9月1日(水)に約1年半ぶりとなるニューアルバム「FATE」をリリースしたビッケブランカさん。本作のテーマは“出会い”“別れ”そして“運命”。ビッケさんならではの幅広いジャンルのサウンドに込められた思いや、楽曲制作時の裏話などをたっぷりと伺いました。
◆1年半ぶりにニューアルバムがリリースされますが、まずは本作が出来上がるまでの背景を教えてください。
これまで3枚アルバムを出してきたんですが、どうしても話題になるのはリード曲ばかりで。それはそれでうれしいことなのですが、せっかくならばアルバムの中の全曲に光が当たるようにしたくて、7月、8月にかけて先に3曲ずつ新曲を出してからリリースしようと思ったんです。「HEY」「BYE」「FATE」というストーリー、EPを先に走らせてアルバムへ入れるという流れは初めてのことでしたし、楽曲に関しても、世界標準を目指したダンスミュージックや弾き語りバラードを収録したりと、背景はもちろんですが心持ちもこの1年半で大きく変化したと思います。
◆この1年半の間に世界は新型コロナウイルスという新たな猛威によって大きく変化しましたが、制作においてもその影響を受けている部分はありますか?
ありますね。生の楽器をレコーディングできない時期があったので、自分でできるようになろうと思ってノウハウを勉強して、楽器を打ち込んだり、アレンジをしたり。家のパソコンで作る能力が格段に上がりましたね。曲作り自体、難産なものとかは特になかったんですが、もともと9月リリースのつもりで作っていたのが、6月の頭に急きょEPも出そうという話になったので、何曲かは7月には完成していないといけないという。一気に2か月前倒しになったので、スケジュール的にはヒーヒー言ってましたね(笑)。
◆全ての作業が終わった時はどんな気持ちでした?
“ここからやっと解放される”と(笑)。ずっと頭のどこかに曲を作らなくちゃ、作らなくちゃという意識があったので、作り終えた達成感よりも解放感の方が強かったです。終わった瞬間はすぐに車を走らせて、一人で箱根に向かいました。
◆箱根ということは温泉?
はい。温泉に浸かるために、旅館に“今から行っていいですか?”と電話して、夜の10時にチェックインして、1泊して翌日に東京に戻りました。
◆なかなかハードですが、非日常的な癒やしの空間の中で、ようやく肩の荷が下りたという感じですか?
そうですね、全責任は僕にあるので。あっ、そういえば帰路に着く途中で車が壊れたんですよ。
◆えっ大丈夫だったんですか?
前日は雨が降っていたんですけど、チェックアウトした時にはすごく炎天下で。屋根のないところに車を置いていたので、乗った直後はハンドルが握れないぐらい熱くなっていたんです。でも、夏だしそんなもんかと思って、窓を開けて、空気を入れ替えながら普通に車を走らせていたら、いきなりキュルキュルキュルキュル~って言い始めて。箱根ってこんな音するんだ、草刈りでもしてるのかな? って最初は気にも留めずにいたんですけど、信号待ちで止まった瞬間、その音が止んで、“あれ、俺の車じゃん”って気づいて。とりあえずコンビニにでも寄ろうかと思って、コンビニまで走って駐車場に車を止めた途端、車の下から白い煙がモクモクモクモク~って上がってきたんです。爆発するかと思って急いで車から飛び降りて。近くにいたおばあちゃんもビックリして、よろめいてましたね。
◆その後はどうなったんですか?
爆発することはなく、ディーラーに連絡して。僕はその車とバイバイして、代車に乗って帰りました。実は次の車の納車が1週間後だったので、最後に一緒に旅に出ようぜ~って気分で箱根に行ったら、まさかの故障……。そんなことあります?
◆もう俺の役目は終わりなんだなっていう、その車の最後のあがき的な?
