テレビ西日本が開局55周年記念ドラマとして制作、放映した『めんたいぴりり』。その後全国で放送され、第30回ATP賞奨励賞、第51回ギャラクシー賞奨励賞、平成26年度日本民間放送連盟賞番組部門テレビドラマ番組優秀賞を受賞するなど、高い評価を得た大人気ドラマが舞台化。主演の博多華丸さんに、物語のご当地でもあり、地元・福岡での舞台化についてお話を伺いました。
断れるものなら断りたかった
――『めんたいぴりり』の舞台化が決まったときの心境はいかがでしたか?
とにかく、僕には無理だと。ドラマの評価なんて自分では分かりませんから。賞を取れたのは、映像とか編集とか、技術さんが良かったからなので。
いまだに僕は鵜呑みにはしてないです。照れくさいのもあって。本当に好評ですか?と思っちゃいます。断れるものなら断りたかったです。ただ、もう腹は決めました。
僕はこの役以外はできないと思うんです。博多弁ではなく、違う芝居で違う役だったら自信がないし、そこまで広げようとは思っていません。オファーが来ても多分断ります。ただ、よしもとがやれって言うならやるしかないけど(笑)。
――舞台の主演は初めてですね。
主演は初めてです。福岡でこぢんまりとコントみたいなのをやったくらいで。重圧ですね。
相方の大吉は『無理ばーい』って。彼は分かってますから、博多座がどんなところか。
1日2日じゃないし、32公演もある。若ければ果敢にチャレンジっていうのもあるかもしれないけど。僕らはなるべく波風立てずに…穏やかにいきたい2人なので。もちろん人前に立つのは好きですけど。舞台に関しては、回を重ねるうちに快感になればいいですね。ただ、もう少し小さいところがよかったけど(笑)。そこで一回段階踏みたかったのはありますね。
――ドラマから舞台に。気持ちに変化はありますか?
ドラマの世界観を残しつつ舞台は舞台で、なのか、まだ全然分からないです。
でも、僕は常に演出家とか、監督の言いなりなので、お邪魔しないようにやるだけです。
座長というより、お飾りです(笑)。
なにぶん初めてなので、言われたとおりにしよう、病気しないようにせないかんなぁ、と、自己管理におびえていますね。
浮気しているんじゃないかって罪悪感があります
――物語の主役・海野俊之というキャラクターについてお聞かせください。
幸い自分に少し似ているというか。やっぱり福岡気質な方なので。
僕がだいぶ年下なので、僕のほうが福岡気質を受け継いだ感じですけどね。なので、演じているようで演じていない気がします。人によってはそのまんまやん!って。だからこそ僕にできたのかなと、思います。
僕の親父や爺さんもなんとなく雰囲気が似ていたので、演じるというか、自分の中にあるものが出たという感じですね。“こんなこと言わんよね”とかいうものはなかったです。
福岡気質っていうのは外面がいい。計画性のないことをしたり、見栄張って、全部嫁さんに迷惑かけて、でも謝るっていう。
僕も上京したときは、計画性なく飛び出した感じだったので、そういった点は似てるかなぁと思います。決しておすすめする気質ではないです(笑)。
――ドラマでは富田靖子さんが演じた妻・千代子役を、舞台では酒井美紀さんが演じます。
やっぱり、罪悪感があります。浮気してるんじゃないかって。富田さんとは初婚だったので(笑)。ドラマのパート2も撮った直後に酒井さんにお会いしたので、よその女に手を出したと…。でももう間が空いたので大丈夫だと思います。
ただ、観てる人は違和感があるでしょうから、やっぱり酒井さんのほうが大変だと思います。富田さんは福岡の人なのでヒヤリングができるけど、酒井さんは僕の思わず出た方言に戸惑うかもしれませんね。
――昨年末には“不安と期待と不安のサンドウィッチ状態”とおっしゃってましたが。
あれから不安が減って、半々くらいになりました。近づいてきたからしょうがないですもん。2014年はひょっとしたらまだ断れるんやないか、と思ってたんですけど(笑)、現実味を帯びだすともう逃げられないし、受け入れようと。
嫁のお父さんお母さんとか、僕の親戚とか、年配の人が喜んでくれるんですよ。それはうれしいですね。福岡で飲みにいっても大体おかみさんあたりが“観に行くけんね”って言ってくれるので、不安を消してくれました。
漫才という逃げ道があるから、芝居を思い切ってやれるんだと思います。本職の人には失礼ですけど。
失敗したら博多に戻ってこられない、という気持ちはいまだにあります。
しかも今回の舞台はエキストラの人に手伝ってもらうので、今後も街で会ったときに“俺おったっちゃけん”って、一生のお付き合いになるので。エキストラの方や技術さんによかったと言ってもらえるまで、不安は止まらないです。
