「“順応していく”ということがすごく重要」
◆今作の歌詞はご自身で書かれていないわけですが、作詞者の方にイメージは伝えられているんですよね?
アルバムのコンセプトと一緒に、曲の大体のイメージは伝えていて。例えばドラマや小説のように主人公がいたとして、その人が“荒れているところ”だとか“実を結びそうな恋愛に打ちひしがれている場面”だとか、そういう箇条書きのメモを渡したりはしています。あとは、サウンドの雰囲気に合わせて書いてくれた感じですね。
◆例えばM-2「Adrenaline Rush」の“人と同じにってみんな言うだろ? 俺だって試したさ でもつまらなかったさ(※和訳)”という部分のような、社会や世間に馴染めない感じは誰しもが抱えているものなのかなと思ったのですが、ご自身に重なるところもあったりしますか?
僕も共感する部分はあるし、直接的に(自分を)当てはめて考えるものが歌詞だと思うから。そうやって多くの人が共感できるという意味でも、この歌詞はすごく良いなと思います。本当は“自分はスペシャルだ”と思いたいものじゃないですか。でも“スペシャルじゃないのかな?”と思わされたのが、去年のステイホームの時間で。
◆自分という存在に向き合わざるを得ない時間だったわけですよね。
それでも“スペシャルだと言ってもらいたい”という葛藤は、みんなにあると思うんですよ。それを表面に一生出さない人もいるし、しょっちゅう出す人もいるわけで。「Adrenaline Rush」は、そういうところをうまい頃合いで落とし込めている歌詞だと思いますね。
◆“お決まりのじゃない(※和訳)”という歌詞は、音楽作りにも当てはまるところでは?
(歌詞の)主人公がどういう生き様かは知らないですけど、葛藤しながらも“信じていく”のは同じというか。“自分を信じるしかない”っていうところは、やっぱり基本じゃないですか。何事においても、それがスタートだから。そういう部分が出ている歌詞は多いと思いますね。
◆アルバムタイトルの『Between The World And Me』というのも、世界と自分との関係性についてなのかなと。そういうことを考える時間がステイホーム中に、誰しもあったと思うんです。
やっぱり、そういう影が少なからず落ちているアルバムだと思うから。歌詞を書いた2人も当然それを感じながら、書いたんだろうなというのが分かりますよね。たまたま目に止まった言葉だったんですけど、実は前作を出す前から“次はこのタイトルが良いな”と思っていたんです。
◆ご自身の中では、どういう意味合いで使われているのでしょうか?
この言葉をこれから噛み砕いていくというか、いつでもしっかりと考えながら生きていけるような言葉だなと思っています。だから今どうのこうのというのは、そんなにないですね。まだまだ勉強中だし、自分が生きている意味というのもわかっていないから。
◆世界もどんどん変わっていくし、自分も変わっていく。1つの答えだけがあるわけではないというか。
だから、“順応していく”ということがすごく重要で。そして、“問いを持つ”というか。何にでも“どうしてだろう?”とか、“これって今、俺に合っているのかな?”とか、そういうことを考える機会をくれた期間だと思うんですよ。問いの先には絶対に明るい方向に持っていく自分の思考と、ある程度の終わりを置くべきですけどね。そういう意味でも、“順応していく”ことは大事だと思います。
◆コロナ禍の影響もあって、前作・今作とお1人で制作されたわけですが、これまでのバンド形態でやるのとは違う面白さも感じられたのでは?
でも最近はたまたまバンドスタイルが定番化していただけで、こういう作品も経験上なんとなくは作れちゃうんですよね。ただ、これだけ振り幅を大きくしたというところで、追及の仕方と結果は面白かったと思います。こういう音じゃなかったら、ランディ・メリルという選択肢もなかっただろうから。
◆レディー・ガガやジャスティン・ビーバー、アデルといった数々のビッグネームを手掛けてきたランディ・メリルにマスタリングを依頼したことで、今の時代の音をより反映した作品になったように感じます。
そうですね。だから、ランディの功績はすごく大きいと思います。バンドサウンドだったら、もしかしたらランディじゃなかったかもしれないわけで。
◆とはいえ、今作の曲をバンド形態のライブでやるとなると、またアレンジも変わっていくわけですよね?
変わるでしょうね…。全く変わると思います。
◆そのイメージも、もう湧いている?
ないです! そこまで考えていたら、3日に1曲は作れないですよ(笑)。最初は“とりあえず、俺は動くぞ!”という気持ちだけでやっていましたから。音楽人として、こういう時だからこそ動いていくんだという感じでした。
◆本当に半年先のことも分からない時代になりましたが、そういう中でも良い未来を思い描けているのかなと。
元の状況に戻ることはたぶん当分ないので、さっきも話したように順応して生きていくことがすごく大事になるんじゃないかな。そこに文句を言ったって、何も解決しないから。まず先に進むことが大事なんじゃないかなと思います。そのために、新しい曲を生んでいくっていう。
◆このペースでいくと、どんどん新しい作品がリリースされていくことに…。
誰かが止めてくれないとヤバいですね。やれって言われれば、やりますよ(笑)。
◆楽しみです(笑)。昨年延期になったLUNA SEAのツアーやさいたまスーパーアリーナ公演の振替もあるでしょうし、2021年は忙しくなるのでは?
延期になってしまったこと自体はみんなに迷惑や心配をかけて本当に申し訳ないなと思っているんですけど、ライブをやれるタイミングが来た時にいつでも全力で行けるように準備はしておきたいですね。もちろんLUNA SEAに関しても新曲もあるだろうし、僕自身も行ける時にちゃんと動けるように曲を作っていくし、ライブの準備もしておくという感じです。
PROFILE
●いのらん…1970年9月29日生まれ。神奈川県出身。LUNA SEAのギタリスト。1997年よりソロ活動を開始。これまでにソロで13枚のフルアルバムをリリースするほか、LUNA SEAでも精力的な活動を繰り広げている。
リリース情報
14th Album『Between The World And Me』
2021年2月17日(水)発売
【完全生産限定盤 -LP SIZE BOX-】12,000円+税
【通常盤】3,000円+税
キングレコード
WEB
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text/大浦実千