『あの花』10周年記念!脚本・岡田麿里が語る作品への思いとキャラクターの“愛称”秘話

特集・インタビュー
2021年09月05日

2011年に放送され、多くの人の涙を誘ったアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』。埼玉県秩父を舞台に幼なじみの6人組超平和バスターズの成長と絆を描いた、感動の作品だ。あれから10年。先月の2021年8月は、女性キャスト陣がカバーしたエンディング曲「secret base ~君がくれたもの~」の歌詞にもある“10年後の8月に当たる特別な節目となった。そこで、TVLIFE本誌にて行った脚本担当の岡田麿里さんへのインタビューをweb版としてお届け。貴重な制作エピソードを語っていただきました。

◆多くの人から愛され続けている『あの花』。ついにエンディング曲「secret base ~君がくれたもの~」の歌詞にもある”10年後の8月“を迎えましたね。

10年と聞くと長いなと思いますが、『あの花』には折に触れて関わってこられたんです。劇場版や実写ドラマもありましたし。別作品のインタビューでも『あの花』のことをお話しする機会があったり、いろいろなコラボやグッズ展開があったりもしました。だから、『あの花』に関しては10年という月日をあまり感じないというのが正直な気持ちです。こんな作品はめったにないので、とてもありがたいですね。

◆『あの花』のヒットによって、この10年で何か変かったことはございますか?

『あの花』に関わったことによって、ありがたいことに、脚本やそれ以外のお仕事も依頼していただくことが増えました。ただ、『あの花』やその他の作品をやったことで自分が変化したというのはあまり感じていなくて。もちろん、一つの作品を作ることで学びは多くあります。とはいえ、アニメの現場は、作品ごとに自分の立ち位置が違えば、現場にいる人たちも違う。自分なりに成長できたかもしれないと思っても、他の場所に行くと「あ、あれはあの現場だけの正解だった」と痛感させられることもあります。

◆どの作品も一からのスタートなんですね。

どの仕事でもそうだとは思いますが、絶対の正解があるわけではないですからね。時代によって流行は変わりますし、社会全体の状況によって人の心に届く作品も変わる。何だかんだアニメの仕事を20年以上やっていますが、まだまだ勉強することがありますし、こんなやり方があったんだという発見もあります。いまだに、一つの現場が始まる時は緊張しますし、慣れることもないと思いますね。

◆『あの花』は、岡田さん自身が企画コンペで提案して採用された作品ですよね。どのような思いで企画されたのでしょうか?

私、学生時代はじんたん(宿海仁太みたいに登校拒否児だったんです。5年くらいほぼ学校に行ってなくて。当時はとにかく苦しかったし、出口がないと足掻いていました。自分を取り巻く状況も、自分自身も、なかなか受け入れられない時期で。だからこそ、同じような境遇のキャラクターをカッコよく描いてみたいと思ったんです。自分自身が嫌いだったからこそ、ものすごい挑戦でした。

◆実体験がベースにあったんですね。

でも当時はオリジナルアニメ、特に思春期の群像劇を描いた作品は企画として通らない時代で。なおかつ私の原案は地味と言われていたので、フックとなる何かが必要だったんです。それで、企画を通すためにノスタルジーな要素も取り入れようと。あのころは「ちょっと昔を懐かしむ作品」が世間的に受け入れられていたので。作中に登場する「秘密基地」も、ノスタルジー要素の一つですね。

◆確かに、「秘密基地」など時代を感じるアイテムや流行語、昔を懐かしむような言葉がいくつか登場していましたね。

はい。そして、そのいくつかの過去に今の自分たちが復讐されるんです。

◆“復讐される”というのは?

例えばニックネームがそうで。子供のころにつけた愛称って、自覚なく残酷だったりしますよね。あの時の無邪気さや純粋さが、少し大人になった時に人を傷つけることがある。それを象徴する要素に、ニックネームがなればいいなと。あなる(安城鳴子)がまさにそうですね。彼女はあだ名先行で名前を決めました。

◆そうだったんですね。

あとは、めんま(本間芽衣子)の存在そのものもそう。過去に解消しないで置いてきてしまった気持ちが、結果的に彼らの思春期に暴れることとなりました。ゆきあつ松雪集がめんまの格好をしてみんなをだまそうとしたのも、抑えつけてきた気持ちが暴発したからです。「超平和バスターズ」っていう名前もそうです。当時の彼らはカッコいいと思って付けたんでしょうけども、実際は平和をやっつける奴らですからね。結果的に、じんたんたちはめんまを失うことで、本当に平和をやっつけてしまった。子供のころの無邪気な発想を思い返すと、胸が痛くなることがある。でもまさか、自分たちが「超平和バスターズ」と呼ばれるようになるとは思いもしませんでしたが

◆岡田さん、監督の長井龍雪さん、キャラクターデザインの田中将賀さんはチーム「超平和バスターズ」と呼ばれていますもんね。

製作委員会の名前で、私たちのことではなかったんですけど。最近は略されて、打ち合わせなどの時に「超平和の皆さん」と呼ばれることもあったり。何がなんだか分からなくなってきています。

◆(笑)。めんまという愛称にも同じような意図があったのでしょうか?

