ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の名作戯曲を、新キャスト&新演出で創り上げる「KERA CROSS」シリーズの第3弾『カメレオンズ・リップ』。松下洸平さんが主演を務めたこの作品が衛星劇場にて初放送。嘘と毒と笑いが混ざり合い、うねりをあげて突き進んでいくこの難作に松下さんはどう向き合ったのか。あらためて舞台の思い出を振り返ってもらった。
◆松下さんはこの舞台で初主演を務めました。あらためて、ご自身にとってどのような作品だったと感じていますか?
最初のころは、主演ということに強い責任感や使命感を抱いて稽古に臨んでいました。でも、稽古が進むうちに、そういったことを考える余裕すらなくなるほど大変な舞台だったんです(笑)。冒頭から最後まで、嘘しか出てこないような物語でして。登場人物の誰が真実を言っているのかが分からず、自分が演じた役(ルーファス)でさえ、時々“今のは本音でいいんだよね?”と確認していかないと混乱してしまうんです。共演者の皆さんも同じだったようでしたし、今回の放送をご覧になられる方も、油断していると頭の中に“?”がたくさん出てくるかもしれません。でも、そうした困惑を軽快に、むしろ清々しさえ感じられるように、いかに煙に巻いていくかが、稽古場での僕らの課題でしたね。
◆プロローグでは純情そうだったルーファスが、その後、詐欺師を名乗る男になっていたのは驚きました。
役を演じる上で、彼は本来どういう性格で、それがなぜ今のような人物になったのかを深く考えていきました。その背景には、姉(ドナ)の存在が大きいんです。彼女はいつも嘘をついてルーファスを困らせていましたけど、そんな姉をルーファスは大好きだったんですね。でも、姉が突然失踪したことで、彼の生き方も大きく変わってしまう。とはいえ、性根の部分といいますか、やはり彼には悪人に成り切れない優しさや素直さがある。そこには、何年たっても姉のことを待ち続けている少年のままのルーファスがまだいるからなんです。その一方で、周りには“俺は成長したんだ”という姿を見せたくて、虚勢を張ったりする。強気に出たかと思えば、次の瞬間には誰よりもビビっていたりして…手強い役でした(苦笑)。