「“つながる”ということがこんなにも心強いんだと思えた」
◆人だけではなく、曲との出会いも大きいんでしょうね。今作でも「陽だまりのある場所」では神前 暁さんと初タッグを組まれていますが、そういった新たな出会いも未来につながっているのでは?
もちろんどの出会いが欠けても今の私にはたどり着けていないし、その時々のご縁を大切にしたいなといつも思っています。私がレギュラー出演している『Anison Days』(BS11)という番組に、アニソン界の神様であります、作曲家の神前 暁さんがゲストに来てくださった時に、神前さんの楽曲をカバーさせていただいて。あまりにも温かくて切ない、その美しい世界に心が震えて涙が出たんです。その時からいつか神前さんに曲を書いていただきたいなと思っていたので今回オファーさせていただいたら、快く引き受けてくださって。実は、初対面の時に神前さんも私に「曲を書きたい」とおっしゃってくださっていたんです! もう“神曲誕生!”でしたね。
◆そのくらいの感動があったと。
初めて聴かせていただいた時に、理屈では説明できない涙があふれてきて…。私は細胞レベルで(神前さんの曲が)好きなんだなと思いましたね。それで歌詞を自分で書かせていただいたんですが、ちょうどその制作中に故郷・福岡の長年愛され続けた遊園地が閉園するというニュースが入ってきたんです。すごく胸を痛めたんですが、そのことを作詞しました。
◆実体験にもとづいて書かれた歌詞なんですね。
始まりから終わりまで1粒残らず、全部実話です。福岡の「かしいかえん シルバニアガーデン」は昭和30年代に開園してからずっと愛され続けてきた場所だったんです。私は2歳から家族とよく行ったんですが、緊急事態宣言などの影響で幕を閉じることになって。失うことへのやるせない気持ちとこれまでの感謝の気持ちと。日常生活が一変していく中で“私たちはどうやって目標や夢に向かって生きていくのか”。祈るような気持ちで紡いでいった歌詞ですね。
◆どの曲にも森口さんの“人生”を感じるというか。ただ歌が上手いだけではできない、深い感情をこめた表現だからこそ、聴いた人の心も動かせるんだと思います。
一番うれしいコメントですね。やっぱり「歌が上手いね」と言われるより、「感情が動く」と言われるほうがうれしいんです。この曲には“こういうことを伝えたい”というものをこめて、歌っているわけだから。なので単に「歌が上手い」と言われているうちは、まだまだだなと思っています。
◆技術だけではなく、今までの人生で積み重ねてきた経験がこめられた歌だからこそなのかなと。
私よりも歌が上手い人たちが地球上にたくさんいるにもかかわらず、ファンの皆さんが私を選んでくれたということもすごくうれしくて。言葉を超えた何かを感じてくれたんだなと思うし、その想いに支えられたきた35年間でしたね。例えばデビュー曲としてオープニングテーマを歌わせていただいた『機動戦士Zガンダム』は、作品自体も長年愛されているわけじゃないですか。そしてこの年齢になったからこそ、売野雅勇さんの哲学的な美しい歌詞の意味がやっと分かりはじめました。私、毎日エゴサーチするんですが、SNSなどで「あの曲自体もすごく良いけど、森口博子があの声で歌うから良いんだよな」というコメントとかを見ると、私が歌う意味というものも確認できてホッとするというか。
◆「陽だまりのある場所」の“距離を超えた声に 励まされここに立ってる”という歌詞が象徴的ですよね。
まさにそうです! このアルバムには、今、世界中の人たちが戦っているこの昨今だからこその心情が表れた曲ばかりが入っていて。昔から温めていたというよりは、この状況で感じることをそのまま詰め込みました。日常生活が様変わりする中で“つながる”ということが、こんなにも心強いんだと思えたんですよね。故郷の家族や友人の存在も含めて。そしてファンの皆さんのコメントを見ることで温かい気持ちになれたり、“大丈夫だ。私だけじゃないんだ”と感じられたりもして、みんな同じ気持ちでいられるというのを確認できたことがすごく大きかったなと思います。