山寺:もちろん、せりふが長すぎたりして、若干言い回しや語尾を変えるといったことはたまにあります。けど、基本的には用意していただいた台本どおりに演じるというのが僕の信条ですから。そもそも、我々は完成した作品に声を当てるわけですから、勝手なことってできないんですよ。それに、台本を変えるというのは、“僕が考えるせりふのほうが面白いでしょ?”ってスタッフさんにけんかを売ってるようなものですからね。なので、僕は江原さんのようにアドリブを入れることはあまりないんです。
江原:あのね、むしろ僕が今、山寺さんにけんかを売られてる気分ですよ(笑)。アドリブに関して弁明させていただくと、確かに昔は少し砕けた言い回しにしてみたり、“せりふがちょっと足りないなぁ”という時にひと言、ふた言程度入れてみたりということはありました。もちろん、それが許される作品や監督の場合だけですけどね。それに、昔の深夜に放送していたようなB級、C級映画ってもともとの編集もずさんで、内容がよく分からないことが多くあったんです。そうした時、視聴者に分かりやすいように前半の物語をダイジェストにして入れたりしていて。そこでちょっとアドリブの味を覚えてしまって、いろいろ挑戦していた時期はありました。
◆山寺さんが吹き替えで演じる会話やギャグはどれもすごく自然なので、アドリブがほとんどないということに驚きました。
山寺:意外に思われるかもしれませんが、僕は本当に台本に忠実です。江原さんは構成力に長けていらっしゃるので、自分でせりふを構築できるんですね。しかも、江原さんが作る掛け合いのほうが流れが自然だったりする。僕にはそうした発想力がないので、ちょっとしたアドリブくらいしかできないんです。
江原:いや、山寺さんは優等生で、技術があるからアドリブが必要ないんですよ。僕の場合、“せりふをこのまま言うと尺に合わないな”って思うと、アドリブを入れて安易なほうにいってしまうことがあったんです。それが功を奏して、結果的に面白くなったこともありましたが、一方で監督によってはアドリブを却下されることもありましたね。