僕もそう感じました。よくモノにも魂があると言うように、車にも人格があるんだなって(笑)。
◆どんな物にも意思が存在しているということですね。でも、何よりご無事でよかったです。本来であれば、温泉で疲れを癒やして、そのまま帰宅するはずだったと思いますが…。
ただの旅では終わらないんだなって(笑)。最後にふさわしい面白い旅になってよかったなって思いましたね。
◆発想の転換ですね。実は何かとそういった予期せぬドラマを起こしてしまう方ですか?
自分では分からないんですけど、変わったことは多い方かもしれないですね。この間もフェスに出演した時に、ステージにずっとセミが1匹いて。そのステージの主みたいな感じで、どこにも止まらずにただその辺をうろついていたらしいんですけど、そいつが最後の最後で僕に止まって。全く気づかずにMCをしていたら、お客さんやバンドメンバーから指摘されて、見たら本当にセミが止まっていて“ぎゃーーーー!!!!”って悲鳴を上げました(笑)。
◆もしかしてセミが苦手?
(即答で)大嫌いです。気づいた瞬間、大絶叫を上げて、ステージの一番端っこまで全速力で逃げました(笑)。その日のTwitterとかでも“セミってビッケブランカには止まるんだ”って書かれたりして(笑)。
◆ある種、神がかり的な。
求めてなかったんですけどね。セミ自体は大嫌いなのでいい迷惑ですけど(笑)、そういうハプニングを面白がっちゃう人だから、何かしら引き寄せてしまうのかもしないですね。
◆そういった出来事が楽曲制作に生かされたり、歌詞に描かれるようなことはあるんですか?
うまく話を戻していただき、ありがとうございます(笑)。結構、ありますね。自分の想像を超えるような曲になってくれないと困ると思っているので、こうなりそうだなと思ったら、1回それを見つめ直して1個タガを外して、何でもオッケーっていうルールを自分の中に設けて曲を作るようにしていますね。
◆見つめ直した時に、それまでと軌道が変わることもあるんですか?
ほぼ変わってます。このままいくとみんなが歩いてきて踏み慣らされた道の先っちょに行くなと思ったら、わざとそこから最後にギュンって曲がったりしますね(笑)。
◆ビッケさんの楽曲はいろんな要素が散りばめられていて、まさしく予測不能な分、最後までドキドキ、ワクワクが止まらないんですよね。
自分自身が退屈したくなくて。自分が作っていて、聴いていて暇にならないものというのは1つのテーマとしてありますね。
◆本作は日常の中で起こり得るさまざまな瞬間、中でも“出会い”“別れ”“運命”を描写した作品となっていますが、ビッケさん自身が収録曲の中で思い入れのある楽曲をあげるとしたらどの曲ですか?
う~ん…。どの曲も全てなんですけど、印象的なのは「夢醒めSunset」「蒼天のヴァンパイア」「Divided」「ポニーテール」の4曲ですね。まず「夢醒めSunset」は、今まで自分がやっていてもおかしくなかったことをやれた曲で。サビでしっかり歌えているし、AメロBメロという平歌では行きたいところにメロディーがいけてるし、サウンドもずっとループしているだけなんですけど、そういう気持ちよさって実は最近なくて。それこそ「Ca Va?」とかはころころ変わる面白さだったんですけど、これは変わんないことのよさみたいな、真逆のことができたから、個人的にすごく好きな1曲ですね。
◆「蒼天のヴァンパイア」に関しては?
世界の大きいフェスで聴かれている、アメリカの音、イギリスの音、ドイツの音、ヨーロッパの一線でやってるような音を目指していて。でもそれだけだと、歌はあんまりよく分かんないけど、サウンドはこだわってるらしいよっていうので終わっちゃうんで(笑)、サウンドに負けないぐらい強いメロディーや歌詞にもこだわった、いろんな意味でポテンシャルを持った曲になったと思います。「Divided」は最後に出来上がった曲で。実は12曲入りのアルバムって公言しているのに、あれ、1曲足りないってなって(笑)、詰めのスケジュールのラスト2日間で急きょ作ったんです。でも、短い時間で作ったからこそ、この曲が一番純度の高い楽曲になったと思いますし、歌唱にも心を込められたなと。メロディーもシンプルさがありながらも自分の中でこだわりが見えたし、歌詞も英詞で一番意味分かんないはずだけど(笑)、一番届くような絶妙な立ち位置になった、真っすぐな曲だと思います。
◆全てが凝縮されていますよね。最近はデジタルでのリリースも増えてきて、サブスクを通して曲を知ってファンになる方も多いと思いますが、ご自身でも実感はありますか?
