日本発Netflix映画の2021年第1弾作品となる『彼女』で、DVの夫を殺害して逃避行を続けるレイと七恵を演じる、水原希子さんとさとうほなみさん。「人を愛すること」「愛する人を守ること」を描いた意欲作に、懸けたお2人の熱意や撮影エピソードについて伺いました。
◆原作コミックや脚本を読んだ時の感想を教えてください。
水原:先に脚本を読ませていただいたんですが、展開が目まぐるしくて、なんてすごい作品なんだと驚きました。そして、役者として、ここまで自分の感情をむき出しにできる作品に、そう簡単には出会えないと思いました。廣木隆一監督とぜひご一緒したかったですし、レイを演じることに挑戦したかった。ただ、原作に関しては、「必ず読まなくても大丈夫」と言われていたんです。でも、いてもたってもいられなくなって読んでしまったんですが、「読まなくても大丈夫」と言われた理由がすぐ分かりました。表情1つひとつの画力が強くて、とにかく衝撃的で原作に引っ張られそうになりました。
さとう:私はもともと原作である「羣青」の大ファンでした。2人の思いがよく分かったり、分からないなりに痛感できたり、作品に没頭しました。そして、感情移入するあまり、“もし自分が演じられるなら、どちらを演じたいか?”と勝手に考えたほどでした。今回の脚本は2人の名前など、原作と違う部分もありますが、私は七恵に当たる女性を演じたかったんです。なので、偶然にも七恵を演じるお話を頂き光栄でしたし、決まった時はとてもうれしかったです。
◆そんなレイと七恵という難役を、どのようにつかまれたのでしょうか?
水原:私はレイという役をつかんでいったというよりは、私たちの気持ちを最優先に作っていただいた撮影現場の環境に助けられたと思います。幸いに順撮りだったこともあって、どんどん気持ちをビルドアップすることができたんです。それにより、レイの不安な気持ちは不安なまま。どのシーンも、私がその時素直に感じたものが、そのまま映像に収められていく感じでした。順撮りで撮っていただけることで、感情が途切れることもなかったですし、ドキュメンタリーに近い感覚ですね。廣木監督には感謝の言葉しかないです。
さとう:確かに順撮りだったからこそ、逃亡した先々で起こることでの2人の感情は、私たちが感じるままだった気がします。それがそのまま映像に残ることで、いい体験をさせていただいたと思います。ちなみに、七恵は頼れる両親も友達もいなく、夫から暴力を振るわれているので、心の拠りどころがなく、自分の弱みを人に見せることもできない。そんな彼女にとって、特別な存在だったレイとの逃避行はかけがえのないものだったと思うし、私も希子ちゃんとの撮影は忘れられない思い出になりました。
◆まさに順撮りのロードムービーだけに、撮影エピソードも多いのでは?
水原:レイを演じるにあたって、まず運転免許を取るところから始めました。それで免許取り立ての撮影だったので、ほなみちゃんはヒヤヒヤして助手席に乗っていたんじゃないかと(笑)。でも、頑張って免許を取ってよかった! と思うくらい、空撮でのドライブシーンは、とても美しくダイナミックに仕上がっていました。まるで、レイと七恵の気持ちがあふれ出ているようでしたし。
さとう:助手席でヒヤヒヤしてたのは、ちょっとどころじゃないから(笑)。
◆苦労話やハプニングもありましたか?
