先日、約2年ぶりとなる2作目のフルアルバム「KOE」をリリースした佐藤千亜妃さん。本作にはドラマ『レンアイ漫画家』の主題歌として話題となった「カタワレ」を含む全12曲が収録されている。インタビューでは、以前から「“声”をテーマにした作品を作ってみたかった」という制作背景やご自身の恋愛観などについても聞きました。
◆まず本作が出来上がるまでの経緯を教えていただけますか?
もともと1stアルバムの「PLANET」を作る前から“声”をフィーチャーした作品を作りたいという構想があって。昨年から制作をスタートさせたのですが、コロナ禍での自粛期間が始まって、その影響でレコーディングがストップしてしまったり、ライブもできなかったり、混沌とした時期があったんです。そこで自分と向き合う時間がたくさんあって、“音楽って何だろう? 歌うことって自分にとってどういうことだろう? そもそも生きるって何? 自分って何者なの?”とか、そういうところまで深く考えこんでしまって、ずっと自問自答を繰り返していて。最初は音として聴こえる声のイメージでアルバムを制作していたんですけど、制作していく中でどんどん自分のパーソナルな、コアなところと向き合う作品になっていって。このコロナ禍を通して“声にならない声”みたいな、人には言えない抱えてる思いとかってみんなあるんじゃないかなというところにたどり着いて、声にならない声に寄り添えたり、逆にそこを自分の歌声で表現することによって、形にしづらいものをすくい上げることができたらいいなと思ったんです。
◆ちなみに自問自答を繰り返す中で答えは出たんですか?
結局“自分が何者なのか?”という答えは出なかったんですけど、ただ“何で音楽をやってるんだろう?”とか“何で歌ってたんだっけ?”というのは思い出せたというか、その答えを自分の中でもう一度再確認した感じはありましたね。単純に歌うことが好きですし、人から褒めてもらったり、感動したよと言ってもらえたりと、エネルギーを人にシェアできることについての興奮みたいなものが音楽をやっている時にあるのかなって思います。私は普段プライベートだとぶっちゃけて本音を言えるようなタイプではなくて。特に初対面の大人の方とかがいると、よく言えばシャイになるというか。空気が読めなさそうに見えて、意外とこっそり読んじゃうんです(笑)。でも、音楽だと何も考えずに素の自分でいられるし、歌った瞬間にいろんなしがらみから自分を解き放てるような気がしていて。そういうところが好きなんだなと思ってこの道を目指したんですけど、改めてこのアルバムをクリエイティブしている最中に、自分の心が濾過されて、自分の中のわだかまりが曲になった時に消化されていくような、作る行為そのものに救いがあるなと気がつきました。そして、何よりそれを待ってくれている人がいるというのはすごくぜいたくな状況だなと思ったんです。
◆コロナ禍で本作を制作したことで原点回帰をすることができた、と。
ありのままの自分で表現することがすごく大事だということを感じましたね。うそをつきたくなくて音楽をしているはずなのに、作り込んでいくと逆行しちゃうなというのをすごく感じて、自分にしかできない表現というのをしっかり見つめて作っていかないといけないなというのをすごく意識した作品になりました。
◆だからなのか、全体の音の作りとしては、余計なものをそぎ落としたシンプルな印象を受けました。
まさにそうです。今回は生音にこだわって録音したんですけど、意味のある音しか鳴ってほしくないという思いがあって。もちろん歌にフィットした楽器の在り方、アンサンブルを練ったりもしたんですけど、例えば、ギターを1フレーズ弾いた時にそこにちゃんと感情が乗ってるかどうかを大事にしたり。でも、そこをものすごく意識していたというよりは、自然に歌に寄り添っていった結果そうなったという感じです。作り終えて自分で聴いても、意味のない音がひとつもないなというのがいい作品として結実したかなと思いますね。
◆一音一音はもちろんですが、佐藤さんが放つ歌声も一言一言が意味のある伝わり方、届けたい思い、メッセージが意味を持ってダイレクトに響いてきました。歌詞とメロディーとの兼ね合いであったり、レコーディング中に気を付けられたことはありましたか?