「一生ついていきます!!」と思いました
――ドラマの撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
パート1は初めてだったし、アドリブはほとんどなくて。パート2のときは慣れていたので、アドリブを少し入れたい感じはありました。
ただ、2日目くらいに江口監督に呼び出されましたけどね。「ちょっと散歩しましょう」って。
“えー。もう絶対殴られるんだ…”と思っていました(笑)。そしたらずばり「海野俊之っていう役ですけど、“海野俊之”のモノマネをしていませんか。そうじゃないんです。パート2はパート2でも新しい海野俊之でやっていきましょう」と言われて。“はぁ! 一生ついていきます!”と思いました。ただ、切り替えるにはどうしたらいいのか、僕もすごく悩みました。
だから、とりあえず大きな声でやってみたんですよ。初々しく。そしたら何にも言われなくなって(笑)。やっぱり置きにいっていたんですかね。最初のときは「どうですか!」と、まっさらな状態でやっていたと思うので。
撮影もかなり押していたのもあって、まさに現場は“ぴりり”としていました。
富田さんは監督と「ここはどういう気持ちでやったらいいですかね」とか、天上界のお話をされていらっしゃいましたが、僕はちょっともう意味が分からないんですよね。上の人同士の話なんで。僕みたいな底辺の人間は「分かりました」って言われたとおりにやるしかいないですけど(笑)。
――芝居の現場は華丸さんにとってアウェイだと思いますが、ドラマに大吉さんが登場したときは心強かったのでは?
それが、ほっとしませんでした。逆に大吉とのシーンだけアドリブだったんです。“見せてもらいましょう”という感じで僕はプレッシャーでした。相方は適当にやってましたけど(笑)。ある程度の骨組みはありましたが、ドラマは毎日台本ばっかりで、台本通りで台本慣れしていて。アドリブがきかなくなってくるんです。当時は“俺もう、江口監督のOKが出ないとせりふが出てきません”という事態に陥っていました。もう大変だったんですよ。台本なしじゃ無理ばい! という体になっていました(笑)。
――ドラマの現場で得たものはありますか?
月亭方正さんとは今まであんまり一緒に仕事をしたことがなくて。どこか『ガキ使』のイメージが強いので。「山崎、アウト~」の感じ(笑)。
最初はふざけた感じが多かったんですが、シリアスなシーンもあって。その収録日が近づくと不安でした。やっぱり芸人同士だし、コントみたいになるんじゃないかと。でも、方正さんも落語を始められてもう3年くらいになるし、すごいんですよ、お芝居が。それに引っ張られた感じがありました。本当は僕が引っ張らなければいけない立場なのに…。
リハーサルから全力でやられるし、僕も一緒にやらないわけにはいかないし…。
なんかやっぱり、芸人さんってすごいんだなぁ、と思いました。得た、というか、あらためて先輩ってすごいな、と思いました。
役者では子役の子が上手すぎて引きました(笑)。やばいですよね、子役って。
子どものときから演技をして、どんどん大きくなって世に出てやる職業なのに、簡単に役者もできる! なんて絶対言えないな、とあらためて思いました。
やっぱり本業はお笑いとか、芸人のほうなんだ、とふんどしのひもを引き締めました。ふんぞり返ってはいけないな、と。
舞台でいっぱい謝りたいな、と思います
――ドラマで好きなシーンはありますか?
僕はやっぱり、自分の実体験というか、1番素直に見られるのは奥さんに謝っているところ。あのシーンは好きです。今では富田さん越しに自分の嫁に謝っていますから。「届け!!」って思いながら(笑)。自分らしいシーンでもある気がします。
子どもの頃の自分には見せていなかったけど、強かった父も僕のいないところで謝っていたんじゃないかと思います。そうじゃないと成立せんもんなって。うちもそうだったけど、全部父親中心に動いていましたから。家族でご飯食べに行くときも、大体普通は子どもが何を食べたいか、じゃないですか。全然違いますもん、絶対自分が食べたいものに無理矢理連れて行く。だからうちではいっつも焼き鳥でした。年の数だけ食えって(笑)。親父中心の生活をお母さんがさせるっていうのが、福岡の家庭のような気がします。こっち(東京)の芸人さんの話を聞いていたら、そんな奥さん孝行せないかんの?ってことが結構あります。嫁も福岡の人間なので、ひょっとしたらストレスが溜まってるかもしれないですけどね。今回も舞台でいっぱい謝りたいな、と思います。
――芸人仲間からドラマの反響はありましたか?
