恐るべき再現率で、見る者に驚きと感動を与えた加藤諒さん演じる舞台「パタリロ!」。今年1月には名作と名高い「霧のロンドンエアポート」編を舞台化し、さらなる話題を呼んだ。CS衛星劇場では、この最新作と過去の2作品、そして劇場版を一挙放送。そこで、加藤さんにこれまでの作品を振り返っていただきつつ、自身が役に懸ける思いや見どころをたっぷりと伺った。
◆舞台「パタリロ!」の第3弾「霧のロンドンエアポート」が今年1月に上演されました。あらためて振り返っていただくとどのような舞台でしたか?
今回はコロナ禍ということで、稽古前からいろんな不安がありました。でも、誰一人欠けることなく、無事に千秋楽を迎えられたことが何よりもうれしかったです。もちろん、不安は僕らだけじゃなく、お客様にもあったと思うんです。それでも多くの方が劇場に足を運んでくださり、たくさん笑ってくれて。千秋楽では、そうした皆さんの“パタリロ愛”をあらためて強く感じましたし、カーテンコールの時は一気に思いがこみ上げてきて、つい泣いてしまいしたね…。僕は、「パタリロ!」の舞台では絶対に泣かないと決めているのですが、あの時だけはちょっと我慢できなかったです(苦笑)。
◆また、今回の「霧のロンドンエアポート」ではキャストが一新されました。演じる上で変化を感じることはありましたか?
ものすごく若返ったなという印象が一番にありました(笑)。過去の2作品では年齢的に僕が中間くらいの位置で、お兄さまたちがたくさんいるカンパニーという感じだったんです。でも今回は僕が上から数えて3番目くらいで。あまりにフレッシュすぎて、最初のころはみんなとどう接していいのか分からず、歌姫役の中村中ちゃんや魔夜メンズの小沢道成さんと一緒に、コミュニケーションの取り方についてちょくちょく会議を開いていましたね(笑)。
◆この「パタリロ!」シリーズの演出を手掛ける小林顕作さんとは1作目からタッグを組んでいらっしゃいます。これまでの演出で強く印象に残っていることはありますか?
一度、パタリロの役作りですごく悩んでいる時期があったんです。その時に顕作さんが放ったのが、「パタリロって腹黒いでしょ。諒君も腹黒いじゃん。だから普通にやればいいんだよ」という言葉で(笑)。その時は正直、ドキッとしました(笑)。でも、その言葉があったからいろんなことに吹っ切れて、どんどん挑戦していこうという気持ちになれたのを覚えています。また、顕作さんは劇中の歌も全て作詞・作曲されているのですが、レコーディングがものすごく早いんです。基本的にほぼファーストテイクのみ(笑)。今回の舞台でラストに歌う曲もサビのキーが高くて、声が裏返りそうになったんですが、「それでOKです!」と言われて。“顕作さん、恐るべし!”と思いましたね(笑)。
◆なお、8月の衛星劇場では3本の舞台作品と劇場版を一挙放送致します。それぞれのお気に入りのシーンを挙げていただくと…?
舞台1作目で印象に残っているのはマライヒ(佐奈宏紀)とバンコラン(青木玄徳)の長いキス! 公演を重ねるごとにどんどん時間が長くなっていったんです(笑)。「パタリロ!」は原作の連載が始まったのが1970年代で、BL漫画の先駆けとも言われているのですが、1作目の時の佐奈ちゃんと玄ちゃんは“本当に付き合ってるんじゃないの!?”と思うぐらい普段から仲が良くて。その関係性が舞台上でも表れていると思います。2018年の「★スターダスト計画★」は個人的に原作でも大好きなエピソードで、舞台版ではさらに「FLY ME TO THE MOON」というもう1つの人気のエピソードも盛り込まれているんです。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、どちらもすごく感動的なお話ですし、パタリロが心の底から泣くシーンがあり、その場面を演じられたことがうれしかったですね。ちなみに、この涙のシーンがあったから、僕は今後、「パタリロ!」の舞台では演技以外で絶対に泣かないでおこうと心に決めたんです。でも何度も言いますが、「霧のロンドンエアポート」だけはちょっと堪え切れなかったです…。
◆では、劇場版と最新作「霧のロンドンエアポート」はいかがでしょう?
劇場版は舞台の1作目をさらにスケールアップしたものです。数少ない外ロケの中で、マライヒがバンコランを見つめるシーンがあったのですが、夕陽が後光のように射していて、それが本当に素晴らしくて。監督の顕作さんも、そのシーンを撮った瞬間、「勝った!」と思ったそうなので、ぜひ見ていただきたいです!「霧のロンドンエアポート」はバンコランの心の葛藤が繊細に表現されています。舞台「パタリロ!」シリーズはどれも笑いと感動のバランスがすごくよく取れた作品で、そこが見どころでもあるのですが、最新作は感動の要素がこれまで以上に強くなっていますね。…まぁ、そんなすてきな雰囲気をパタリロたちがぶち壊すんですけど(笑)。
◆(笑)。お話を聞いていると、加藤さんもバンコランとマライヒの恋模様にキュンキュンしているんですね。
はい! バンコランとマライヒの純粋なラブストーリーは「パタリロ!」において重要な部分の1つですし、それを役者さんたちもすごくピュアに演じていらっしゃるので、いつも“すてきだなぁ〜”と思いながら、本番でも舞台袖からのぞいて見ています(笑)。
◆劇場版を含めると、加藤さんはこれまでに4作品でパタリロを演じていらっしゃいます。あらためて、「パタリロ!」を実写化する面白さはどんなところだと感じていますか?
