日本映画史を飾る作品の製作、興業を続けてきた松竹映画の100周年を記念した映画「キネマの神様」が8月6日より公開中。劇中で北川景子さんは昭和の名女優らを彷彿とさせる銀幕のスター・桂園子を演じています。山田組への初参加となったこの作品には、北川さんの人生の大きな節目も映し出されています。
◆初めての山田洋次監督作品へのご出演となりますが、山田組に参加されていかがでした?
とても緊張しました。松竹映画100周年記念作品という特別な作品ですし、山田監督と言えば、数々の名作を生み出され、本当にたくさんの素晴らしい銀幕女優を実際に撮ってこられた巨匠ですから。今回の脚本は、原田マハさんの原作を基に監督も執筆されていて、ストーリーも私が演じた園子という役も原作とは違います。きっと監督がこれまで見てきたすてきな女優さんたちの思い出や、実際お会いになって心に残ったいろんな方々のエッセンスが詰め込まれた役柄なんだろうなと、脚本を読んだ時に分かりました。そんなすてきな女優さんを見てきた監督の前で、銀幕女優の役をやるのは日々プレッシャーでしたし、「自分でいいのかな」とも思いました。まだ自分が生まれていない、実際に見ていない時代の女優さんの役を演じることになるので、想像するしかないですから。
◆北川さんが抱く銀幕女優のイメージを教えてください。
当時の銀幕女優って今の女優よりも、もっともっと特別な存在だったと思います。いわゆるスターで、お客様が「この女優さんが見たい」という思いを抱いて映画を見に行くような雲の上の存在。映画以外の娯楽も少なかっただろうから、本当に選ばれた方だけがスクリーンに映っていた時代だと思うので。昔の映画を見て「この人みたいになりたい」と思いながら演じても成り切れていないんじゃないのかなって思いを毎日感じていました。何て言うのかな…言葉じゃない、雰囲気の説得力。匂い立つような佇まいがあり、まとっている空気みたいなものまで銀幕女優になることはすごく難しかったし、やる前もそれがすごく不安で、クランクインしてからもそこがずっとネックでしたね。現代に生きている自分が、当時の銀幕女優の雰囲気を醸し出す…それが作品を通して自分にとってのテーマになっていたと思います。
◆とても美しい銀幕女優として作品の中に存在していらっしゃったと思います。特別な雰囲気をまとうためにどんな準備をされましたか?
いろんな衣装やカツラも何パターンか準備していただきました。「東京物語」のオマージュになっているシーンがあり、そこは原節子さんが身につけているものとそっくりの衣装やカツラを身につけて、メイクもしていただきました。今回は現場に結髪(髪を結う職人)さんもいらっしゃって、皆さんが作り上げてくださったものにとても助けられましたね。女優である園子の扮装をして、その時代のセットの入ると本読みではつかめなかったものがちょっとつかめた気がしました。
◆山田監督から当時のお話を聞かれたりもしたのですか?
撮影の合間に監督が「撮影が終わった後は、食堂でみんなとご飯を食べた」、「原節子さんはカジュアルで大きな口を開けてカラッと笑う方で、役とのギャップがとてもすてきだった」といった撮影所時代の女優さんのお話をたくさんしてくださったんです。劇中には園子が主婦を演じたり、プライベートで菅田(将暉)さん演じるゴウちゃんたちと出かけるような、“素”の園子のシーンもあるので、監督のお話から、女優として表に出ている時と、仲間たちと接している時、それぞれの園子の雰囲気を変えられたらいいなと思いついたり、そんなふうに監督が合間にしてくださった思い出話にイマジネーションをかき立てられました。他にも昔の女優さんの画像を検索したり、撮影所にあった原さんの写真集や、松竹映画の過去の名シーンがいろいろ載った本も見ました。その上で「こんなメイクはどうだろう」とスタッフの皆さんと話し合いながら園子を作り上げていきました。
◆北川さんが登場される過去の撮影所パートは菅田将暉さん、永野芽郁さん、そしてRADWIMPSの野田洋次郎さんと共演されています。皆さんと共演した感想をお聞かせください。
皆さん、共演するのは初めてだったんです。他の作品で見る菅田さんを器用な方だなと思っていたんですが、実際にお会いするとひょうひょうとされていて、でもパッションがある方でした。熱くて若くて、まだまだ未来が広がっていて、ゴウちゃんと重なる部分が多いと思いました。関西の方だからかフレンドリーで、私も関西出身なのですごく話しやすかったです。芽郁ちゃんはかわいい! 現場でみんな「かわいい、かわいい」と言っていましたが、監督もメロメロで(笑)。芽郁ちゃんがいるとその場がパッと明るくなるんです。芽郁ちゃんが演じた淑子ちゃんと一緒のシーンが多かったのですが、現場が華やかになるし、撮影が大変でも芽郁ちゃんのおかげでみんな笑顔になる。でも芝居はしっかり骨太で、歴も長いから頼もしいし、男気もあるなと感じました(笑)。すごくすてきな方でしたね。
◆園子はゴウちゃんと淑子の恋を手助けするすてきなお姉さん的存在でした。現場ではお二人とどんなふうに関わっていらっしゃったのでしょうか。
どうやったら主人公のゴウちゃん役の菅田さんがやりやすいかな、支えられるのかなと考えました。芽郁ちゃんとは園子が淑子ちゃんの背中を押す“淑子ちゃんのシーン”があり、自分が何かをしてあげるというよりは、邪魔にならないようにということを考えてやっていたように思います。ただ周囲の反対を押し切ってゴウちゃんの元に行こうとする淑子ちゃんの背中を押すのは、私としては難しかったです(笑)。個人的には大人としては若い2人を止めた方がいいんじゃないかと思う部分もありますし、でも園子としては大事なゴウちゃんと淑子ちゃんの思いを尊重して助けてあげたいと願っている。あの場面は、女優だからぶっ飛んだところがあって突っ走ってしまう2人に手を貸すんだろうなと思われないように、純粋な気持ちで園子が手を貸しているのだと見せるのが難しかったです。皆さんに助けられてできたシーンだと思っています。
◆RADWIMPSの野田洋次郎さんとの共演はいかがでした?
