったです。ただ、プロデューサーの豊原功補さんや小泉今日子さんも常に現場にいらっしゃって、プロデューサーというよりは役者目線で現場を見守ってくださったこともあり、とても有難かったです。
◆そんな苦労の結晶ともいえる作品を最初に見た時の感想は?
涙が止まらず、座席から立ち上がることもできませんでした。そして横にいらっしゃった外山監督と目を合わせた瞬間、無言で握手をしたことを覚えています。その後、この映画の関係者の方だけじゃなく、これまで自分が出会い、お世話になった人たちの顔がパッと浮かび上がり、また泣いてしまいました。その人たちに絶対見てほしい気持ちが沸いてきたのだと思います。
◆「ソワレ」は芋生さんにとってどのような作品になったと思いますか?
自分の役者人生における序章のラストを締めくくる、特別な立ち位置の作品になったと思います。そして、これから新たに始まる自分の役者人生が楽しみになりました。また、純粋に「映画っていいな」と思えるきっかけの作品にもなったので、多くの方に映画館で見ていただいて、映画を好きになってもらいたいです。