明石家さんま企画・プロデュースの劇場アニメ映画「漁港の肉子ちゃん」が6月11日(金)より全国公開。そこでプロデューサーとして深く作品に関わったという明石家さんまさん、主人公・肉子ちゃんの声優を務めた大竹しのぶさん、渡辺歩監督へのインタビューを前後編で掲載。前編では本作が出来上がるまでの過程についてお話を伺いました。
◆明石家さんまさん自ら原作者の西加奈子さんに映像化を打診してから5年、ついに劇場版アニメとして公開になります。
さんま:こういうのはきりがないですね。完成しても「ここをこうすれば良かった」という悔いはたくさんありますが、プロデューサーとしては今のところ想像以上のものができています。
大竹:監督を中心に多くの人が関わって作った映画なので、たくさんの人に見ていただきたいです。ヒットしたほうがいいんだよね? 吉本としては(笑)。
さんま:吉本としては(笑)。ちょっとでも小銭が入れば喜ぶ会社やから。俺が知らん間にグッズとか作っとる! もうかると思うたんか、完成報告会に社長と副社長が来てた。
大竹:いらしてたね。私、あいさつされたよ。
さんま:珍しい! 記者会見でずっと笑っとったわ。話がそれましたが、もちろん1人でも多くの人に見ていただいたらうれしいですが、完成したことで満足しています。ホントに!
◆監督は公開直前のお気持ちはいかがですか?
渡辺:終わってしまうのかという感慨のほうが僕は強いですね。夢のような方々とお仕事ができたので。
さんま:監督にとっては(笑)。監督は年代的にも『男女7人』がど真ん中らしくて。
渡辺:そうなんですよ! 僕は(片岡)鶴太郎さんか奥田瑛二さんになったような感覚になりました(笑)。
さんま:『男女7人』なんか、今の人誰も知らん言うてるのに!
◆『男女7人』はもちろん存じ上げております。
渡辺:僕は興奮を禁じ得なかったです(笑)。僕も完成したからには、世の中に伝えたいという気持ちと、より多くの方に見ていただいていろんなものを感じ取っていただけたらなと思います。それがこの作品に魂を入れてくださった役者さん、関係者の皆さんを労うことになると思うので。
◆今回さんまさんはアニメ作品の企画・プロデュースということで、大変なこともたくさんあったのでは?
さんま:アニメ大変! 今のところ二度とやりたくないと思うくらい。当たり前ですけど時間がかかりました。構想から5年、2年前からアニメという形で作ろうということになり、その時点では監督がパパッと仕上げて、半年くらいで完成するのかなと思っていました。でも(アニメの製作が始まり)半年たって監督の説明を聞いたら、まだ10分しか仕上がっていないと。ええええっ!! 言うてから2年たってしまいました。
◆それはプロデューサーとして関わったから分かったことですね。
さんま:悲しいかな、テレビ番組の感覚が身についていて、バラエティやドラマとは費やす時間の感覚が大きく違うので、これがアニメの世界なのかと思いました。庵野秀明監督のドキュメンタリー番組を見ましたが、(自分も)ああいうふうに立ち居振る舞えばいいのかと思いましたね。庵野監督の「ゼロ号は見ません、次の仕事が始まっているんです!」というコメントがあったんですよ。俺はゼロ号を3回くらい見ましたから(笑)。でもいい経験をさせてもらいました。渡辺監督とも出会えましたしね。
◆大竹さんから見てプロデューサーとしてのさんまさんはいかがでした?
大竹:プロデューサーと監督との間で、どうやって作品を作っていくかということを詳しく聞いたわけではないんですが、画の作り方も含めて監督が説明したそうで、冒頭から5分間を1時間くらいずっとしゃべったらしく…。
さんま:そうそう!(笑) 監督が芝居仕立てでしゃべるんですよ。(作品の世界に)入ってしまって、「そこでト書きではシュシュシュシュ〜、サッサンがオートバイでブルンブルン、『おい、キクりん何してるんら』と声を掛け、猫が現れ…」と1時間くらい活弁士みたいにしゃべるのよ。あれはスタッフ一同つらかったです。どうリアクションしていいか。これをあと何十回とこれを聞かんとあかんのかと思いました(笑)。
大竹:そういう話を聞くと、(プロデューサーとして)深く深く関わって、2年間かけて作った映画なんだなと思いました(笑)。そして所々に彼ならではの小さなギャグやユーモアがちりばめられているのがすごいなと。それを監督がうまく画にしてくださったんだなと思いました。
◆監督から見たプロデューサーとしてのさんまさんはいかがでしたか?
