不慮の事故で娘を失った父親がモンスター化し、その事故に関わった人々を追い詰めていくヒューマン・サスペンス映画「空白」。本作で、娘を失った父親・漁師の添田充を演じる古田新太さんと、オリジナル脚本も手掛けた吉田恵輔監督に、作品に対する思いやロケ地となった愛知県蒲郡市での思い出などを伺いました。
◆吉田監督は“日本のソン・ガンホ”をイメージとして、添田充役で古田さんにオファーされたそうですね。
吉田:お芝居にしても、ルックスにしても、古田さんは誰よりも説得力があるんですよ。充がやることを偽物に見えるようには、したくなかったですし。それに怒っている時はとにかく怖いんだけど、男から見てちょっと色気があるんです。映画的にも、それがいいなと。
古田:最初は漁師でもモンスターでもないのに、「何でオイラなのかな?」と思いましたが、監督にそこまで言ってもらえると、光栄というか、幸いです。
◆オリジナル脚本を読まれた時の、古田さんの感想は?
古田:全然笑えるシーンがないし、これは困ったぞと(笑)。ただ、青柳直人役が(松坂)桃李くんに決まるかもという話は聞いていたので、桃李をイジメることができて、楽しそうな現場だなと思いました(笑)。オリジナル脚本だと、自分でゼロから作り上げることができるし、役者としてはありがたい。こう見えて縛られるタイプで、原作モノだと自分がマンガや小説を読んだ時のイメージから逸脱したくないと思ってしまうんです。原作ファン全員から褒められたいから。今回の場合は、監督一人に褒められればいいわけですからね(笑)。
◆充を漁師の設定にしたことについては、吉田監督いかがですか?
吉田:デビューしてから10本以上、商業映画を撮ってきたんですが、自分の飽きっぽい性格もあり、これまでにやったことのないシチュエーションで撮ってみたかったんです。それで浜辺で撮ったことはあるけれど、海の上から撮ったことはないということで、漁師という職業がついてきた感じです。あと、キム・ギドク監督の『弓』が好きなこともあり、海の上を漂っている船を撮りたい願望もありました。
古田:充はほかの漁師からも一目置かれていて、藤原季節くんが演じた野木龍馬も慕ってくれているんだけど、ちょっと人間的には難ありというか。でも、なぜ彼が離婚して娘の親権を預かっているのかといったバッググラウンドは、脚本に描かれていないんです。そこに関しては監督の狙いというか、いろいろと委ねられた感じでした。
◆古田さんにとって、初体験となった漁師役はいかがでしたか?
古田:自動操縦とはいえ、船を操縦できたのは楽しかったです。現場に入ってからいろいろ学んだのですが、地元で指導してくれた漁師さんがおだて上手な人で。「古田さんうまいよ」と言われて上機嫌になりました(笑)。
吉田:漁師の仕事って、傍から見てると誰にもできそうな気がしますが、チェーンに巻き込まれないようにするとか、一つ一つがかなり難しくて、手際が良くないと危ないんですよね。しかも、その日に撮ろうとしたら、「今日、海に出ると密漁になります」と言われたり、いろんな規定もあったりして(笑)。ちなみに撮影中に、その指導の漁師さんにお子さんが生まれたんですが、その子にも出演してもらっています。
◆吉田監督が古田さんを演出される上で、こだわった点は?
吉田:お芝居に関しては、基本的にこちらが何も言わなくても任せられる人をキャスティングしています。今回はあまりお芝居経験のない役者がいるわけでもないので、常に一番最前のいい席でお芝居を見ている、お客さんのような気分でした。自分がイメージしていた以上のものをどんどん出してくれるし、どこか付加価値が付いていくようでもありました。何度か泣かされて、カットをかけるのも大変だったぐらい。だから、「よーい、スタート」と「OK!」しか言っていない気がします(笑)。
◆吉田組というと、常に笑いの絶えない現場として知られていますが、今回“笑いの要素を封印”した現場の雰囲気はいかがでしたか?
