「彼女来来」で長編映画デビューを飾った劇作家・演出家の山西竜矢さん。劇中“恋人が別人に入れ替わる”という奇妙な事象に翻弄される主人公・紀夫を演じた前原滉さん。そして、失踪した茉莉に代わって現れる謎の女・マリを演じた天野はなさん。奇妙な物語を奏でた3人に、意外な撮影裏話などを伺いました。
◆この奇妙な物語の構想は、どこから始まったのでしょうか?
山西:自分は恋人に「君だけだよ」みたいな甘い言葉を結構言ってしまうタイプなんですが、そういう感情的な言葉や行為を俯瞰で見ている自分もいて、そのことにどこか気持ち悪さを感じていました。昔の恋人と行った場所に、今の恋人を連れていってしまうとか、昔の恋人とちょっと顔が似ている人を好きになってしまうとか…。誰にでもあると思うんですが、そういう“恋愛の気味の悪さ”を切り取った映画を作りたいと。前の恋人と次の恋人の間に時間が流れているから、特に変には見えないけれど、その時間がスポッとなくなったら、どう見えるのか。そう考えたのがこの物語の最初でした。
◆演者としては、どう脚本を読み、どう演じるのがベストだと思いましたか?
前原:いい人や悪い人、クセのある人やない人、僕はこれまでいろんな役を演じましたが、役作りする上で、自分とその役の間に別のキャラクターみたいなものを作ることが多かったんです。でも今回に関して言うと、台本を読んだ時にいつものように別のキャラを作るのではなくて、より自分に近いものにしようと思ったんです。それだけ紀夫は日常に近い役柄という印象が強かったですし、僕にとってチャレンジでもありました。
天野:最初に台本を読んだ時に、マリを中心に読んでいるとうまくつじつまを合わせられなかったことを覚えています。だから“マリの感情を演じよう”“筋を通そう”とすると、すごく難しくて…。でもクランクイン前に、監督から「つじつまが合わないと思うかもしれませんが、マリがどういう人かというアプローチではなくて、そこに存在してください」と言われました。つまり、「シーン事で違うマリになってもいい」ということだったので、そこを頼りにして演じることにしました。
◆マリは奈緒さん演じる茉莉に、どこか似せようという意図はあったのでしょうか?
山西:茉莉とマリは違う人物なんだけど、2人の女優さんの持っている質感やニュアンスに関しては、どこか似ている雰囲気にしたいという思いはありました。ただ、現場で演出として、意図的に似せていこうという話は、天野さんとも奈緒さんともしていません。
天野:私も意識していませんでした。奈緒ちゃんは、もともとお友達なんですが、お互いに似てるねといった話をしたこともないし、そんなことを言われたこともないんです。でも作品を見た方から「2人の声が似ている」という意見を頂いて、ちょっとびっくりしました。
山西:作品の醸し出している雰囲気が「2人は似ている」とより思わせているのかもしれないですね。
◆現場で大変だったことなど、撮影時のエピソードを教えてください。
山西:昨年6月の撮影だったので、とにかくコロナ対策が大変でした。時期的にもガイドラインがまだ手探り状態で。ただ、現場は楽しかった印象が強いです。単純にチームとして空気がよかったのもありますし、僕はこれまで演劇の演出をやってきたのですが、違う大変さはあるにせよ、映画は演劇と比べていろんなことが分業されているので、頼もしいスタッフ・キャストのおかげで、作品全体の演出について集中して考える時間がじっくり取れたような感覚があり、新鮮でした。
天野:前原さんと私はお互いにクイズ大会したり、うそをつき合ったり、笑い合っていたり、めちゃめちゃコミュニケーションを取っていました(笑)。現場で大変だったことが思い出せないくらい楽しかったです。
山西:この映画を見た人が想像されるような現場の空気じゃなかったと思いますね。基本的に和やかでした。
前原:いい意味で、あほっぽいすてきなチームになっていました(笑)。こういうやりとりが苦手な役者さんもいると思うんですが、僕たちは心地良かったんです。ただ、僕個人としては、まだ主演というものがよく分かってなくて、そういう葛藤みたいなものはありました。歯車としての主演と、漕ぎ手としての主演。どちらであるべきか? 結果的には、潤滑油として流れに身を任せました(笑)。
天野:前原さんは、私がお芝居で悩んでいる時にポロッとアドバイスを下さったり、現場で助けてくださいました。
◆Vampilliaのバイオリニスト・宮本玲さんが奏でる独奏も印象的です。
山西:プロット段階で、「音楽は楽器一本でいこう」という話をプロデューサーとして、宮本さんのバイオリンに決めました。バイオリンという楽器は、幸せな音から不穏な音まで音色の振り幅があって、恋愛の二面性みたいなものを描いた今回の作品に通じる部分があると思ったからです。メインテーマ以外は即興で当ててもらうなど、作品に寄り添って音楽をつけていただいて、すてきな仕上がりになったと思います。
前原:現場では、このシーンでどんな音楽が流れているかということを考えて演じていないので、完成した映画を見てシンプルに音楽って効果的だなと思いました。いいあんばいで映像と融合していました。
天野:撮影している時は淡々とシーンを重ねていた印象があったのですが、音楽が付いたことですごく色が加わったというか、より表情が豊かになっていて驚きました。
◆キャストのお二人がお好きなシーンは?
