関西を拠点に活動する“ちょうどいい”イケメン演劇集団・劇団Patchの連載「劇団PatchのLIFE GOES ON」がWebで出張連載! 誌面では語り切れなかったはみ出しトークを紹介しちゃいます!
結成8周年を期に8チャンネルのカンテレ(関西テレビ放送)とコラボした音楽朗読劇『マインド・リマインド~I am…~』が無事閉幕。毎回キャストが変わる全9公演の中で、主役の“僕”を演じた松井勇歩さん、井上拓哉さん、納谷健さんに千秋楽を終えての気持ちやお互いの公演を見た印象などについてお聞きしました。
◆20年12月末に大阪3公演、21年1月末に東京6公演、全9公演を無事完走しました。今のお気持ちを聞かせてください。
井上:全公演上演することができて、ホッとしたというのが正直な気持ちです。このコロナ禍で上演できるかどうかも分からない中、大阪公演をすることができ、その1か月後、まだまだ予断を許さない状況下でしたが、東京公演も無事終えられたことに、まずひと安心しました。
松井:今回の公演は朗読劇ではありましたが、演出の方からは「本だけに集中するのではなくて会話を大事にしてほしい」と言われていました。さらに主要キャストが4人だけということで、シーンごとにマンツーマンの芝居が多かったんです。となると、互いの表情や芝居を受け取ったり渡したりが重要になってくるのですが、マスクにフェイスシールドをつけた状態の稽古では、その重要な要素が遮断されてしまうんです。「どんな芝居をしてるんだろう」というのは、メンバーに関しては大体想像がつくんですけど、ヒロイン役で参加してくださった谷村美月さん入山法子さんとはほとんどのメンバーが初共演だったので、想像ができないんですよ。本番で初めてお2人の表情を見て、「どういう風に作ってきはったんやろ」「稽古場から学ばせてもらいたかった」と心底思いました。僕らからしたらお2人は大先輩の役者さんですから。
納谷:うん、それはそうやね。
松井:あとは、お2人がすごくおきれいで。僕らって基本的に男子校のノリなんで、「かわいい!」とか言いまくってました。結局芝居がどうこうより「かわいい」が一番になってしまいましたけど(笑)。健と拓哉も言ってたな?
井上:うん、言ってたよ。みんな言ってたけど、主に言ってたのは勇歩くんやったよ(笑)
松井:それはそうやな(笑)。谷村さん、入山さん、ありがとうございます!(笑)
納谷:真面目な話に戻すと、今回はキャストの組み合わせが9通りもあって、それぞれ稽古も別々。朗読劇っていう境界や定義があいまいなものに対して、どう進んでいくのか。それぞれが自分の中にあるものでしか作っていけないという状態だったので、それぞれの個性と演出の方のビジョンを擦り合わせた結果が、各組の色の違いや面白さとして出たんじゃないかと思います。僕も「自分なら」という部分を色濃く出そうと意識して演じましたし、他のみんなに関してもそれぞれの“らしさ”や挑戦の方向性が見えたように思いました。
◆お互いが演じた“僕”をご覧になって、いいなと思ったことや、印象に残ったことについて教えてください。
納谷:たっくん(井上)の“僕”が“医師”に対して詰め寄って論理的に伝えようとする場面で、長ゼリフを延々早口でまくしたてるやつあったやん? あれ、いいなと思った。すごいオタクっぽくて(笑)。
井上:ハハハ。あれは、その時の“医師”が健やったからできたんやと思う。すごくやりやすかった。
松井:さっき健も言うてたけど、今回は組ごとに稽古もバラバラで、どういう風に作って、どういう風に演じるのかを見ることがなかったから、本番で初めて見て「同じ本で同じ役をやってもこんなに個性が出るんや」ということをすごく感じたんよ。“彼女の弟”はアドリブシーンが多かったし、“医師”はどういうベクトルで作っていくかで違いを出しやすい役。でも、そんな周りの役に振り回されるポジションの“僕”は、誰が演じてもそんなに変化はないんちゃうかなって最初は思ってたんやけど。でも結果、“僕”が一番、個性が出やすい役やったよね。拓哉の“僕”はほんまに真面目で真っ正面から話を聞いて振り回されるみたいなところが、拓哉本人と近くて。健の“僕”は東京公演の大千秋楽で初めて通しで見たけど、人の話を一歩引いて聞いて、それが正しいのかどうか考えながら理解するという姿勢に普段の健っぽさが出てた。今思うと、“僕”という役は自分で作っていくというより、“医師”と“彼女の弟”に感化されて出来上がっていく部分が大きかったんやな。受けの芝居にこそ個性が出るというか。
◆松井さんの“僕”はご自身と似ている部分はありましたか?
