篠原ゆき子インタビュー「どれだけ救いのない人生でも美しく生きようすると姿を、力を込めて演じました」映画「女たち」

特集・インタビュー
2021年06月01日

篠原ゆき子さんが主演を務める映画「女たち」が61日(火)より全国公開。豊かな自然に包まれた田舎町で、風光明媚な景色とは正反対に、日々淀んだ生活を送る美咲(篠原)。友人の死や母親の介護など、彼女の身の回りに起きるいくつものつらい現実…。それでも強く生きようとする女性たちの姿を真正面から捉えた本作で体当たりの演技に挑んだ篠原さんに、撮影を終えての心情を伺いました。

◆重く、深く、痛みのある作品ですが、最初に脚本を読んだ時はどのような印象でしたか?

実は、この映画は企画の段階から話し合いに参加をさせていただいていたんです。ですから、物語の雰囲気も方向性もあらかじめつかめていたので、大きな驚きというのはなかったです。ただ、意外さはありました。というのも、内田伸輝監督とは2012年に「おだやかな日常」という作品でご一緒したことがあり、偶然にも共通の友人がいたことで、私のプライベートな一面もよく知ってくださっていたんですね。その内田監督が私に向けて当て書きをしてくださるというので、どんな話になるのか楽しみにしていたんです。普段の私は根明(ねあか)と言いますか、かなり明るい性格だと自分では思っているので、そういう役なのかなと思っていたら、まさかの不幸のどん底の役で(笑)。そこはちょっと不思議でした(笑)。

◆当て書きにも、その役者のパブリックイメージに合わせたものや、別の一面を引き出したいと思って書かれる場合など、いろんなパターンがありますよね。

そうなんです。きっと監督にとっては後者だったんだと思います。また、監督は最初から「生き方が不器用な人間を描きたい」とおっしゃっていて。そこは私も同意見でしたし、この作品を通して、多くの女性に共感を持っていただけたらなと思っています。

◆美咲は母親の介護に疲れ、仕事も恋愛もうまくいかず、鬱屈したり、感情を爆発させたりと、多くの“心”の表現を求められる役でした。監督からはどのようなディレクションを受けたのでしょう?

内田監督は、「台本はガイドブックだから」とおっしゃる方なんです。「その場で生まれた感情を大事にしてください」と自由にやらせてくださるので、細かな演出というのはなかったです。私も、現場に立って自然と湧き出てくる思いや言葉を台本のせりふに織り交ぜていって。“これでうまく物語を成立させられるのか…”というスリルもありましたが、とても楽しい撮影でした。ただ、すごく疲れる現場でもありましたね…あまりの美咲の人生の救いのなさに(笑)。

◆篠原さん自身は、美咲という役をどんな女性だと感じていましたか?

私の中には美咲のモデルになった女性がいたんです。もう亡くなってしまった叔母なのですが、生き方が上手じゃないと言いますか…“どうしてそんなことになってしまうの?”というような不運や不幸がよく起こる方でした。周囲との関わり合い方もあまり器用ではなく、何かと感情に走ってしまって、その結果どんどん一人になっていってしまって。でも、私は彼女の人間くささがすごく好きだったんです。いろんなことに翻弄されながらも、美しく生きようとしている姿が、輝いて見えることもあって。そうしたものを、映画をご覧になる方にも感じてもらいたいと思い、私も力を込めて演じました。

◆実際に演じながら美咲に対するイメージに変化などはありましたか?

サヘル・ローズさんが演じたマリアムさんというヘルパーの存在は、当初イメージしていなかった感情を美咲にもたらしてくれました。撮影に入る前までは、マリアムさんがそこまで自分の中でのフックになるとは思っていなかったんです。でも、サヘルさん自身が持っていらっしゃる内面の美しさが役に反映されていて、その輝きに美咲だけでなく、私も追い詰められてしまったところがありました。あまりにも美しいものを見て、自分の醜さがかえって際立ってしまい、落ち込んでしまうような。そうした感情を与えてくださったサヘルさんとのシーンはどれも、すごく印象的でしたね。

◆美しさの象徴という意味では、美咲にとって倉科カナさん演じる親友の香織の存在も大きなものでした。

はい。コンプレックスだらけの美咲にとっては、香織は誇りのようでもあり、美しくてまぶしい存在。それでいて、心のよりどころでもあったと思います。でも香織も大きな闇を抱えていて、ある日、自分の前からいなくなってしまう。美咲にしてみれば、彼女の生活の中での唯一の明るい要素であり、今にも壊れてしまいそうな美咲の心をギリギリのところでつないでいたもので。それが突然なくなってしまったわけですから、相当な衝撃だったと思います。また、香織にもいろんな事情や思いがあったにせよ、美咲の視点で見れば、香織は残酷な人でもあるなと感じました。お互い心を開いていたと思っていたのに、そうではなかったわけですし、それに気づけなかった美咲は最後の烙印を押されたようでもあって…。