吉田:毎晩飲みに行っているような、いつも以上に楽しい現場でした。冒頭の交通事故のシーンも、お茶菓子とかを食べながら、穏やかな感じで撮ってましたね。
古田:娘の遺体を見て、泣き崩れた芝居をした直後に、サクッと飲みに行けちゃうような感じでしたね。正直、話が重いので、「現場も重かったらキツイなぁ」と思っていたんです。でも、とにかく明るく健やかな現場で、毎日のように松坂桃李を怒鳴りつけ、寺島しのぶと喧嘩して、ホント楽しかったです(笑)。
◆ちなみに、松坂さんとの共演はいかがでしたか?
古田:『パディントン』の吹き替えで一緒だったりと、以前から知り合いだったんです。とても真摯な芝居をする人だし、芝居に対していろいろ言ってくる面倒臭さもなく(笑)、まさにイメージ通りの人でした。引き芸も押し芸もできるし、いい距離感でとても楽しみながらやれましたね。
吉田:桃李くんは、華があるんだけど、どこか冴えない地味な芝居もうまい。それだけオールマイティーな人なんだけど、男から見てもかわいいんですよ。かわいすぎて、イジメたくなるほど(笑)。
◆長期ロケをされた愛知県蒲郡市での思い出は?
古田:オイラは焼き鳥と中華系の店に行くことが多かったです。お店の方とも随分仲良くなりました。地元のロケーションサービスの方にもすごく良くしてもらえて、お弁当も豪華でしたね。その日に釣った魚を捌いてくれる回転寿司があって、そこにもたくさんお世話になりました。
吉田:1日しか出演しないキャストの方をおもてなしするために魚を食べに行ったんですが、いつの間にか、それが連日になってましたね。
◆完成した作品に対する、それぞれの思いを聞かせてください。
吉田:自分の「最高傑作」を撮るつもりで始めた作品なので、今まで入ったことのない「キネマ旬報」の年間ベストテンに入ってほしい。それから、海外の映画祭でもいろいろ褒めてほしい。もしこの作品が評価されなかったら、これまで通りおバカな映画を量産してやろうという思いです(笑)。
古田:映画は監督のものだと思っているんですが、客観的に見ても面白かったです。監督が言いたいことをいっぱい詰め込んでいるので、いろんな見方ができる作品になったと思いますし、人によって刺さり方も変わってくると思う。だからこそ、たくさんの人に観てもらいたいですし、公開されたらマメにSNSをチェックするような気もします(笑)。
PROFILE
古田新太
●ふるた・あらた…1965年12月3日生まれ。兵庫県出身。大阪芸術大学在学中に劇団☆新感線公演『宇宙防衛軍ヒデマロ』に出演したことがきっかけで劇団員に。その後、バラエティ番組やラジオなど多くのレギュラー番組を持ち、現在も舞台、映画、ドラマなど多岐にわたって活躍中。
吉田恵輔
●よしだ・けいすけ…1975年5月5日生まれ。埼玉県出身。映画監督・脚本家。2006年に『机の中身』で映画監督デビュー、同作品でゆうばり国際ファンタスティック映画祭・ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門でグランプリを獲得。手がけた作品に「ヒメアノ~ル」、「愛しのアイリーン」「BLUE/ブルー」などがある。
※吉田監督のよしは、土と口
作品情報
「空白」
2021年9月23日(木・祝)全国公開
(STAFF&CAST)
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
監督・脚本:吉田恵輔
出演:古田新太、松坂桃李/田畑智子、藤原季節、趣里、伊東蒼、片岡礼子/寺田しのぶ ほか
配給:スターサンズ/KADOKAWA
(STORY)
ある日、女子中学生が車に轢かれて死んでしまう。原因は、スーパーで店長の青柳(松坂桃李)に万引きを疑われ、逃げていたからだという。女子中学生の父親・充(古田新太)は娘の無実を証明しようと、店長を激しく追及するうちにモンスターと化し、関係する人々を追い詰めていく。
映画『空白』公式サイト:https://kuhaku-movie.com
©️2021『空白』製作委員会
photo/河野英喜 text/くれい響 hair&make/田中菜月 styling/渡邉圭祐 衣装協力/パンクドランカーズ
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2021年10月3日(日)23:59