佐藤千亜妃インタビュー「“声にならない声”のような形にしづらいものをすくい上げることができたら」

特集・インタビュー
2021年09月22日

◆また話は戻りますが、制作中、最も生みの苦しみを感じた曲はありましたか?

1曲目の「Who Am I」は、一番きつい時期に作っていた曲で、“自分は何者なんだろう”という問いがそのまま楽曲になったんです。昨年5月ぐらいに『テラスハウス』に出ていた木村花さんが亡くなってしまって、ステイホーム期間というのもあり、精神的にいろんなものを受け取ってしまったんです。昨年から今年にかけてみんなうっ憤が溜まっているのか、ネット上がどんどん過激になっていて、炎上とかアンチとかが増えているなと感じている中であのような事件が起きてしまって。ある種自分も毎週番組を楽しみに見ていた人間だったので、見るという行為自体、ちょっと加担しちゃってたのかな? って12週間ぼうぜんとしてしまったんです。木村さんの苦しみがどこからどこまで全部か分からないですけど、ネットだけじゃなく、テレビに出て見世物みたいになっていることもストレスになっていたのかな? って思うと、自分も正義のヒーローとは言えないんじゃないかなって。正義にも悪にも成り切れない自分について考えている中でこの歌詞が出てきたんですよね。

◆正義と悪の区別ってすごく難しいですよね。自分にとっては正義でも相手にとっては悪であったり、またその逆もしかりで。

線引きがすごく難しいものではありますよね。ネット上でアンチみたいに書いている人も、実は何かに傷ついていて、そうしないと立っていられない精神状況なんだろうなとか思うと、そこを否定して生まれるものって何もないのかなって思うんです。アンチって人の命に関わっていることなので、当然わだかまりはあるし、悪いことはしているんですけど、だからこそ「おまえがダメなんだよ」じゃなくて「あなたは誰ですか?」と問うことで考え直すきっかけみたいなものができたらいいなと。どんな場所でもある一定の思いやりを等しく持っていられたらいいのになって思いますね。

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