◆今はそうではないんですか?
江原:アドリブはほとんどないですね。というのも、最近は権利の問題もあって、あまり勝手に変えられないというのもあるんです。
山寺:そうですね。だから、それだけ最初から台本もしっかりしていますよね。家庭にあるテレビも大きくなり、高画質になってきたので、スタッフさんもものすごく話し合って、語尾の細かいところまで映像に合うように計算した台本を用意してくださいますし。
江原:昔の作品は口の動きと言葉数が合ってなかったりしましたからね(笑)。
山寺:そういえば、これは余談ですが、随分前に江原さんが吹き替えをしたエディ・マーフィの作品を、僕も別のテレビ局の放送に合わせて吹き替えしたことがありまして。エディ・マーフィが1人で何役も演じていたので、“これは収録が大変だそうな”と思って、ものすごく練習して現場に行ったんです。その結果、かなりスムーズに終えることができたんですが、あとで “江原さんは僕の半分くらいの時間で終わった”と風の噂で聞いてがく然としたことがありました。“一体どうやったんだろう?”って、本当に不思議でしたね。
江原:そんなすごいことじゃないですよ。大事なのは時間じゃなく、内容ですし。
山寺:でも正直、ずるしたのかと思いましたもん(笑)。その江原さんの吹き替え版は悔しくて見なかったですけどね。
江原:ははははは! だから、人によってそれぞれやり方があるだけで、早ければいいっていうものでもないから。それに、ディレクターさんによってかける時間も変わってくるし。
山寺:確かにね。けど、僕にとって江原さんは尊敬しかないです。“どうして、どんな役を演じてもこんなにピタッとはまるんだろう?”っていつも思いますし。だって、そもそも吹き替えって、かなり無理なことをしているわけじゃないですか。作品として完成しているものに対して、あたかもそこに登場する俳優さんが日本語でしゃべっているように見せたり、聞かせたりしないといけないわけですから。そうした中で、なんとか視聴者の皆さんに違和感なく楽しんでいただきたいという思いで我々は演じている。これって本当に難しいことですよね。