CGアニメ映画「小さなバイキング ビッケ」で、バイキングになりたい主人公の少年・ビッケの声を吹き替えた伊藤沙莉さん。テレビアニメ『映像研には手を出すな!』でも話題を集めたハスキーボイスの魅力に迫ります。
◆洋画アニメの吹き替えは、シーズー犬の声を担当した「ペット2」に続いて2本目ですね。
私自身、前作「ペット」のファンだったので、お話を頂いた時はすごくうれしかったのですが、あまりに大役だったので戸惑ったことを覚えています。でも、収録は楽しかったですし、周りの評判も良くて、ホッとしたのですが、それで自信がついたというよりは、「もっとやってみたい!」という欲みたいなものが生まれてきました。
◆そして、今年放送されたTVアニメ『映像研には手を出すな!』では、アニメ制作に情熱を懸ける主人公・“浅草氏”こと浅草みどりの声も担当されました。
原作モノはファンの方が多いですし、アニメ好きな方からすれば、やはりプロの声優さんにやってほしいんだろうなと思いますし。それに、アニメ作りをする女の子の役ですから、めちゃめちゃ反応が怖かったです。しかも、浅草氏は原作コミックを読んでも、どんな声をしているか、自分の中で全く浮かばなかったんです。そういう意味では、初回の放送までは、金森氏役の田村睦心さんと水崎氏役の松岡美里に励ましてもらっていました。
◆初回放送直後から起こった原作ファンの賛辞は、どう受け止めましたか?
「これでいいんだ」とホッとして、掛け合いが楽しくなり、最終回までやり遂げることができました。ただ、当時はコロナ禍ではなかったので、アフレコ収録にはその回に出てくるキャラクターの声優さんが全員いらっしゃって、プロの方に見守られる唯一の素人みたいな状況は、めちゃめちゃ緊張しました(笑)。皆さんいい方ばかりで、環境に助けられたところもあります。
◆そして、今回、初の男の子を演じた「小さなバイキング ビッケ」。原作は世界的に有名な児童文学で、日本でも1972年から1974年に放送されたTVアニメの印象がとても強い作品です。
男の子の声は前からやってみたかったのですが、一応「男の子のキャラですよね?」と確認したことを覚えています(笑)。原作ファンに加え、昔のアニメを見ていたファンの方もいらっしゃるので、これまで以上に多くの人に納得してもらわなければいけないという思いがありました。私の母もそのファンの一人で、「娘がビッケをやるなんて、心の底からうれしいけれど、これまでのイメージを壊すなよ!」と、強いプレッシャーをかけられました(笑)。
◆ビッケの役作りに関しては、どのようにされたのでしょうか?
“浅草氏”の時と違って、先に本国版の吹き替えがあるので、役がイメージしやすいと思っていたのですが、オリジナルでは本当の男の子が吹き替えていた上、驚くほど繊細な表現をしていたんです。でも、日本ではこれまでのビッケと同じように、パーッと弾けた感じでやらせていただきました。
◆演出家の方からは、どのようなアドバイスを受けましたか?
私の声の特性上、ゆっくりしゃべると、年齢が上がってしまいがちなので、演出家の方からは「特に性別は気にせず、少年を意識してください」と言われました。ですので、そこを意識して、声に張りを出しました。そのほかの感情などに関しては、かなり自由にやらせていただきました。今回、声優の方と間隔を開けて、ビニール越しに掛け合いのお芝居をやらせていただいたので、とても助かりました。臨場感が全く違うんですよ。
◆ドイツ=フランス=ベルギーの合作でもある本作を見た感想は?
とても画がきれいで、次から次へといろんなことが起こって、全く飽きさせない。ずっと前のめりで見ていられる作品だと思いました。また、大海原を舞台にした大冒険を描いたスケールの大きいお話ですが、家族や仲間、将来の夢といった自分たちに身近なことに置き換えられるエピソードがギュッと詰まった作品でもあるんです。だから、幅広い方が楽しめるんじゃないかな、と思います。私は母が映画館で観るまでは気が抜けません(笑)。
◆現在、声の仕事も増えていることに関しては?
子役のころから、ずっとやってみたかったのですが、一度も声優やナレーションのオーディションに受かったことはありませんでした。「ダミ声だし、すぐ忘れられないから無理かな?」と半ば諦めていました。だから、今キャラクターや表現の1つとして、必要だと言ってくださる方々が現れたのは、とてもありがたいこと。私の中では奇跡なんです。
◆声の仕事といえば、洋画の吹き替えもありますね。
子供のころは、よく吹き替えで洋画を観ていたので、もちろんやってみたいですが、先輩方の話を聞くかぎり、人のお芝居にお芝居をつける難しさがあるようなんです。そういう意味でも、あまりに未知の世界すぎて、楽しそうな気もしています。
◆伊藤さんが幼いころにした、ビッケのような大冒険を教えてください。
小さいころは、今じゃ考えられないぐらい怖いモノ知らずで、一人で歩き回っていたんです。小1ぐらいのころ、手押し車を引いたおばあちゃんを見かけて、「ヒーロー登場!」みたいな感覚で、家まで手押し車を運ぶのを手伝ってあげたんです。そしたら、おばあちゃんに「お茶していきませんか?」と誘われ、時間も忘れてお話していたら、家では「誘拐されたんじゃないか?」と大騒ぎになってました(笑)。この仕事をしてからは、親から禁止されることが増え、そういう冒険もできなくなりましたね。
◆多忙な中で、今ハマっているリフレッシュ法を教えてください。
夜の8、9時ぐらいに、家の周りを散歩すること。特にお店に入ることはないですが、飲んで楽しそうな人たちを見て満足しながら、家に帰ります。そこから、お風呂に入って、晩酌までの一連のコース(笑)。自分で作ったよだれ鶏や、トリュフオイルかトリュフ塩をかけたブロッコリーをつまみに、定番のハイボールを飲む。早く仕事帰りに、共演者の方やスタッフさんと飲みに行けるようになりたいですねぇ。
PROFILE
●いとう・さいり…1994年5月4日生まれ。千葉県出身。A型。
主演映画「タイトル、拒絶」(11月13日(金)公開)のほか、「十二単衣を着た悪魔」(11月6日(金)公開)、「ホテルローヤル」(11月13日(金)公開)など出演作多数。
映画情報
『小さなバイキング ビッケ』
2020年10月2日(金)より全国公開
<STAFF&CAST>
監督:エリック・カズ
アニメーター:ティモ・ベルク
声の出演:伊藤沙莉、三宅健太、前野智昭、和多田美咲 ほか
<STORY>
海賊の長ハルバルの息子ビッケ。ある日、ビッケの母イルバが「魔法の剣」の力によって黄金に姿を変えられてしまう。その剣の秘密を解くため、ビッケを置いてハルバルたちが旅に出ようとするが、何とかビッケも船に乗り込み、解明の旅に出発する。
©2019 Studio 100 Animation – Studio 100 Media GmbH – Belvision
●photo/中村圭吾 text/くれい響 hair&make/弾塚凌 styling/吉田あかね 衣装協力/ヴェントリロクイスト、ラナスワンズ