台湾在住の女優・大久保麻梨子が語る日本の魅力「空が青いだけで『画』になる」映画「種まく旅人」インタビュー

特集・インタビュー
2021年04月09日

「食」を支える農業という職業の魅力を軸に描かれる「種まく旅人」シリーズの4作目映画「種まく旅人〜華蓮のかがやき〜」に出演する女優の大久保麻梨子さん。台湾に在住する彼女が、本作の撮影で感じた「日本」の魅力とは。作品の見どころに加えて、移住を決断した理由、台湾の現状などについても聞きました。

大久保麻梨子インタビュー

◆台湾在住の大久保さん。今回の映画は新型コロナウイルス感染症の感染拡大前に日本で撮影されたとのことですが、いつもはどれくらいの頻度で来ていましたか?

新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する前は、毎月日本に戻っていました。いま住んでいる場所から台北の空港までがわりと近く、ドアtoドア3時間半くらいで東京に行けるんですよ。デビューした頃は兵庫に住んでいて、仕事の度に東京へ行っていたのですが、それと同じような感覚です。

◆私は兵庫県の北部に実家があるのですが、東京までは4〜5時間くらいかかります。それと比べたら、台北から東京のほうが移動時間は短いんですね(笑)。

確かに! もう1年近くは日本に帰ることができていませんが、以前は国内を移動するのと変わらない感覚で往来していました。

◆そもそも、台湾に移住しようと思ったきっかけは?

子供の頃から、役者への憧れと併せて、外国語を話す仕事をするという夢も持っていたんです。18歳の頃から芸能のお仕事をやってきたのですが、ふと時間が空いたときに「外国語を話す仕事って今からでもできるのかな」と思いまして。そうしたら、それまで勉強していた英語やスペイン語に加えて、中国語も学んでみたくなったんです。その後、興味が湧いて26歳で台湾へ一人旅。そのときに、「ここに住みたい!」って思ったんです。帰りの飛行機の中で、もう移住することを決意していました。

◆直感が働いたんですね。それまでも海外に行ったことはありましたか?

グラビアの撮影でサイパンやハワイなどに行くことはありましたが、お仕事以外ではほとんどありませんでした。一人旅をしたのは台湾が初めてだったんです。当時は旅行で使える中国語くらいは覚えていたつもりだったのですが、実際はあんまり通じなくて……。それでも、台湾の方々が諦めずに、私が何を話そうとしているか聞いてくれたんです。なかには日本語が分かる方をわざわざ連れてきてくれる人もいて。そういう人柄にもひかれて、気が付けば「住みたい!」「もっとこの国のことを知りたい」と思うようになっていました。

新型コロナウイルス感染症の国内感染拡大を防いだ台湾のいま

◆そうして暮らすようになった台湾。移住した頃の暮らしはどうでしたか?

住み始めた当初はワクワクしっぱなしでした。ただ、半年くらいたったときに、まだ完璧には言葉が通じない状態がストレスだったのか、じんましんが全身に出ちゃったんですよ。当日は病院に行けても、まだお医者さんが何を言っているのか完全には理解できなくて。非常に困りました。そんな時に助けてくれたのが、やっぱり台湾の方々だったんです。これまで大変なことがいっぱいありましたが、周りの人がとにかく助けてくれました。

◆あのときの直感は、間違っていなかった。

そうです。この国でよかったなと改めて思いました。近くの市場には豚が丸ごと置いてあったりカエルがいたりと、日本ではなかなか見られない光景が広がっていますが、それはもう慣れました(笑)。

◆SNSでは「名前を変更できる」ことへのカルチャーショックについてつぶやかれていました。

驚きました。先日、台湾にある日系のお寿司屋さんが「名前をシャケに変えたら、タダで食べられる」というキャンペーンを行っていたんです。台湾では原則3回まで名前を変えることができるのですが、キャンペーンに併せて300人くらいの人が改名したんですよ! 私の友達も「3回変えられるから、食べた後に変えれば大丈夫」って軽々しく言っていて、驚きました。久々にカルチャーショックを受けましたね。

◆そのエピソードからも台湾の方々の人柄を感じます。

基本的にみんな明るくて大らかなんです。活気もありますね。

◆新型コロナウイルス感染症の影響で、日本は過ごし方や暮らし方が大きく変わりました。台湾はいかがでしたか?

2020年の3月頃は、特に感染拡大防止の徹底ぶりがすごかったですね。外食する人は全くいませんでしたし、外に出る約束は基本的にキャンセル。イベント関係も中止になりました。一度、SARS(重症性呼吸器症候群)を経験しているため、「怖い」という認識がみんなにあったのが大きかったかもしれません。今でも電車内ではマスク着用必須、付けていないと乗車できない場合があるなど感染予防を徹底していますが、以前のような暮らしはある程度戻ってきています。

◆日本でも台湾の徹底ぶりや国内の感染拡大を極力防いだニュースが報道されていました。

海外から台湾へ帰ってきた人は、家から一歩でも出たら360万円くらいの罰金を払う必要があるくらい、厳しい対策が取られているんですよね。日本にいる家族と会いたいですが、私も今は我慢。早く前みたいに、台湾と日本を往来できる日が来ることを願っています。