あります! あります! サブスクで知りましたとか、プレイリストに入っていたから聴きましたとか、僕の知らないミュージシャンの方が紹介してくれたから聴きましたとか、より楽曲を聴いてもらえる機会、間口が広がったと思いますね。
◆CDをリリースすることとの違いはどんなところにあると思いますか?
ただ音楽を聴くのであれば、サブスクのほうが単純に手っ取り早いと思うんですけど、CDはそこにデザインやDVDがついたりと、音楽だけでなく、さまざま要素がパックされた1つの作品になっているので、サブスクもCDもそれぞれの良さがあると思いますし、違う楽しみ方ができると思いますね。今作も、この1枚で一年間ぐらい楽しんでもらおうと思って、最初に予定していた映像にさらに2つ加えていて。こんなにモリモリに入れてもいいんか? ってぐらい入れてます(笑)。本気でやったものが詰まっている分、一年毎日こすっても新しい発見があるアルバムになったと思います。
◆タイトルにちなんで、ビッケさん自身が運命を感じた出来事はありますか?
(しばしの沈黙の後)…ちょっとダサいんですけど、“私、雨女なんだよね”とかいう人をそんなことあるわけないだろ、どういうつもりで言ってるの? あなたごときで天気が変わると本気で思ってるの? って詰問したりしていたんですけど、フェスとかで僕のステージになると、それまでずっと雨が降っていたのにめっちゃ晴れます(笑)。
◆つまり、俺は晴れ男なんだ、と。
PVの撮影とかでも丸一日雨予報だったのが一滴も降らなかったり、俺は晴れるという運命の下に生まれたのかな? と思ったりもして(苦笑)。過去の自分を全否定することになるので、最近は自分の中の矛盾に苦しめられています(笑)。
◆自分が何かをしようと思った時に必ずこうなるとか、たまたま偶然なのかもしれないですけど、それが重なるとやっぱり運命なのかな? って思ったりもしますよね。
自分で意識し始めるからっていうのも大きいと思いますね。9月24日(金)から始まる「FATE TOUR 2147」というツアータイトルも、早く未来になれという意味が込められているんですけど、実は“2147”という数字は、昔から僕が時計を見ると、決まって“21時47分”だというところから取っていて。きっと“13時15分”もしょっちゅう見てると思うんですけど、“2147”が頭にインプットされちゃっているから、僕の運命的な数字のような気がしているんですよね。なので、ツアータイトルは、ダブルミーニングなんです。
◆そうなんですね。“1111”とか、覚えやすいゾロ目の数字をよく見るとかは聞きますけど、“2147”ってなかなか覚えにくい数字じゃないですか? 例えば、ご家族の誕生日を合わせた数字とか電話番号とか、何かしらビッケさんにまつわる数字ではないんですか?
全くないですね。ちなみに暗証番号でもないですから……と書いておいてください!(笑)
◆分かりました(笑)。もしかしたら、2147年が訪れた時にその意味が分かるのかもしれないですね。予知夢を見たりすることはないんですか?
予知夢はないですけど、明晰夢を見ることはありますね。意識的に夢に入っていくことができるのでめちゃくちゃ楽しいんですよ。ブルブルと体が震え出して、首らへんがくすぐったくなってきて、ギューッと体が縮こまっていって、目を閉じているのに天井が見えるんですよ。“あ~きたきた、今日はこのデザインね”って。でも、そこで焦ってしまうと起きてしまうので、しっかりしっかり落ち切ってからゆっくり起き上がると、夢の中で起き上がって、“はい、始まりました~”って夢がスタートするんです。初めの寝室の間取りは同じなんですけど、ポスターが貼ってあったり、変な明かりがついていたり。扉の位置も一緒なんですけど、扉を出ると全然違う世界で。ある日は台湾だったり、ある日は上海のホテルの一室に続いていたり、ただの田舎町だったり。
◆まさに「どこでもドア」の世界?