前原:紀夫が家に帰ると、自分の家族がマリと楽しそうに食卓を囲んでいるシーン。めちゃめちゃ怖いし、自分で演じていてもどうしていいか分からない感じとか面白いと思いました。
天野:台風が来ることで、2人で一緒に窓にテープを貼るとか一緒にラーメンを食べるとか、ちょっとずつ生活になじんでいくシーンです。音楽もいい感じに流れていて、とても印象的でした。
◆本作をどう見てもらい、感じてほしいですか?
山西:カフカの「変身」や安倍公房の「砂の女」みたいな、いきなり奇妙なものと共同生活することになってしまう不条理劇のような雰囲気もあるのですが、自分の中では、はっきり恋愛映画だと思っています。人と人の関係はどう消えて、どう生まれるといった人間関係に焦点を当てて見てもらえたらうれしいです。
前原:とても余白が多い作品だと思います。自分から一本線を引いた物語として捉えることもいいですが、あえて自分事として見ると、また違った見え方ができる面白い作品だと思います。
天野:どこか他人事には思えなくもあり、「これって否定もできないでしょ?」という物語だと思います。映画館で見て不思議な気持ちになってもらいたいです。
PROFILE
前原 滉
●まえはら・こう…1992年11月20日生まれ。宮城県出身。主な出演作にNHKテレビ小説『まんぷく』、『あなたの番です』、映画「とんかつDJアゲ太郎」など。
天野はな
●あまの・はな…1995年9月1日生まれ。愛知県出身。主な出演作に『そして、ユリコは一人になった』『年下彼氏』、舞台「転校生」など。
山西竜矢
●やまにし・たつや…1989年12月26日生まれ。香川県出身。俳優・脚本家・演出家・映像監督として活躍。2016年に演劇ユニット「ピンク・リバティ」を立ち上げる。主な監督作に短編映画「さよならみどり」など。「彼女来来」が初の長編映画となる。
作品紹介
映画「彼女来来」
2021年6月18日(金)より東京・新宿武蔵野館ほか公開
(STAFF&CAST)
監督・脚本・編集:山西竜矢
音楽:宮本玲/Vampillia
出演:前原滉、天野はな、奈緒、村田寛奈、上川周作、中山求一郎、葉丸あすか、大石将弘、 千葉雅子 ほか
(STORY)
都内郊外のキャスティング会社で働く佐田紀夫(前原)。彼には交際3年目になる恋人・田辺茉莉(奈緒)と穏やかな毎日を送っていた。ある夏の日。紀夫が家に帰ると、窓から強い夕陽が差し込んでいた。焦げるようなその日差しを目にした瞬間、紀夫は奇妙な感覚に襲われる。気づくといるはずの茉莉の姿はなく、代わりに見知らぬ女性(天野)の姿が。困惑する紀夫にその女性は「マリ」と名乗り、ここに住むためにきたと言いだす。
©️「彼女来来」製作委員会
●photo/干川 修 text/くれい響
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2021年7月1日(木)23:59