◆三谷さんと歌舞伎作品を作るのは2作目になりますが、特に意識したのはどんなことでしょう?
「決闘!高田馬場」の時もそうでしたが、ご本人は義太夫を取り入れたりと随所に歌舞伎要素を盛り込む工夫をされていました。でも、今作に関していえば、僕は三谷さんが歌舞伎座でお芝居を作ることに意味や意義があると思っていたんです。ですので、“歌舞伎らしく”というこだわりを持つ必要はなく、極論を言ってしまえば、完成したものが果たして歌舞伎なのかどうかも、ご覧になった方が判断すればいいのではという考えでしたね。
◆なるほど。では、幸四郎さんが感じる三谷さんの舞台の魅力とは?
これは歌舞伎に限らずですが、三谷さんって、稽古で具体的な指示や細かい演出をつけることがあまりないんです。でも、出来上がってみるといつの間にか、出演者全員が三谷さんの世界の中に存在している。テンポ感も含め、見えない糸で操られているようなんですよね。そこがいつも不思議で、面白いところだなと思います。
◆まさに三谷マジックですね。
ええ。それに、三谷さんの舞台作品を拝見するとワンシチュエーションの物語が多く、そこも魅力なのですが、「決闘!高田馬場」では「ずっと場面転換しているようなお芝居を作りたい」とおっしゃっていたのが印象的でした。いっぽう、「月光露針路日本」では、登場人物たち1人ひとりの人生を描くことがやりたいことの1つだったそうで。そうやって毎回新たなことに挑戦しながらも、しっかりと三谷ワールドが出来上がっている。そこも素晴らしいところですよね。