そうなんですよ。扉を開けるまでは何があるか分からないという。でも、扉から飛び出て走ってしまうと起きてしまうので、ゆっくり歩くのがコツなんです。ゆっくりいろんなものを見続けると長~くいられるんです。あ~あっちの世界に住みたい!
◆その体験を楽曲にはされていないんですか?
してないですね……いや、してます、「ミラージュ」だ! 曲を作っていた時期にめちゃくちゃ明晰夢を見ることができて。脳みそと体の睡眠を意識的に分離させるのが明晰夢なんですけど、夢の中でさえもどうやっても空を飛ぶことだけができなくて。もう無理だって諦めて曲を作ろうと思って、夢の中でピアノを弾いて。目覚めた瞬間、そのフレーズを忘れないようにボイスメモに録ってスタッフにLINEしたんです。なのでサビには明晰夢の中での体験がそのまま生かされています。
◆すごい特殊能力ですね。話は変わりますが、プロフィールを拝見すると『相棒』や『沸騰ワード10』など、さまざまな番組がお気に入りだそうで。テレビはよく見られるんですか?
ジャンル問わず、めっちゃ見てます!
◆そんなビッケさん自身が出てみたい番組はありますか?
出れるなら何でも(笑)。マジで何でなのか分かんないんですけど、ドッキリ番組などにも呼んでいただく機会が増えてすごくありがたいです。そこに関しては高望みしないように、素の自分で皆さんに面白がっていただけるならば、そのままでいようと思っています。
◆俺はアーティストだから、それにまつわること以外受け付けないという考えは?
一切ないですね。面白がってもらえるならば何でもやります。らしさなんて自分で分かるわけないし、その人らしいっていうのは、人が作るものだと思うので。でも、音楽に関しては自分で作れるという自信があるから、逆にどこに行っても“ただいま”って言える、音楽という軸となる場所があるからこそ、バラエティとか全く音楽とは別次元のことも面白がってできるんじゃないかと思いますね。
◆今後挑戦したいことはありますか?
ドラマに出演して、ハッカー、もしくは爆弾魔をやってみたいです。暗い部屋でボサボサになりながら、主人公を嫌々助けるハッカー…あ~いいっすね(笑)。あと、「グラスホッパー」の殺人鬼もやりたかったんですけど、既に他の方が演じられてしまったので、別の作品での殺人鬼役はぜひ僕に(笑)。とにかく普段の自分とは違う役を与えてもらって、それを僕自身こなせるのかを試してみたいですね。
◆では最後に読者の方にメッセージをお願いします。
それぞれの運命に誘うアルバム「FATE」…ちょっとカッコつけて言ってみましたけど、別に誘うつもりで作っていないので(笑)、ぜひたくさんの方に気軽に聴いてほしいです。聴いて何か共感してもらえるような部分があればいいなと思いますし、どんな形であれ結果的に皆さんにとってこのアルバムが運命と言えるような作品になったらうれしいです。
PROFILE
ビッケブランカ
●愛知県出身のシンガー・ソングライター。2018年リリースのアルバム「wizard」収録曲「まっしろ」がドラマ『獣になれない私たち』の挿入歌として大きな話題を呼び、音楽ストリーミングサービス総再生回数は3億回超え。音楽業界を驀進する存在として、楽曲提供、ラジオDJ、広告モデル、eSportsストリーマーなど様々な分野に活躍の場を広げている。
リリース情報
4thアルバム「FATE」
2021年9月1日(水)発売
●photo/ota_sam text/星野彩乃
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TV LIFE公式Twitter(@tv_life):https://twitter.com/tv_life
<応募締切>
2021年9月8日(水)23:59