広瀬すずインタビュー「自分だったらどうしてほしいかと考えるようになりました」

特集・インタビュー
2021年05月21日

 

広瀬すずインタビュー

吉永小百合さん主演の最新作「いのちの停車場」で在宅医療の看護師を演じている広瀬すずさん。妻の介護をする老人、8歳で小児がんと闘う少女などの物語を通して、「自分だったらどうしたいか」と「生と死」についてあらためて考えることが多い現場だったと語る。役作りのことや、豪華俳優陣との共演について話を聞いた。

◆台本を読んでどんなことを感じられましたか?

いくつかの命を見届けていくストーリーなので、演じるほうも見るほうも大変な作品になりそうだと思いました。そして考えても考えても足らない…そんな心情が多いお芝居になりそうだと思いました。でも難しそうだなと思うと同時に吉永小百合さんが咲和子という役をどう演じられるかという楽しみもありました。

◆成島出監督とはどんなお話をされましたか?

撮影前に野呂聖二役の松坂桃李さんと私は太陽でいてほしいと監督に言われました。私が演じた星野麻世はつらい過去を抱えているんだけど、それを重い過去として受け入れているのではなく、「その経験があるから」と、ある意味前を向いている人。監督が思う麻世はそんな人物像なんだなと感じられたので、現場ではそれにすり合わせていくことが多かったかもしれないです。

◆吉永さんと一緒にお芝居をしていかがでしたか?

役や作品との向き合い方がすごく丁寧だなと感じました。今はコロナ禍という状況もあるので、コンパクトに撮影していく印象があったんですが、そんな中でも吉永さんの妥協しない姿に感動しました。

◆在宅医療の看護師を演じてどんなことを感じましたか?

在宅医療の看護師は、私のイメージとは全く違っていました。もちろん全ての看護師さんに「耐える」瞬間はたくさんあると思いますが、在宅医療の看護師は精神的に「こらえなければならない」瞬間が頻繁にあり、何て言うか…仏のような心を持っている感じがしました。

広瀬すずインタビュー

◆最期の瞬間を向かえる人々と、日々接することになるので我慢しなければいけない瞬間は多そうに思います。

在宅医療の看護師さんは、目の前で患者さんが亡くなる瞬間まで、患者さんにとっての一番は何かを考えて接して、患者さんが望んだとおりのことをしていかなければならないんです。その作業は非常につらいだろうなと思いました。積極的な治療を望まず、そのまま息を引き取ることを望んでいる患者さんなら、看護師はその瞬間を待つしかない。映画ではそんな時の看護師の耐え方を柔らかく描いているんですが、演じながら「こんな瞬間を待たなきゃいけないんだ…」と思いました。何度も何度もそんな経験をしてきたであろう麻世として考えないといけないから難しい表現だなと思いました。

◆この作品を通して、在宅医療への考え方に変化はありました?

麻世を演じるにあたり、私の周りに在宅医療を選んでいる人がいなかったので自分に置き換えて考えるしかなかったんですね。そう考えたほうが、一番うそのない、リアルな気持ちに近づけるのかなと思いました。在宅医療を選ばれている方にとっては、看護師さんも含めて家族のようになっているんですね。泉谷しげるさんが演じていらっしゃる並木徳三郎さんのお宅を「まほろば診療所」の人たちが掃除したり、障子を貼り替えたりする場面があって、そこでは「医療がしやすいように患者さんの環境を整えるのも在宅医療の医師や看護師の仕事なのか」と思いました。それを自分に置き換えると、私ならそっちのほうが安心するかもとか、自分だったらこういう時はどうしてほしいかって考えるようになりました。

◆泉谷さんが愛する妻を自分で面倒みようとして、疲弊してしまう老老介護の場面も実際にあることなんだろうなと思えました。

今の状況に合った治療をして、家族を支えるのも在宅医療に従事する方々のお仕事なんだなって思いました。医療的な治療をするだけじゃないということを知らなかったので、「想像以上で大変な役だ」と現場に入ってあらためて思い知ることがたくさんありました。

広瀬すずインタビュー

◆小児がんである8歳の少女・萌(佐々木みゆ)とのシーンは胸に迫るものがありました。

子供は素直だし、うそをつかない。そんな純粋さ故にはっきりと言えるのであろう一番怖いせりふを8歳のみゆちゃんに言わせるって、なんてすごい台本なんだと思いました。現場では、もっと私が感情をあらわに出したお芝居もしたんです。でも完成した作品には、その手前までの感情表現のものが使われていました。実際の看護師さんもとてもつらくて悲しい気持ちになっているんだろうけど、そんな姿を誰にも見せずに日々過ごされているんだろうなって、監督の編集を見てあらためて思いました。