水原:冒頭でレイが七恵に暴力を振るっていた夫を殺害するシーンでは、全身に血しぶきを浴びるんですが、特殊メイクの方がポンプを経由して血糊をセッティングしてくださることもあって、なかなか失敗できないんです。でも、1回目の撮りでは接触ミスか何かで、血しぶきが全く出なかったんです。とはいえ、夫役の新納(慎也)さんはすごい真剣なお芝居を続けられているし、されているし、それを見ている私はどうしたらいいか分からなくなって、不謹慎ながらカットがかかった瞬間、笑ってしまいました。でも、2回目は成功して、迫力あるシーンになりました。
さとう:私はレイとけんかするシーン(笑)。レイに押し倒された七恵もやり返して、罵声を浴びせるんですが、しっかり段取りをやった後で本番に挑んだのですが、私が変な転び方をしてしまい、反射的にマジ切れしてしまったんです。そこから始まるリアルなけんかが、そのまま本編にも使われたんですが、けがとか大変なことにならなくて良かったハプニングでした。
◆ちなみに、ドライブしながらYUIさんの「CHE.R.RY」を歌うシーンも印象的です。
さとう:脚本では「2人が高校時代に聴いていたヒットソングが、偶然ラジオから流れる」という設定で、10年前に流行していたヒット曲というくくりで、希子ちゃんと「わぁ、懐かしい!」とか言いながら候補を出し合っていたんです。それで一番ハマったのがYUIさんの「CHE.R.RY」。でも、リアルな反応をしたかったので、あえて歌詞を覚えないようにしました。
水原:それで歌詞がうろ覚えな感じで、実際に歌ってみると、あの時の感情がよみがえるようなエモーショナルな気持ちになったんです。そんな予期しない感情は、自分でも驚くほどでした。そういったスパークみたいなものは現場で起きるものなんだ、と実感しましたね。
◆やはり、お互いの演技から刺激を受けるものは大きかったですか?
水原:ほなみちゃんから、終始いろんなものを引き出されていたと思います。お互いに「あなたがいないと!」という、かなりヘビーな展開なので、2人でしがみつくしかないというか、頼り合っている極限状態みたいな感じで、どんどん2人の世界が生み出されるようでした。
さとう:私も常にギリギリな感じで、希子ちゃんから、どんどん引き出された気がします。撮影も後半になると、カメラが回ってない時でも、抱き合ったり、手を握ったり、ずっとお互いくっついているほどでした。なので、後から入って来られたキャストさんから見て、話しにくい雰囲気を作ってしまっていたかもしれません。大変申し訳ないことですが、それだけ役とシンクロしていました。
◆見どころを踏まえて、どのようにレイと七恵の「愛」を感じてほしいですか?
水原:レイは初恋の人でもある七恵と再会するまでは、仕事でも私生活でも、どちらかというとうまくいっていた方だと思うんです。それで七恵と再会したことで、まるでブラックホールに吸い込まれるかのように状況が大きく変わる中、自分というものを意識するようになったと思うんです。これまで甘やかされてきた彼女が、強引さや不器用さもありつつ、自分で決意し、全てを懸けて、生きたい人生を突き進む。そんなレイの変化を見てほしいです。
さとう:孤独だった七恵が特別な存在だったレイと再会したものの、彼女はプライドが高い女性でもあるので、自分の弱みを知っているレイを家族や恋人、友達といったカテゴリーに入れたくなかったと思うんです。そんな七恵にとって、「この人がいないと生きていけない」と言えるほど、かけがえのない存在になっていく。そこに注目しながらも見てほしいと思います。
PROFILE
水原希子
●みずはら・きこ…1990年10月15日生まれ。アメリカ出身。A型。主な出演作にドラマ『グッドワイフ』、映画「ノルウェイの森」「信長協奏曲」「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」「あのこは貴族」など。
さとう・ほなみ
●1989年8月22日生まれ。東京都出身。ゲスの極み乙女。のドラマ―(ほな・いこか)としても活躍。主な出演作にNHK連続テレビ小説『まんぷく』、Amazon オリジナルドラマシリーズ『誰かが、見ている』、映画「窮鼠はチーズの夢を見る」など。
作品紹介
Netflix映画『彼女』
Netflixにて2021年4月15日(木)より全世界同時独占配信
(STAFF&CAST)
監督:廣木隆一 原作:中村珍「羣青」
脚本:吉川菜美
出演:水原希子、さとうほなみ、真木よう子、鈴木 杏、田中哲司、南 沙良、植村友結、新納慎也、田中俊介、烏丸せつこ
(STORY)
何不自由ない生活を送るレイ(水原)と夫から壮絶なDVを受ける七恵(さとう)。高校時代から七恵に恋していたレイは、彼女のために夫を殺害。そんなレイに疎ましさと恐ろしさを抱く七恵と彼女を生かすため、全てを受け入れるレイの逃避行が始まる。
●photo/金井尭子 text/くれい響