明石家さんまプロデュースの劇場アニメ映画「漁港の肉子ちゃん」に出演している花江夏樹さん。Cocomiさん演じる少女・キクコに影響を与える不思議な同級生の少年を演じています。今回は小学生男子が自然と漏らす言葉を意識して演じたそうで、「声優だけど出演者の中で一番声が小さいと思います」と笑いながら教えてくれました。
◆最初に明石家さんまさんからオファーを受けられた時の状況を覚えていらっしゃいますか?
「さんまさんがプロデュースする作品でオファーを頂いたんですけど」と事務所経由で資料を頂きました。アニメーション制作を手掛けるSTUDIO4℃さんの画の感じ、ちょっと廃れた港町のノスタルジックな雰囲気がすごく良くて。「こういう作品はすごく好きなので、ぜひ参加させてください」とお受けしました。
◆出演が決まってから原作もお読みになりました?
はい。原作そして脚本を読んでどんなアニメになるんだろうかと想像しました。原作を読むと肉子ちゃんがすごく存在感がありパワフルでしたね。こんな人が存在するんだろうかと思うくらいのキャラクターなので、映像になってどれくらいのインパクトが出るのか楽しみでした。アニメの肉子ちゃんは想像を超えるくらいの画力と大竹(しのぶ)さんのお芝居とが相まって、すごくいいですよね。
◆肉子ちゃんというニックネームもインパクトが大きいですよね。
なかなか女性を肉子ちゃんとは呼べないですよね(笑)。普通は失礼だろうと思ってしまいますから。でも肉子ちゃんにはそれを感じさせない明るさがあって、男性にだまされたり悲壮な目に遭っていたりするのに、人として大切なものをずっと持ち続けて、それを信じて進み続けている。その明るさがすてきだと思いましたし、生きていく上で大切にしないといけないものだなと思いました。
◆花江さんは肉子の娘・キクコの同級生、二宮役。二宮をどんなキャラクターだと思って演じていらっしゃったのでしょうか。
二宮は物語の本筋に関わるわけではなく、キクコとの会話を通して彼女にとっての大切なものを思い出させるような、キクコを導いていくようなキャラクターです。二宮は不思議な子で会話をしているようでしていないというか。監督からは「自分の言いたいことを一方的に投げかけるような子」というディレクションがあったので、それを意識してやってみました。なので、多分この作品に出て来る登場人物の中では一番声が小さいんじゃないかなと…声優だけど(笑)。そんな印象を受けましたね。
◆小さい声ということはいつもより音量を抑える感じなのでしょうか。
二宮ってそんなに大きく口を開かないんです。だからそんなに大きな声を出さなくてもいいかなと思いました。普段人がしゃべる時って、良い声を出そうとか、響く声を出そうとは思わないじゃないですか。小学生はなおさら気が抜けている時はダラダラしゃべるだろうし。声優としての技術的なことよりも、口から自然と漏れ出た言葉のほうがいいかなと思って演じた感じでしたね。
◆今までの花江さんの声よりも落ち着いたトーンのように感じました。
今回は大竹さんとCocomiさんがメインなので、お二人のテイストに合わせようと思いました。お二人とも型にハマらないというか、声優としての技術というよりは、実写に近いお芝居をされるんだろうなと思ったんです。だから二宮もそんなに作り込まず、ただそこに立ってしゃべっているような感じをイメージしました。
◆二宮は誰も見ていないところで変顔をしたりする不思議な子ですが、共感できるところはありましたか?
僕もジッとしていられないところがあって、変顔まではいかないけど、インタビューを受けていても紙をイジってしまったりしますね(笑)。それから彼は一人であるものを作っていて、僕も小さいころは集中して没頭するタイプでした。一人っ子で一人遊びが得意だったんで。あと二宮は目が隠れるくらい髪を伸ばしていて、人と接するのがあまり得意じゃないのかなとも思いました。僕も今はそれほどでもないけど、小さいころは人見知りな部分もあって共感できましたね。
◆大竹さん、Cocomiさんとの共演はいかがでしたか?