◆萌ちゃんに「死ぬって怖い?」と聞かれますよね。自分だったら何て答えていいか分からないと思いました。

分からないですよね。自分も経験していないことだし。「大丈夫だよ」と言うしかないと思うけど、でもそれを言えば萌ちゃんに「死ぬ」ということを現実として感じさせてしまう。死を前提とした言葉を突きつけなければいけないって…本当に大変な仕事だなと思いました。現場では、監督はリハーサルをする方なので、みゆちゃんはきっといろいろ考えて、たくさん練習したんだと思うんです。でも練習したからできるとかそういうことじゃなく、その場で目が合った時にそらしたくなるような圧を、小さな体からすごく感じました。

◆そんな大変な在宅医療の中で、「まほろば診療所」の皆さんが社食のように使う「BAR STATION」の食事シーンが出てくるとホッとしました。特にパオ(大きなまんじゅう)をほおばる広瀬さんがとてもかわいくて(笑)。

どんな顔をしていたか覚えてないんですけど、すごくおいしかったです(笑)。登場するご飯がすごくおいしくて。でも麻世は亡くなった姉の子供である翼君を育てているんですね。だから翼君に食べさせてあげるしぐさが見えたらいいなと思ったので、自分ではあまり食べなかったんです。でも“これは食べられる!”と思って。“食べれるだけ食べよう!”と思って、カットがかかってからも食べていました(笑)。

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◆吉永さん、西田敏行さんとの共演で、学んだことを教えてください。

目の前にあるものを全て使って、どんどん吸い込んでいくようにお芝居をされるので、すごくすてきだなと思いましたし、勉強になりました。台本どおりのことを一度やった上で、「こうしたらいいんじゃないか。ああしたらいいんじゃないか」と考えることはできるけど、その空間をどんどん吸い込んでいくのは、すごくパワーが必要だし、なかなかできないことだと思うんです。でもお二人ともすごく自然にそれをなさるんです。お二人の力ももちろんあると思いますが、いろんな経験をして人と出会って、たくさんの役を演じてこられたからこそできることなのか、“どうやったらできるようになりますか”と純粋に聞きたくなるくらいでした(笑)。

◆それについて質問はしなかった?

全く(笑)。西田さんは私が14歳の時にご一緒したことがあるんです。その時はおじいちゃん役で、ほとんど西田さんとのシーンだったんです。その時からそう思っていて、また今回の現場でご一緒して、あの時もよりもすごいし、でも変わらず貫いていらっしゃるものがある。そのすごさはどうしてなんだろうってまた思いました。

◆久々の共演で西田さんからは何か言われました?

西田さんとは日本アカデミー賞の受賞式でお会いすることが多いんです。そうそうたる皆さんの前でも、「おじいちゃんだよ〜」っていつも声を掛けてくださって(笑)。今回も言ってくださいました。お会いすると安心するし、うれしくて頑張ろうって思います。

 

PROFILE

広瀬すずインタビュー

広瀬すず
●ひろせ・すず…1998619日生まれ。静岡県出身。AB型。主な出演作に連続テレビ小説『なるぞら』、『anone』映画「海街diary」「ちはやふる」シリーズ、「三度目の殺人」「一度死んでみた」など。現在は主演ドラマ『ネメシス』(日本テレビ系)が放送中。

作品紹介

映画「いのちの停車場」
2021521日(金)より全国公開

STAFFCAST
監督:成島出 脚本:平松恵美子 原作:南杏子
出演:吉永小百合
松坂桃李 広瀬すず
南野陽子 柳葉敏郎 小池栄子 みなみらんぼう 泉谷しげる
石田ゆり子 田中 泯 西田敏行

STORY
東京の救命救急センターで働いていた咲和子(吉永)は、ある事件をきっかけに、故郷の金沢で「まほろば診療所」の在宅医師として再出発をする。さまざまな事情から在宅医療を選んだ患者と出会い、戸惑いながらも、仙川(西田)や野呂(松坂)、麻世(広瀬)らまほろばのメンバーと共に命の一瞬の輝きに寄り添っていく。その時、最愛の父が倒れてしまい…。

©2021「いのちの停車場」製作委員会

photo/干川 修 text/佐久間裕子

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