めんまに関してはちょっと違って。私が小学生の時、隣のクラスにいた女の子の愛称がめんまだったんです。その子の名前には「め」が入っているんですけど、「んま」はどこから来たのか分からなくて。でも、響きがすごくかわいくて、ずっといいネーミングだなと思っていて、いつか使いたいなと思っていました。

◆作品のタイトルも印象的ですが、これはどなたが考案されたのでしょうか。

それは長井君です。タイトルはどうしようかとみんなで考えていた時に、B’zさんの『愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない』みたいな長いタイトルって面白いよねという話になったんです。そしたら長井君が「こういうのはどうか」と、このタイトルを提案してくれて、ひと目で気に入りました。彼は感覚を大事にするので、あの日見た花が何なのかとか、細かい設定は特になかったと思います。でも、こうしてインタビューでよく聞かれるうちに、それぞれの中に答えのようなものができてきた(笑)。私はこのタイトルをあのころにしか味わえない気持ちに、まだ名前を付けられない。それは、自分たちがあのころから続く季節の中にいるから”というニュアンスなんじゃないかなととらえています。

◆岡田さんが最も印象に残っている話数を教えてください。

やっぱり1話は特に印象深いです。いなくなっためんまを探すために、じんたんが走っていくところは衝撃的で。もちろん、シナリオを書いていて想像してはいたんですけど、それ以上でした。完成した1話を他のスタッフの方々と一緒に見た時は、みんな興奮していましたね。「この作品は売れる、売れない」とかではなく、「自分はこの作品が好きだ」という感想ばかりで。作り手の私たちの心にも刺さる作品に仕上がったな。そして、アニメってみんなのものであり、一人ひとりのものなんだなと感動しました。この体験は、以降も自分が「どういう物作りをしていきたいか」の基準になりました。

◆各キャラクターを演じるキャストの皆さんに岡田さんから何かリクエストはされましたか?

もう10年前の話ですから、正直、一つひとつのやり取りをあまり覚えていなくて笑)。ただ、アフレコの時にキャストの皆さんが情熱を持って演じてくださったことは強く覚えています。皆さん実力のある方々ばかりで、キャラクターがどんどん膨らんでいきました。本編が終わってから担当した劇場のシナリオや小説などは、書きながら皆さんの声がずっと脳内に回っていました。声に助けられた作品です。

◆放送から10周年を迎え、その記念プロジェクトとして、10年後の「超平和バスターズ」が描かれたビジュアルも公開されました。制作を担当した田中さんと何かやり取りはございましたか?

まず田中さんが「こんな感じ?」と案を送ってくれたので、「服はこうしたほうがいいかも」程度のことは伝えました。その案を見た時、「田中さんの中には田中さんの『あの花』があるんだなぁ」としみじみ思いましたね。きっと、新作を作らない限り、長井君と田中さんと私にはそれぞれ違う10年分の『あの花』の物語があるんですよ。でも、それでいいと思います。私たちが『あの花』を大切に思っていることに変わりはないので。

◆最後に、岡田さんが本作を通して伝えたかったことや描きたかったこととは何でしょうか。

一つは最初にもお話しした、登校拒否児の少年をいかに魅力的に書けるかという挑戦。あとは、「自分への縛りを緩くすることで、人はつながれる」ということかな。人って、年齢を重ねるといつの間にか自分を“ある所属の中にいる人間”と決めつけてしまう気がするんです。私が学校に行けなくなった時も、「自分はこうあるべき」と縛りつけてしまっていたことで、勝手に苦しくなっていました。作中では、思春期になって気持ちが強張り始めた彼らの元に、めんまという過去からの気持ちがやってきた。めんまと触れ合うことで、固くなった自分たちの気持ちをほどいていき、もう一度6人がつながっていくことができた。テレビ放送されてから10年。この機会にぜひまた作品に触れていただけたらうれしいです。

PROFILE

岡田麿里
●おかだ・まり…埼玉県出身。「とらドラ」「花咲くいろは」をはじめとするさまざまな作品の脚本を担当するほか、映画監督・詞の提供など幅広く活躍。超平和バスターズ名義で『あの花』のほか、映画「心が叫びたがってるんだ。」「空の青さを知る人よ」の原作も担当した。現在は、自身が監督を務める映画「アリスとテレスのまぼろし工場」を制作中。

Blu-ray情報

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」10years after BOX

■田中将賀描き下ろし 三方背BOX ジャケットデザイン

■予約情報
好評予約受付中。2021年95までのご予約をお勧めします!
※以降のご予約に関しては各ショップ・ECサイトにお問い合わせをお願い致します。
▼予約・購入詳細
https://10th.anohana.jp/blu-raybox/

■パッケージ内容
(DISC4枚組:本編DISC3枚+特典CD1)

■発売日
20211229()

■価格
25,300円(税込) (Blu-rayのみ)

■収録内容
TVシリーズ全11話+劇場版

■特典
・キャラクターデザイン 田中将賀描き下ろし三方背BOX
・デジケース
・特典CDsecret base ~君がくれたもの~」10th Anniversary ver.

尾崎雄貴(BBHF)、菊池亮太の2名のアーティストによる新アレンジで新録!
secret base 〜君がくれたもの〜」10th Anniversary ver.
作詞・作曲:町田紀彦 編曲:尾崎雄貴

secret base 〜君がくれたもの〜」10th Anniversary piano ver.
作詞・作曲:町田紀彦 編曲:菊池亮太

・ブックレット100P(予定)
・じんたんTシャツ(10周年記念イラストじんたん着用仕様)

※商品内容は予告なく変更となる場合がございます。予めご了承ください。

©ANOHANA PROJECT

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