そもそも、「パタリロ!」は実写化不可能と言われていたんですよね。いろんな方から「無理でしょ!」ってすごく言われましたし(笑)、僕自身も原作を読んで、「えっ、これをどうやって舞台でやるの?」と、ワクワクとドキドキでいっぱいでしたから。でも、稽古や本番を重ねていくうちに、いい意味でのチープさやアナログ感が魅力なのかなと感じるようになりました。例えば、パタリロの足が高速で動く“ゴキブリ走法”は漫画だからこその表現ですし、人間には無理だと思っていたんです。家でちょっと練習もしたんですが、“これじゃあ見えないな”って諦めましたから(笑)。でも、顕作さんからゴキブリ走法のイラストを手に持って動かすという方法を提案していただき、“なるほど!”と思ったんです。
◆確かにあのゴキブリ走法の表現の仕方には“やられた!”と思いました。
だって、あの手法をファンの方がSNSで紹介したら、“いいね!”が10万も付きましたからね(笑)。そうした舞台ならではのアナログな表現で「パタリロ!」の世界を形にできるのも、実写の面白さの一つだなって思いますね。
◆原作者の魔夜峰央先生から感想をお聞きすることはあるんですか?
はい。みーちゃん先生(魔夜)とはこれまでにも何度かお話をさせていただき、今回の舞台も千秋楽を見てくださいました。面白かったのが、今回はカーテンコールの後に、最後のお客さんが劇場を出られるまで僕と顕作さんでステージ上からお見送りをするということをしていたんですね。そうしたら、みーちゃん先生が「俺も仲間に入れろ!」って急遽登壇されて(笑)、トークに参加してくださったんです。その時、「この『霧のロンドンエアポート』はぜひいつか再演してほしい」とおっしゃってくれて。そんなことを言われたのは初めてだったので、すごくうれしかったですね。それに、「デミアンの話もまた書きたいな」と話されていたので、もしかしたら僕たちがみーちゃん先生の創作意欲に火を付けられたのかなと思って、幸せな気持ちになりました。
◆そうした話を聞くと、先生と一緒に作っている感じがしますね。
ただ、先生は『パタリロ!』を書く時、勝手に筆が動いちゃうんですって。ですから、以前「僕が演じるパタリロに引っ張られることってあるんですか?」と聞いたら、「それはないから大丈夫!」と言われました(笑)。「だからこそ、諒君は自分が思うパタリロを演じればいいんだよ」って。
◆それはある意味、先生から認められているということでは?
どうなんでしょう…(笑)。でも、「パタリロを演じられるのは加藤諒しかいない!」と言ってもらえているのはすごくうれしいです。それに、僕にとっても「パタリロ!」は初めて主演を務めさせていただいた舞台なので、ターニングポイントでもありますし、本当に一生続けていきたい作品ですね。
◆最後に、放送を楽しみにされている方にメッセージをお願いします!
『パタリロ!』は原作も舞台も映画もギャグ要素の高い作品で、そうした中にいろんな争いごとや恋愛要素がたくさん盛り込まれています。もちろん、全て架空のお話ですが、僕らが生きる現実世界と通ずるところがある。ですので、パタリロが繰り出すドタバタにおなかを抱えて笑ってもらいつつ、戦争のことや同性愛のことなどについても、少し目を向けていただく機会になってもらえるとうれしいなと思います。また、作中にはいろんなキャラクターが登場し、みんながみんなパタリロに振り回されていきますので(笑)、皆さんもマリネラ王国の国民の一人になった気分で見ていただければ、より一層楽しめると思いますよ。
PROFILE
●かとう・りょう…1990年2月13日生まれ。静岡県出身。2000年、『あっぱれさんま大先生』でデビュー。大学では舞台を学び、野田秀樹に師事。2010年にはNODA・MAP『ザ・キャラクター』にも出演。その後も舞台『押忍!!ふんどし部!』、『人間風車』、『真夏の夜の夢』など多くの話題作に出演。現在、映画『老後の資金がありません!』の公開が控えている。
作品情報
舞台「『パタリロ!』~霧のロンドンエアポート~」
CS衛星劇場 2021年8月22日(日)後 8・15~
(STAFF&CAST)
原作:「パタリロ!」魔夜峰央(白泉社刊)
脚本:池田テツヒロ
演出:小林顕作
出演:加藤諒、宇野結也、後藤大、川上将大、原嶋元久、田口司、佐川大樹、大久保樹、江本光輝、中田凌多、星豪毅、奥田夢叶、小沢道成、中村中
(STORY)
原作でも屈指の名作と呼ばれる「霧のロンドンエアポート」編を舞台化。MI6の新たな任務についたバンコラン。そのパートナーとは、かつての親友であり、先輩でもあるデミアン・ナイトだった。再会を喜ぶも、バンコランにはデミアンとの間に忘れたい記憶があった。バンコランの様子の変化に気づいたパタリロは2人の過去を探るべく、過去にタイムワープする…。
© 魔夜峰央/白泉社 © 舞台「パタリロ!」製作委員会
CS衛星劇場の8月22日(日)は「パタリロ!」の日! 午後1時30から舞台&劇場版&アニメの5作品を一挙放送!!
●text/倉田モトキ