大竹さんとはバスの中ですれ違うくらいで共演するシーンはないんですが、Cocomiさんとは少しだけ一緒にアフレコすることができました。Cocomiさんのきれいな声は、成長途中のキクコにマッチしていると思いました。Cocomiさんとは何度かお会いしたことがあって、昔声優になりたくてレッスンを受けていたことも知っていたんですね。それを踏まえてキクコの声を聞くと、「(夢がかなって)よかったね。こんなにしゃべっているよ」という感動もありました(笑)。
◆Cocomiさんとのアフレコにはさんまさんもいらっしゃったのでしょうか。何かディレクションはありましたか?
さんまさんもいらっしゃいました。せりふを言う時に僕がかんでしまったので、「かまないように」と言われました(笑)。
◆下野さんも出演されていますが、きっかけはお二人で出演された『新春大売り出し!さんまのまんま』でした。出演が決まった時にご報告はありましたか?
事務所経由で「下野さんの出演も決まったよ」というお話は聞いたので、違う現場で会った時にその話になりましたね。下野さんのトカゲとヤモリの声を聞いたのは完成した作品を見た時が初めてだったので、要所要所でしゃべっていて、この作品にとってかなり良いアクセントになったと思いました。
◆この作品は家族愛が大きなテーマの1つですが、お子さんが生まれて感じ方は変わりましたか?
今まで親目線で作品を見ることはあまりなかったのですが、子供が生まれたばかりだったので、今回は肉子ちゃん側にかなり気持ちが乗ってしまいました(笑)。彼女にとってのキクりん、キクりんから見た肉子ちゃん、どちらの気持ちもすごく分かるので序盤から駄目でしたね。二人の何気ないシーンでもウルっと来てしまいました。肉子ちゃんとキクコを見て、どれだけ一緒にいて愛情を注いだか…気持ちの面でのつながりが大事なんだって思いました。子供はあっという間に大人になってしまうから、少しでも子供に残せるもの、伝えられるものって何だろうって考えましたね。
◆キクコちゃんは思春期に入る直前ですが、そんな女の子の日常を見て何か感じたことはありました?
女子は絶対に大変ですよ! 映画でもクラスの中での女子のチーム分けが描かれいるじゃないですか。あんなこと本当にあるのかなってドキッとしました。僕の経験上、男子はあそこまで露骨にすることはなかったので、(うちの子も)あんな経験をするのかなって考えたりしました(笑)。
PROFILE
花江夏樹
●はなえ・なつき…1991年6月26日生まれ、神奈川県出身。『東京喰種–トーキョウーグールー』の金木研、『四月は君の嘘』の有馬公生などで人気を集める。主人公・竈門炭治郎を演じている『鬼滅の刃』の新作『~遊郭編』のテレビアニメ化も決定している。
作品紹介
劇場アニメ映画「漁港の肉子ちゃん」
2021年6月11日(金)より全国公開
(STAFF&CAST)
企画・プロデュース:明石家さんま
監督:渡辺歩
キャラクターデザイン・総作画監督:小西賢一
原作:西加奈子
脚本:大島里美
アニメーション制作:STUDIO4℃
出演:大竹しのぶ、Cocomi、花江夏樹、中村育二、石井いづみ、山西惇、八十田勇一、下野紘、マツコ・デラックス、吉岡里帆
(STORY)
愛情深い故に何度もダメ男にだまされてきた母・肉子ちゃん(大竹)と、しっかりもので大人びた性格の小学校5年生の娘・キクコ(Cocomi)。母の恋が終わるたびに放浪していた二人は北の港町へと流れ着く。肉子ちゃんは焼き肉店で働き始め、キクコは地元の小学校に転入。キクコは女子グループの抗争や、不思議な少年・二宮との出会いを通じて、少しずつ成長し、漁港の町をどんどん好きになる。そんなある日、肉子ちゃんとキクコの大きな秘密が明らかになる。
©2021「漁港の肉子ちゃん」製作委員会
●photo/金井尭子 text/佐久間裕子