松井:僕は記憶がなくて。演じてた時の記憶が。
井上:うわ、カッコいい!
納谷:ハハハ!
松井:今のはちょっとふざけましたけど(笑)、自分がどうやったかっていうのは難しいですね。今回の“僕”は客観視するのが難しい役やったかもしれないですね。
井上:勇歩君の“僕”を見て、やっぱり勇歩君ってすごいなって。舞台を降りた勇歩君は120%ふざけてはって、いつも僕らを楽しませてくれるんですよ。でも今回の“僕”でもそうでしたけど、本番前はめちゃくちゃ集中していて。勇歩君の“僕”の一番好きなところは、冒頭。下手に“僕”、上手に“彼女”がいて、今から物語が始まるぞっていう、そのモノローグがスッと入ってきて。勇歩君ってめちゃくちゃ華があるなって思った。健は今回、メンバーで唯一、“僕”“医師”“彼女の弟”の3役をやって、もうその時点で既にすごいんだけど、健が“医師”と“彼女の弟”の時、自分が“僕”をやって分かったのは、もちろん演じる役によって全然違うし、芝居を通していろんなものを投げかけてくる。だから僕も素直に受け取ることができた。そして東京の千穐楽での“僕”で、いろんな物を吸収した上でのパワーを全部放出したよね。
納谷:そうだね。全部パワーを出し切ろうというのもあったけど、朗読劇というのは手元に台本があることを演じる側も観客も全員が分かっているからこそ、ちょっとした感情の揺れや、会話の不自然さがすぐに露呈してしまうものやと思っていて。だからこそ、パワーを出そうと思っても、その場に集中することが優先されるというか。確かに気持ちのいい瞬間は何度かあったんやけど、あらためて正解はないんやなと感じた。僕は、作風も相まってどんどん不安になっていって、正直に言うとすがすがしい気持ちにはなれなかったんだよね。
井上:そうやったんや。
納谷:僕が勇歩君の“僕”を見て思ったのは、勇歩君って演じながらどんどん深い穴を掘っていく感じがして、気づいたらその深みにハマっているというか。見ている側がズブズブとハマってしまうような感覚に陥るんですよね。だからこの作品って、方向性としてはそういう作品なんだろうなと思いました。特に勇歩君は普段と全然違うから、その深みが際立つんですよね。
松井:…あれ? この連載って、こうしてお互い褒め合って、こんな恥ずかしいやつやった? (笑)僕らみんな褒められるのに慣れてないからさ(笑)。
井上:まあ、たまにはいいやん! こういうのも(笑)。
(この取材は2月上旬に行われたものです)
PROFILE
「演劇で大阪を元気にしたい!」という大きな志の下、関西を拠点としたさまざまなエンターテインメントを発信する演劇集団。中山義紘、井上拓哉、松井勇歩、竹下健人、三好大貴、星璃、吉本考志、近藤頌利、田中亨、納谷健の10人で構成。井上が連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合/BSプレミアム)に出演中。4月7日(水)に東京・大千穐楽公演を収録した『マインド・リマインド~I am…~』の公演DVDが発売。詳しくはセブンネットショッピング内「ワタナベ商店」(https://7net.omni7.jp/fair/patch)へ。
●text/青柳直子