渡辺:アニメにチャンスを下さったことがうれしかったですね。その期待に応えたいと思いました。僕はさんまさんの大ファンなので、喜ばせることができればすごいことだなと。
さんま:今日知ったんですが、渡辺監督はすごい賞をもらっていらっしゃるんですよ。
大竹:本当に今日知ったの?
さんま:うん。『ドラえもん』をやっていらっしゃるのは知ってますよ。でもそんなにすごい賞を獲ってるとは知らなかってん。申し訳ない扱いをしたなぁと。
渡辺:いえいえ(笑)。テレビで見て笑わせてもらった方に返すことができるチャンスは、なかなかないですからね。一緒にお仕事をして、あらためてさんまさんは貪欲に面白いものを追求しようとしていらっしゃるなと思いました。良いものを作ろうという熱量があるので、プロデューサーとしても素晴らしい方だと思いましたね。
さんま:悩んだシーンほど良くなりますからね。このままいってもええけど、でも待てよ、もうちょっと悩もうかというのは、舞台の時も思います。
◆アニメの製作に携わったことで、アニメならではの楽しさは見つけられましたか?
さんま:もっと以前からアニメ製作に参加していれば、現場に行って画にも関われただろうな、そしたらどれだけ楽しかっただろうと思いました。例えば、キクコをぺっちゃんこにしたい、肉子を壁にくっつけたい、そういうアニメだから表現できることっていっぱいあるんですよね。私が憧れている「ロードランナー」(『ルーニー・チューンズ』シリーズ)という昔のアニメでは、ワイリー・コヨーテというキャラクターがぺっちゃんこになったり、100m上から落ちても平気なんです。それってアニメならではじゃないですか。今回もアニメならではの表現をたくさん入れていただきましたが、アニメならもっと遊べるなと思いましたね。
PROFILE
明石家さんま
●あかしや・さんま…1955年7月1日生まれ。奈良県出身。B型。主なレギュラー番組は『踊る!さんま御殿!! 』(日本テレビ系)、『ホンマでっか!?VT』『さんまのお笑い向上委員会』(ともにフジテレビ系)など。Netflixドラマ『Jimmy〜アホみたいなホンマの話』でも企画・プロデュースを務めている。
大竹しのぶ
●おおたけ・しのぶ…1957年7月17日生まれ。東京都出身。A型。1975年映画「青春の門–筑豊編–」のヒロイン役で本格的デビュー。以降、舞台、映画、テレビドラマなど、幅広いジャンルで才能を発揮。現在、Bunkamuraシアターコクーンで上演中の舞台「夜への長い旅路」に出演している。
渡辺 歩
●わたなべ・あゆむ…1966年9月3日生まれ。東京都出身。テレビアニメ『ドラえもん』で原画、作画監督、演出などを手掛ける。主な監督作はテレビアニメ『宇宙兄弟』『恋は雨上がりのように』など。映画「海獣の子供」では第74回毎日映画コンクールアニメーション映画賞などを受賞。
作品紹介
劇場アニメ映画「漁港の肉子ちゃん」
2021年6月11日(金)より全国公開
(STAFF&CAST)
企画・プロデュース:明石家さんま
監督:渡辺歩
キャラクターデザイン・総作画監督:小西賢一
原作:西加奈子
脚本:大島里美
アニメーション制作:STUDIO4℃
出演:大竹しのぶ、Cocomi、花江夏樹、中村育二、石井いづみ、山西惇、八十田勇一、下野紘、マツコ・デラックス、吉岡里帆
(STORY)
愛情の深さからダメ男にひかれ、何度もだまされてきた母・肉子ちゃん(大竹)と、しっかりもので大人びた性格の小学5年生の娘・キクコ(Cocomi)。母の恋が終わるたびに放浪していた二人は北の港町へと流れ着く。肉子ちゃんは焼き肉屋さんで働き始め、キクコは地元の小学校に転入。キクコは女子グループの抗争に巻き込まれたり、不思議な少年・二宮(花江)との出会いを通じて、少しずつ成長し、漁港の町をどんどん好きになる。そんなある日、肉子ちゃんとキクコの大きな秘密が明らかになる。
©2021「漁港の肉子ちゃん」製作委員会
●text/佐久間裕子