野田さんは本当に驚きました。お芝居をされているのは知っていて、作品を見たこともあるのですが、実際にご一緒して感じたのはすごくお上手で。歌手の方とたまにお芝居のお仕事で一緒になることがありますが、皆さん声の使い方もテンポやそのシーンの空気感などを感じてご自分の中に落とし込むのがとてもお上手なんです。野田さんも理屈ではなく感性でできてしまうのかなと思います。芝居をしているのではなく、その場で感じてテラシンになっている。本来芝居ってこうあるべきだよなと思うことを自然にできていらっしゃるんです。歌手の方の歌を聴いて、こんなふうに歌えたら気持ちいいだろうなと思うように、こんなふうに芝居できたら気持ちいいだろうなと思いました。ちゃんと自分を俯瞰で見ているところもあり、考えて演じていらっしゃる部分もある。バランスがすごく良い方だなってビックリしました。それでいて普段は気取らない、自然体な方だからこそ、この方が作る楽曲はたくさんの方に支持されるんだろうなと思いました。
◆最初に日々プレッシャーを感じていたとおっしゃっていましたが、北川さんにとって「キネマの神様」はどんな作品になりましたか?
お話を頂いた時は子供を授かるとは思っていなかったので、妊娠が分かって最初に頭をよぎったのは、「各部署の皆さんにご迷惑をおかけしてしまうのかな。どうしよう」ということでした。妊娠初期だったので、その事実を自分の中に留めて現場に入りましたが、妊娠前にフィッティングした衣装が徐々にきつくなり、監督にお話したんです。そしたら「いいお母さんになってください。その経験が女優としての糧になるでしょうから」と言ってくださって。とても不安だったので、その言葉を掛けていただけたことがすごくうれしかったです。過去ブロックの撮影期間は短くて、志村けんさんと共演する1シーンを残すだけという時に、志村さんが体調を崩されたというお話を聞きました…。結局、そのシーンは出産してから撮ったので、子供がおなかにいる時と生まれた後、両方の姿を1つの映画に映してもらうことができました。それはなかなかない経験だと思いますし、松竹映画100周年記念作品で初めて山田監督とご一緒した作品に自分の人生の節目が残ったことで、本当に忘れられない作品になりました。監督の言葉に励まされて、「元気な子供を産もう」と思いましたし、産んでからも役者という仕事を諦めないで、ご縁がある作品には果敢に挑戦していきたいと思えました。あらためてこの仕事が好きだと思えた作品でもあります。
PROFILE
●きたがわ・けいこ…1986年8月22日生まれ、兵庫県出身。主な出演作はドラマ『リコカツ』、大河ドラマ『西郷どん』、『家売るオンナ』シリーズ、映画「ファーストラヴ」「約束のネバーランド」「スマホを落としただけなのに」シリーズなど。
作品紹介
映画「キネマの神様」
2021年8月6日(金)より全国公開中
(STAFF&CAST)
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝原雄三
原作:原田マハ「キネマの神様」(文春文庫刊)
出演:沢田研二、菅田将暉、永野芽郁、野田洋次郎/北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、宮本信子
(STORY)
無類のギャンブル好きで、妻の淑子(宮本)と娘の歩(寺島)にも見放されているのダメおやじのゴウ(沢田)。そんな彼が唯一愛してやまないものが映画だった。行きつけの名画座の館主・テラシン(小林)は、かつてゴウが助監督として働いていた撮影所の仲間。若き日のゴウ(菅田)は、テラシン(野田)やスター女優の園子(北川)、また撮影所近くの食堂の娘・淑子(永野)に囲まれ、映画監督になる夢を追っていた。ゴウとテラシンは淑子に思いを寄せていたが、ゴウは初監督作品の撮影初日に転落事故で大けがを負う。映画も撮れなくなり、撮影所を辞めて田舎に帰るゴウを淑子が追いかけて行く。そして約50年がたち、歩の息子の勇太(前田旺志郎)がゴウの書いた脚本を見つける。その作品のタイトルは、『キネマの神様』。それはゴウが初監督の時、撮影を放棄した作品の脚本だった。勇太はその脚本の面白さに感動し、現代版に書き直して脚本賞に応募しようとゴウに提案する。最初は半信半疑で始めたゴウであったが、再び自身の作品に向き合う中で、忘れかけていた夢や青春を取り戻していく。
© 2021「キネマの神様」製作委員会
●photo/金井尭子 text/佐久間裕子
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<応募締切>
2021年8月20日(金)23:59