我が家の坪倉(由幸)君から『ドラマ全部見ました。泣きそうになりました』って。泣きそうになりました?泣いたらいいやん!(笑)。みんな泣きそうで堪えているから、まだ僕の足らなかった部分かな、と。泣いたらいいのに。麒麟の川島(明)君からや、ロッチの毛むくじゃら(中岡創一)とか。パート2では東京からゲストで月亭方正さんに来ていただいて。ぐっと、福岡だけの放送じゃもったいないよね、という感じが出ました。
――ドラマに出演して、これまでとは見方は変わりましたか?
ドラマは元々好きだったのですが、やっぱり見方は変わりますね。立ち止まるシーンがあったら、“あそこで立ち止まれって言われたんかな…”とか、“うまいこと止まったな”とか(笑)。職業病というか、立ち止まるとこは特に気になりますね。そういう目で見てしまうというか。それを自分にフィードバックしたら、というよりは、大変でしょうねって見方になりました。
なるべく初見の人受けにしたい
――コントとドラマ、舞台の違いはありますか?
違いってないんじゃないですかね。オチに向かっていくというか。
サッカーじゃないけど、ゴールシーンだけが重要ではなくて、その前の過程が大事なんだな、と。中盤があるからゴールが面白い、というかね。そういう意味ではコントと一緒だな、と思いました。
しいて言うなら、中盤で揺れているのはコントなのかな。舞台もお芝居もお笑いも一緒のような気がします。オチじゃなくても、大事なせりふに向かっていかに作り上げていくか、というか。
――舞台にいらっしゃるお客さんにメッセージをお願いします。
よそから来られる方は、博多座は博多の中心にありますから、グルメも含め、あそこでご飯食べようとか、夜は芝居終わってからこれ食べようとか。そういうのも含めて計画して観に来ていただきたいな、と思います。すぐ中洲ですからね。中洲って歌舞伎町的な、男の街のイメージがあるかと思いますが、女性同士で行けるところもいっぱいありますから、詳しくは僕のグルメ本で(笑)。
ドラマを見たお客さんと、舞台が初めてのお客さんだと、どうしても温度差が出てしまうと思うんです。でもドラマを見た人寄りにしたくないな、と。身内ネタみたいにしたくはないな、と思っています。初見の人が楽しめる舞台になったらいいな、という感じです。
漫才でもネタってそんなに何個もあるわけじゃないから、舞台でも“そのネタ知ってる”って人に合わせてしまうとその人は喜ぶけど、初見の人はベーシックな方が絶対ウケると思うから。なるべく初見の人受けにしたいな、と。
まだ迷っている方には、最寄りのおいしい焼き鳥屋をいつでも紹介します。もし芝居でご満足いただけなかった部分は、福岡のグルメがフォローしますので。福岡を楽しめなかった原因が本当に舞台なのであれば、僕につけておいてください。焼き鳥5本くらいならなんとかします(笑)。
PROFILE
博多華丸●はかた・はなまる…福岡県出身。
1990年、相方の博多大吉とお笑いコンビ「博多華丸・大吉」を結成。
「ルミネtheよしもと」「なんばグランド花月」に定期的に出演し、漫才で活躍。
また、児玉清、川平慈英などのモノマネでも人気を博している。
テレビ「ヒルナンデス」「有吉ゼミ」のほか、地元・福岡で長年愛されている「華丸・大吉のなんしようと?」など、レギュラー番組多数。誠実で人懐っこい人柄でCMにも引っ張りだこ。東京、福岡をまたにかけて活躍している。食についてのこだわりが強く、また福岡ソフトバンクホークスの大ファンとしても知られている。
舞台情報
『めんたいぴりり~博多座版~』
(原案:川原健 原作:東憲司 監修:江口カン)
公演期間:2015年3月6日(金)~29日(日)
会場:博多座(福岡県福岡市博多区下川端町2-1)
脚本:中島淳彦 演出:G2
出演:博多華丸、酒井美紀、紺野美沙子、宇梶剛士、モロ師岡(Wキャスト)、西村雅彦、瀬口寛之、斉藤優(パラシュート部隊)、福場俊策、井上佳子、ゴリけんほか
■あらすじ
