【インタビュー】映画「ソロモンの偽証」主演 藤野涼子インタビュー

特集・インタビュー
2015年03月05日

作家・宮部みゆきの長編推理小説を2部作で描く映画「ソロモンの偽証」(3月7日(土)「前篇・事件」、4月11日(土)「後篇・裁判」公開)。オーディションで約1万人におよぶ応募者の中から主役を射止めた、主演の藤野涼子さんにお話を伺いました。

父のおかげで、主役の話は意外と落ち着いて受け止められました

――本格的な演技は今回が初挑戦とのことですが、もともと女優を目指していたんですか?

もともと小さい頃からテレビに出たいという気持ちがありました。父がバラエティ好きで母がドラマ好きで、家ではずっとテレビがついていたので、タレントか女優になりたいってずっと思っていました。小5~6のときに事務所に入ったんですが、そのときはまだどちらにするか決まっていなくて。演技への興味が湧いてきたのは、「ソロモンの偽証」の第一オーディションのときです。

――主役・藤野涼子を演じたくてオーディションを受けたんですか?

もちろん役をもらいたいとは思っていました。でも、オーディションの間に行われたワークショップでは演技経験が多い方や積極的な方も多くて…。とにかく「自分を出そう」とか「何かを得よう」と。本当は「役をもらいたい」っていうのは頭の片隅にあったんですけど、そこまで頭が回らないくらいパニックになっていました(笑)。
ワークショップでは、演技の基礎を学びました。演技もしていたんですけど、監督からは「基礎をちゃんとやったほうがいい」って言われていたので、ずっと体の体操や滑舌練習をしていました。ワークショップを通して、やっぱり体幹が重要だと思いました。たまに自分の演技をモニターで見させてもらうんですけど、そのときに体が曲がっていたりすると、「そういえばレッスンでこうしろって言われてたな」って思って。次はそれを意識してやると直っていたりするので、役に立ちました。

――実際に役をいただいてみてどうでしたか?

頭が真っ白でパニックになるかと思ったのですが、意外とお父さんが落ち着いて「主役だよ」って言ってくれたので、自分も落ち着いて受け止められました。たぶん、お父さんが冷静じゃなかったら自分もパニックになっていたかもしれないので、お父さんのおかげなのかなって思います。

泣きたくないのに泣いてしまう部分は主人公と似ているかも

――自分自身と主人公を比べてどう思いますか?

自分の性格が藤野涼子とまったく同じだとは言えないです。とにかく監督は、「お前は藤野涼子を演じることはできない」とおっしゃっていて。私は何も持ってないし、役を演じたこともなく、どう演じていいかも分からない。なので、とにかく藤野涼子をその場で生きることだけを考えてカメラの前に立っていました。確かに自分でも藤野涼子を生きているかっていうのがすごく不安で、撮影のときも本当にこれでいいのだろうかっていつも考えていました。でも、監督の言うことについていって、今女優として映画に出られて、本当に監督の言葉を信じてよかったと思います。

――では、監督とは結構やりとりがあったんですね。

監督は「こういう映像を作ろう」というイメージが元々出来ていて、私たちがどれだけそのイメージに近づけるか、というのが問題でした。監督がイメージする演じ方を考えてカメラの前に立たなきゃ、っていうのは頭の中では分かっているけど、それを表現できない自分への悔しさで泣いてしまったりしたこともありました。泣きたくないのに泣いてしまうのは主人公の藤野涼子に似ているかな、と思いました。

母親役・夏川結衣さんからのアドバイスに助けられました

――ベテラン俳優陣に囲まれての撮影は緊張しましたか?

緊張しました。同じ中学生キャストと一緒にやってみて競争心を持つというのはあるんですけど、やっぱり大人の方と演技するとどうしても自分の演技力のなさが分かって悔しかったし、辛いと思うときもありました。でも家族のシーンでは、母親役の夏川結衣さんや父親役の佐々木蔵之介さんが昼ごはんのときに話しかけてくれて。話すことが私にとって一番心が軽くなる瞬間でした。この作品をやって、あらためて人間関係って大事だと思いました。

――先輩たちからアドバイスはありましたか?

