◆美咲は母親の介護に疲れ、仕事も恋愛もうまくいかず、鬱屈したり、感情を爆発させたりと、多くの“心”の表現を求められる役でした。監督からはどのようなディレクションを受けたのでしょう?
内田監督は、「台本はガイドブックだから」とおっしゃる方なんです。「その場で生まれた感情を大事にしてください」と自由にやらせてくださるので、細かな演出というのはなかったです。私も、現場に立って自然と湧き出てくる思いや言葉を台本のせりふに織り交ぜていって。“これでうまく物語を成立させられるのか…”というスリルもありましたが、とても楽しい撮影でした。ただ、すごく疲れる現場でもありましたね…あまりの美咲の人生の救いのなさに(笑)。
◆篠原さん自身は、美咲という役をどんな女性だと感じていましたか?
私の中には美咲のモデルになった女性がいたんです。もう亡くなってしまった叔母なのですが、生き方が上手じゃないと言いますか…“どうしてそんなことになってしまうの?”というような不運や不幸がよく起こる方でした。周囲との関わり合い方もあまり器用ではなく、何かと感情に走ってしまって、その結果どんどん一人になっていってしまって。でも、私は彼女の人間くささがすごく好きだったんです。いろんなことに翻弄されながらも、美しく生きようとしている姿が、輝いて見えることもあって。そうしたものを、映画をご覧になる方にも感じてもらいたいと思い、私も力を込めて演じました。
◆実際に演じながら美咲に対するイメージに変化などはありましたか?
サヘル・ローズさんが演じたマリアムさんというヘルパーの存在は、当初イメージしていなかった感情を美咲にもたらしてくれました。撮影に入る前までは、マリアムさんがそこまで自分の中でのフックになるとは思っていなかったんです。でも、サヘルさん自身が持っていらっしゃる内面の美しさが役に反映されていて、その輝きに美咲だけでなく、私も追い詰められてしまったところがありました。あまりにも美しいものを見て、自分の醜さがかえって際立ってしまい、落ち込んでしまうような。そうした感情を与えてくださったサヘルさんとのシーンはどれも、すごく印象的でしたね。