「農業」に対する意識の変化

◆台湾に移住するという大きな決断をされた大久保さん。今回ご出演される映画でも、大きな決断を迫られる役を演じられます。

そうなんです。私が演じる凜は、平岡祐太さん演じる山田良一の恋人。良一は大阪で銀行員として働いていますが、金沢のれんこん農家を営む母から「父親(竹市)が脳梗塞で倒れた」と電話がきて、農家を継ぐかどうかを決断しなくてはならなくなります。凜は良一と結婚を考えていましたが、その話を聞いて戸惑ってしまうんですよ。

◆結婚を考えていた相手が突然「農業」をやるかどうかの選択を迫られてしまったため、戸惑った。

ただ、彼女も良一を通じて「農業」という仕事を知っていきます。加えて、栗山千明さん演じる農林水産省の神野恵子とのやりとりなどを踏まえて、さらに考え方が変わってくる。良一と凜が最終的にどういう決断を下すのかは、映画をご覧になって確かめてみてください。

◆台本を読んだときの感想も教えてください。

結婚を考えていた恋人から突然、農家の跡継ぎについて相談されたら、私も戸惑うだろうなと思いました。ただ、それって「農業」のことをよく知らないからだと思うんです。正直、「農業」は女性が活躍できるフィールドではない、農家の嫁になったら旦那さんを支える役割をしなければいけないと思い込んでいましたが、それは勘違いだったと本作を通じて気が付きました。「農業」は女性も活躍できる職業だという認識に変わったんです。

◆婚約者と一緒に農業を仕事としてやっていくこともできるし、職業の選択肢にもなり得る。

そうですね。技術の発展に伴い、体力をそんなに使わなくてもできる作業や作物も増えています。また、若い方は興味ないというイメージがありましたが、本作を通じて、その認識も改めないといけないと思いました。跡継ぎ問題は確かに存在しますが、「これからもっと発展する業界」と感じて働いている20代の方々も、たくさんいらっしゃるんです。

◆「農業」に対する認識が変わった。

大きく変わりました。小学生の頃に授業で農業体験をしたことくらいしかなかったので、今回の作品で「農業」の魅力を知ることができてよかったです。きっとご覧になる皆さんの意識も、変わるんじゃないかな。

映画を通じて感じた日本の魅力

◆映画のロケで、金沢や大阪の堺市などに訪れたそうですね。

そうなんです。日本は本当に「画」になる場所が多いですよね。なんでもない小道がすごくきれいだと感じますし、小学生がランドセルを背負って下校しているだけでも、映画のワンシーンになりそうな風景になる。金沢に滞在している間によく散策をしたのですが、青い空、畑一面に続く道が「画」になるんですよ。

◆それが、日本の魅力かもしれません。

本当にそうだと思います。みんなが町をきれいに使っていますし、お店などはホスピタリティが素晴らしい。海外に暮らしているからこそ、日本の美しさを改めて感じられました。

◆台湾の方々とも日本のことについてお話されることはありますか?

よくします。台湾の方々は日本のことが大好きなんですよ! 私よりも日本のおいしいお店やスポットに詳しいです(笑)。日本に住んでいたらわざわざ行かないような場所が、彼らにとっては素晴らしい風景なんですよね。空気が澄んでいるので、「日本に呼吸しに行こう」という人もいます。そういうことを聞くと、うれしい気持ちになりますね。

◆私、実は飛行機が怖くて大人になってから一度も海外に行ったことがなく……。ただ、今日のお話を聞いていて、海外に行ってみたいなと思いました。

ぜひ、台湾に来てください! 東京からなら飛行機に乗っている時間もそれほど長くないですし、おおらかだけどもアグレッシブな人が多いので、いろいろな刺激を受けられると思います。日本とは違って花粉が飛んでいないので、過ごしやすいかも(笑)。

◆また自由に海外へ行けるようになったら、ぜひ検討してみたいと思います。本日はいろいろとお話しくださり、ありがとうございました。最後に、今後の目標について教えてください。

芝居を続けていきたいですね。前のように往来できるようになれば日本の作品にも出演したいですし、シンガポールやマレーシアとの合作の作品もあるので、今後もいろいろな国で役者として活動していきたいです。役者はその年齢に合う役を演じられるのも魅力だと思いますので、その時(年齢)に合った役とめぐり合って、演じていきたいですね。

PROFILE

●おおくぼまりこ…1984年9月7日生まれ。長崎県出身。台湾在住。18歳のとき「ミスマリンちゃんを探せ」オーディションでグランプリに選ばれ、芸能界デビュー。2013年に台湾最大のテレビアワード「第48回金鐘獎」最優秀助演女優賞を受賞、現在も台湾で役者を中心に活動している。

作品情報

映画「種まく旅人〜華蓮のかがやき〜」
2021年4月2日(金)より全国で公開中

監督:井上昌典
脚本:森脇京子
出演:栗山千明、平岡祐太、大久保麻梨子、木村祐一(特別出演)、永島敏行、綿引勝彦、吉野由志子、柴やすよ、駒木根隆介、小久保寿人、平山祐介

STORY

大学卒業後、大阪・堺市で銀行マンとして働く山田良一にある日、故郷の金沢でれんこん農家を営む母から「父親が脳梗塞で倒れた」と電話が入る。父・竹市が倒れたことにより、畑を引き継ぐか売却か二択を迫られる良一。結婚を考えている恋人のこともあり、なかなか決断できない。戸惑いながらも父に代わって畑へと向かう良一の姿に、不安といら立ちを募らせる恋人。一方、農林水産省かられんこん農家の視察として神野恵子が金沢へとやって来るのだった−−。農業がつないでいくそれぞれの思いは、どんな結末を見出してくれるのか−−。

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●text/M.TOKU

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