いろんな方からいいアドバイスをいただいたんですが、一番心に残っているのが、夏川さんからいただいた言葉です。撮影中、監督からオッケーが出ても自分では納得できないときがたまにあって。ずっとくよくよして、次のシーンがあるのにもかかわらず前のシーンのことばかり考えてしまうんです。「次のシーンもうまくいかないんじゃないか」って思っていると、やっぱりうまくいかないんですよ。主人公の藤野涼子になれないというか。そのとき夏川さんが「監督がオッケーって言ってるんだから、くよくよしないで次のシーンも頑張りなさい」って言ってくれたことで次のシーンも集中できました。その言葉は今でも心に残っています。
父親役の佐々木蔵之介さんは、取材で一緒になったときに“演技のアドバイスはしない理由“をおっしゃっていて「なるほど」と思ったことがあって。蔵之介さんは「自分たちは演じてるけど、この中学生キャストたちは“演じている”のではなく“生きている”。だったら、演じることへのアドバイスをしなくてもいいんじゃないか」と。もちろん、「こういうふうにやったらもうちょっと役の感情に近づくし、道が開けるんじゃないか」って思ったこともあったらしいんですが、それを聞いたときは本当にいろんなことを考えて皆さん演じているんだなって思いました。

撮影の合間は、いきなり即興芝居が始まることも

――同世代のキャストも多数出演していました。

私の場合は時間が空かないと藤野涼子を生きられないので、休み時間や昼ごはんはみんなとちょっと距離を置いて1人で食べたりしていました。心に余裕があったり、「今日は藤野を生きられる」と思ったときはみんなと一緒にご飯を食べたりしましたね。
現場ではエチュード(即興芝居)がはやっていたので、休み時間が長いときとかはみんなでよくやっていました。誰かが「やろうよ」って声かけすることもなく、いきなり始まるんです。例えば、誰かがお母さん役をやって「ご飯作ったわよー!」みたいな(笑)。そういうのを誰か1人が始めて、みんな集まっていくんです。楽しかったですね。1人だといろんなことを考えてしまって精神的にもつらいので、みんなといるほうが気が楽になりました。やっぱり内容も内容ですし精神的にくるので。みんな明るく学校のように接することができてよかったです。

「ソロモンの偽証」は必ず自分と似た人物が見つかる作品

――気に入っているシーンや大変だったシーンは?

後編の裁判のシーンが難しかったですね。やっぱり人前で何かをするのはとても緊張するので…。でも、みんながすごく優しかったんです。失敗してもみんなが応援してくれるから、ここで「藤野涼子を生きてもいいんだ」って気づいて。次の日からは堂々と藤野涼子を生きられたんじゃないかな、と思います。

――目標にしている人はいますか?

私、「ソロモンの偽証」の前は、あまり本を読まず映画も最近の作品しか見なかったんです。今、これを終えてほかの映画や本を読み始めたばかりなので、ほかの俳優さんたちがどういう演じ方をしているのかとか、どういう人々がこの世界にいるのかをもうちょっと深く知ったうえで目標にする人を決めていきたいと思っています。なので、今はまだいません(笑)。

――最後に、この作品の見どころを教えてください

「ソロモン~の偽証」は、1人ひとりの個性がとても強い作品です。なので、「もしかしたら私は樹理ちゃん(石井杏奈)の考えを持っているかもしれない」とか、「神原君(板垣瑞生)みたいなことを考えているかもしれない」とか、必ず自分に似ている登場人物が見つかると思うんです。なので、そういうことを考えながら見てもらえたら、自分も裁判の傍聴席にいるかのように感じられると思うし、そういう気持ちで見ていただけたら光栄です。

PROFILE

藤野涼子●ふじの・りょうこ…2000年2月2日生まれ。神奈川県出身。15歳。
1万人が参加した映画「ソロモンの偽証」オーディションで主役に抜擢、同作の役名を芸名として活動していく。

 

作品情報

「ソロモンの偽証 前篇・事件」 3月7日(土)公開
「ソロモンの偽証 後篇・裁判」 4月11日(土)公開

原作:宮部みゆき「ソロモンの偽証」(新潮文庫刊)
監督:成島出
脚本:真辺克彦
音楽:安川午朗
出演者:藤野涼子 板垣瑞生 石井杏奈 清水尋也 富田望生 前田航基 望月歩
佐々木蔵之介 夏川結衣 永作博美 小日向文世 黒木華 尾野真千子

ベストセラー作家・宮部みゆきが、構想15年、執筆に9年を費やした、現代ミステリーの最高傑作と謳われている小説を、日本アカデミー賞ほか、主要映画賞を30冠受賞した成島出監督をはじめとする「八日目の蝉」チームが再集結し完全映画化。
演じるのは本作のために1万人にも及ぶ候補者の中からオーディションで選び抜かれた新鋭33人。共演は佐々木蔵之介、夏川結衣、永作博美、小日向文世、黒木華、尾野真千子ら、日本映画界が誇る豪華俳優陣。賢い者が、権力を持つ者が、そして正しいことをしようとする者が、嘘をついている。校内裁判の果てに、彼らがたどり着いた驚がくの真実とは。

公式サイト(http://solomon-movie.jp/

(C)「ソロモンの偽証」製作委員会

 

●取材/田代良恵、金沢優里

 

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