海野俊之(博多華丸)と千代子(酒井美紀)は、日韓併合後の釜山の街で生まれ育ち、夫婦となった。2人の子どもと共に命からがら第二次世界大戦を生き抜いたと俊之と千代子は日本に引き上げ、博多で食料品店「ふくのや」を始める。
2人の頑張りで店は従業員も雇えるほど順調だったが、俊之は青春時代に釜山の市場で千代子と食べた辛子明太子の味がどうしても忘れられず、明太子作りに没頭する。
はじめは思うような明太子が出来ず、毎日試食をさせられる千代子や従業員たちは辟易するようになるが、それでも味に妥協せず試行を重ね続ける俊之の姿に千代子は惚れ直し、従業員たちや近所の人々も応援するのだった。
電話予約・インターネット予約受付中
料金:A席12000円 特B席9000円 B席7000円 C席4000円(税込)
企画・制作:博多座/テレビ西日本
主催:博多座/テレビ西日本
共催:西日本新聞社
特別協力:福岡市、福岡商工会議所
協力:博多祇園山笠振興会、中洲町連合会、中洲流、株式会社ふくや、空気株式会社
博多座HP(http://www.hakataza.co.jp/)
ドラマ情報
ドラマ「めんたいぴりり2」
テレビ西日本で2週連続放送
<前編>2015年2月20日(金)午後7時~7時57分 放送
<後編>2015年2月27日(金)午後7時~7時57分 放送
■キャスト
海野俊之:博多華丸
海野千代子:富田靖子
八重山徳雄:瀬口寛之
松尾竹吉:斉藤優
笹嶋辰雄:福場俊作
岡村ミチエ:井上佳子
でんさん:ゴリけん
スケトウダラ:博多大吉(友情出演)
亀山留吉:月亭方正 ほか
公式サイト(http://piriri.tv/)
イベント開催決定!
博多座&TNC presents
『めんたいぴりり NIGHIT』~夢を抱きし者たちへ~
続編の放映が決まり、ますます盛り上がりを見せている博多が生んだドラマ『めんたいぴりり』。今回博多座では、劇場空間を活かして、ドラマと舞台の世界をより深く、より近く楽しんでいただけるよう、イベントを企画。『めんたいぴりり』ファンの方はもちろんのこと、博多座で初めてこの作品をご覧になる方も、みんなで楽しめる映像・演劇・ライブと盛りだくさんの一夜です。
日時:3月25日(水)
開演:18時30分 (開場17時30分)
※上演時間は、約2時間30分(休憩含む)を予定しております。
会場:博多座
料金:全席指定2800円(税込)
チケット発売:2月11日(水・祝)一般発売
チケット問合せ:チケットぴあ博多座専用ダイヤル092-708-9595
または通常ダイヤル0570-02-9999および、ぴあスポット・セブン-イレブン・サークルK・サンクスでの発売 Pコード442-156
http://ticket.pia.jp/pia/event.do?eventCd=1502940
【公演内容】
第1部
ドラマ『めんたいぴりり』上映会
司会:新垣泉子(TNCアナウンサー)
解説:瀬戸島正治(ドラマ『めんたいぴりり』プロデューサー)
※解説者は都合により変更になる場合がございます。
博多で生まれた大ヒットドラマ『めんたいぴりり』プロデューサー瀬戸島氏を迎えドラマの撮影秘話、今だから話せるアノ話などをたっぷりお話していただきます。ゲスト飛び入りあるかもしれません!
第2部
スピンオフ舞台「でんさん危機一髪!!」
出演:ゴリけん、パラシュート部隊、ほか舞台出演者
ドラマ内で人気のあるキャラクター“でんさん”(ゴリけん)が主役となるもう一つのぴりりストーリー。従業員役の面々が繰り広げるこの日だけしか観れない舞台。ゲストとしてパラシュート部隊・斉藤優さんの相方、矢野ペペさんも飛び入り参加!
第3部
風味堂アコースティックライブ
出演:風味堂
ドラマ『めんたいぴりり』の主題歌である「夢を抱きし者たちへ」とエンディングテーマ「足跡の彼方へ」を歌った福岡出身のアーティスト。ドラマの感動シーンに常に寄り添い、サポートし続けた風味堂。「ぴりり」作品が高く評価された影の功労者です。今回はドラマの挿入歌を中心にアコースティックライブを行います。
●取材/田代良恵