◆ただ思い返すと、所々でサインのようなものが見え隠れしていましたよね。

そうなんです。2人だけで会う予定だったところに美咲が恋人を連れてきて、香織が異様なほど動揺したり。でも美咲はそこまで彼女を苦しめているとは気づけなかった。2人は子供のころから仲良しの幼なじみでしたが、どれだけ長い時間を一緒にいて相手のことを理解していると思っていても、他人のことを100%知ることはできない。それもまた難しいなと思いましたね。

◆また、娘の美咲に介護をしてもらいながらも、容赦のない罵詈雑言を浴びせる毒母の存在も壮絶で。演じた高畑淳子さんの鬼気迫るお芝居には終始圧倒されました。

すごかったです…本当にすごかった。撮影現場では、毎回とてつもない演技を目の前で見させていただいているようでした。高畑さんは本読みの時から本番と同じエネルギーで演技をされていたので、私も“これは生半可な芝居はできないぞ”という思いを感じましたし、高畑さんとのシーンが近づくにつれて、“相手役が本当に私なんかでいいのかな?”と、緊張で怖くて仕方がなくって。でも、その重圧がまさに美咲が感じているギリギリさと言いますか、精神的な追い込まれ方ともシンクロしていたので、その意味では、演じる上ですごくヒントになりました。高畑さんがいらっしゃらなければ、私はここまで全てをさらけ出すお芝居はできなかったと思いますし、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

◆2人のシーンは毎回激しかっただけに、母・美津子の最後の「ありがとう」のせりふには、ひと言では形容できない母娘の強い思いを感じました。

あのせりふは、実は高畑さんのアドリブだったんです。奇跡を見るような感覚でした。クランクアップ日の最後の最後に撮ったシーンだったのですが、私のほうが “ありがとう”という思いでした。あの瞬間は、美咲の人生、篠原ゆき子としての人生、そして私と高畑さんとの関係性に対して全てが1つにつながって、あのシーンが生まれたように感じて。一生忘れられない撮影でした。

◆また、今回の作品を拝見して感じたのは、女性が生きにくさを感じる現代社会の問題だけでなく、家族だからこそ関係性を築く難しさもあるということでした。

本当にそう思います。血がつながっているからこそ分かり合えること、許し合えることがありますが、反対に、血がつながっているからこそのこじらせもある。ですから、マリアムさんといった他者が家の中に入ってくることで、淀み切った母娘の間にちょっとだけ新しい空気が入ったりするんですよね。それに、やっぱり家族だから本当はどこかでお互い理解し合いたいという思いがあると思うんです。でも、それとは裏腹な言葉が出てしまうし、時には自分でも制御できないほどの怒りが込み上げてきたりする。誰かを殺したくなったり、死にたいと思ったり…。自分に限ってはそんな考えは浮かばないと思っていても、100%本当にないとは言い切れない。抱えている悩みの大小はありますが、誰しも美咲になりうるかもしれない。そうしたリアルさが伴った作品だなと思います。

◆ちなみに、先ほど篠原さん自身は根が明るいほうだとおっしゃっていましたが、落ち込むことってあるんでしょうか?

めちゃめちゃあります!(笑) あるんですけど、すぐ前向きに考えを変えられるんです。ありがたいことに恐らくそれほど大きな不幸のない人生を送れているからだと思います。

◆では、落ち込んだ気持ちを回復させるためにしていることは?

そうですね…一度自分を客観視して、“こうやってドーンと気持ちが沈んでいる自分も意外と好きなんだよなぁ”って考えたりします(笑)。それと、落ち込んでいた時の自分をいつか懐かしむために、今を頑張ろうと思ったり。すると一週間後ぐらいには、“そういえば私、落ち込んでいたな”って笑えていたりしますね(笑)。

PROFILE

篠原ゆき子
●しのはら・ゆきこ…神奈川県出身。A型。主な出演作に『相棒』シリーズ、『深夜食堂』シリーズ、『モテキ』、映画「ミセス・ノイズィ」「あのこは貴族」「浅田家!」「湯を沸かすほどの熱い愛」「渇き。」「共喰い」など。初のハリウッド出演映画「モータルコンバット」が2021618日(金)公開。

作品紹介

映画「女たち」
202161日(火)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

STAFFCAST
監督:内田伸輝
出演:篠原ゆき子、倉科カナ、高畑淳子、サヘル・ローズ、筒井茄奈子、窪塚俊介

STORY
美咲(篠原)は、母・美津子(高畑)の介護をしながら地域の学童保育所で働いている。東京の大学を卒業したものの、就職氷河期世代で希望する仕事に就くことができず、恋愛も結婚も何もかもがうまくいかず、40歳を目前にした独身女性である。娘を否定しつづける毒母、そんな母に反発しながらも自分を認めてもらいたいと心の奥底で願う娘。そこに「介護」という現実がのしかかってくる。お互いに逃げ出したくても逃げ出せない。ある時、美咲が唯一心のよりどころとしている親友・香織(倉科)が突然命を絶ってしまう。美咲にとって、養蜂家として自立する香織は憧れだった。美咲の心もポキリと折れ、崩壊へと向かっていく。

©「女たち」製作委員会

photo/金井尭子 text/倉田モトキ

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