◆ちなみに、倉持作品に出演される方からはよく、演出席でずっとポーカーフェイスでいる倉持さんに、最初は少し戸惑うという話を聞きますが…。
確かにポーカーフェイスでした(笑)。でも、戸惑うことはなかったです。マスクで細かな表情までは読み取れませんでしたが、それでも優しい雰囲気をまとっていらっしゃったので、緊張を感じることもなくって。あ、ただ福岡公演の最終日に、マスクを外して笑っているお顔を拝見する瞬間があったんです! それがすごくうれしくて。“倉持さんってこんな表情で笑うんだぁ”と、思わず隠し撮りで動画を撮りました(笑)。
◆(笑)。「DOORS」は“そうであったはずの世界”と“こうなってしまった世界”を行き来する、ファンタジー要素の強い物語でした。公演を終えてみて、あらためてどのような作品だったと感じていますか?
この舞台は、主人公の真知が何事にも悲観的な母親に対していら立ちを抱いているところから始まるため、いつもスタートのシーンでは、“私(真知)はいつか母親のことを受け入れられるようになるのだろうか?”という感情を作っていました。ただ、物語の中で、ある日突然、母親の中身が明るい人間に入れ替わってしまうという、とんでもないことが起きるんですね。そのことで真知の中にも普段とは違うギアが入り、同時に、母親に対する愛情や本当の気持ちが心の奥のほうからあふれ出てきて、少しずつ反発も薄れていくんです。そして最後には、ささやかだけど力強い一歩を踏み出し、救われた気持ちにもなる。こうした希望に満ちたラストは、今、世の中はいろんな大変なことがあって、“それでも生きていかないといけない”という思いにもリンクしているように感じました。また、舞台をご覧になった方からも、“少し強くなった最後の真知の姿が印象的だった”という言葉をたくさん頂いて。私が台本を読んだ時から“皆さんに届くといいな”と思っていたことが、しっかりと伝えられたのかなと感じています。