歌のテイクに関してはかなりこだわって、今までだったらうまく歌えた方を選んでいたのが、今回は多少下手でもそこに何か響く+αがあるものを徹底して選ぶようにしました。特に「カタワレ」という曲は、今作の中だと一番キャッチーでポップな曲だと思うんですけど、アルバムの中ではある種異質で。明るく歌い切ってしまうか、説得力を持たせるためにちょっと重い響きにするのか、ボーカリゼーションはすごく悩みましたね。でも、全体との兼ね合いもあるし、今自分のキャリアとかアーティストとしての性質、自分のパーソナルな部分を反映させた時に、ただ明るく歌うんじゃなくて、今までの人生の重みとかがちょっと染みてくるような歌い方がいいのかなと思って意識してレコーディングしましたね。
◆「カタワレ」はドラマ『レンアイ漫画家』の主題歌としても大きな反響を呼びました。
毎回すてきなタイミングで曲がかかっていたので、私も毎週放送を見ながら新しい発見がありました。あと、視聴者の方も同じような感動を共有してくれているような感じがして、感想を言うのが楽しかったです。しかも、結構歌詞を読み込んでくれている方が多くて、「あっ、ここはきっと吉岡里帆さんの気持ちを歌っているんだね」「ここは鈴木亮平さんの心境じゃない?」とか皆さん解釈が深くて。そういう曲でドラマに貢献できたのも自分の中ですごくうれしかったです。
◆この曲に限らず、全ての楽曲に共通して言えるのが、一言“尊いな”と。
(ポツリと)尊い…うれしいです(照笑)。
◆1曲1曲かみ締めたくなるといいますか、名曲ってこういうものを言うのかなと思ったのですが。
名曲、作りたいです。
◆名曲として成立するには、楽曲はもちろん“声”も重要な要素となるかと思います。今年3月にデジタルシングルで「声」をリリースされ、本作は「KOE」と表記が違いますが、それぞれのタイトルに異なる意味があるのでしょうか?
配信で先に漢字表記の「声」を出してしまったので、差別化というのもちょっとだけあります。でも先ほどもお話したように“声にならない声”というのが今作の裏テーマとしてある中で、聴こえる声にしても気持ちにしてもそれらは形がないものじゃないですか? “形ないもの”というのが自分の中で今回の大事なキーワードとなっているので、漢字で“声”だとあまりに日本人にとってなじみ過ぎているし、発せられるほうの声に結びついてしまうような気がしたので、そこを曖昧にしておきたかったんです。普通英語表記だと“VOICE”なのに、なんで“KOE”なんだろう? って余白を持たせたり、どこの言葉なんだろう? って考える余地が欲しくて、アルファベット表記で“KOE”にしたんです。
◆本作では全作詞作曲を務められています。ストレートでありながら独創的なフレーズも多いですが、特に思い入れの強い曲をあげるとしたら?
8曲目の「棺」というちょっとドープめな曲があるんですけど、これはコロナ禍になる前に書いていた曲で。死生観とか愛のカタチみたいなものをより濃く表現することができていたと思いますし、個人的に一番好きなサウンドになりましたね。歌詞も究極の愛の表現といいますか。何のてらいもなくすっと出てきました。
◆この曲のみならず、さまざまな愛のカタチが描かれていますよね。
今回は失恋の割合がちょっと多めですが(笑)。
◆確かに。ハッピーな恋愛はあまり歌詞には向かない感じですか?
ハッピーだったらみんなに言いふらすので歌詞にはしないかもしれないです(笑)。
◆なるほど。周りの人たちは恋の状況が分かりやすいんじゃないですか?
めったに人を好きにならないから多分反動でそうなると思うんですけど、友達とかにはすごく分かりやすいと思います。でも、好きな相手には一切出さないので、分からないみたいです(苦笑)。小学校の時も10年ぐらいずっと好きな人がいたんですけど…あっストーカーみたいですよね(笑)。
◆いやいや、10年間も一途に思い続けられるってすごいことですよ。
中学の時に席が隣になってすごくうれしかったんですが、それを出すのが恥ずかしくて、話しかけられるたびに、「ウザッ」とか「○○に聞けばいいじゃん」とか、めちゃくちゃ冷たくしていて。今思うとバカなの? すごくもったいないことしてる! って思うんですけど(笑)。
◆あまのじゃくなんですね。
そうなんです、いまだにあまのじゃくなのは変わりません(笑)。でも、高校に入った時に私の友達の彼と好きな人が親友で、友達の仲介で付き合うことになったんです。
◆おぉ~成就したんですね!
あとで「あの時俺のこと嫌いだったでしょ?」って聞かれたので「いや、好きだったよ」って返したら、「絶対嫌われてると思ってた、毎日冷たかったもん」って言われたりして…。あ、話が逸れてしまってすみません(笑)。
◆いえいえ。ちなみに彼のことを綴った楽曲はないんですか?
今作にはないですけど、めちゃくちゃありますよ。引きずるタイプなので、まだ曲を作る引き出しの中にたくさんいますし(笑)。でも、引きずるとはいってもさすがに戻りたいとは思わなくて。高校の時甘酸っぱい恋愛したなっていういい思い出としてとらえて、“無理に忘れる必要なくない?”“せっかく好きになった人なんだから、一生(人間として)好きなままでも問題なくない?”って考えるようにしたら気持ちがすっと楽になったんです。いつの間にか執着しなくなってたんですよね。むしろそれぐらい好きになれた人がいるってすごいすてきなことだと思うし、創作活動で何もない時でも記憶でずっと擦れるネタがあるっていうのはありがたいなって、自分に都合よくとらえています(笑)。
◆また話は戻りますが、制作中、最も生みの苦しみを感じた曲はありましたか?
1曲目の「Who Am I」は、一番きつい時期に作っていた曲で、“自分は何者なんだろう”という問いがそのまま楽曲になったんです。昨年5月ぐらいに『テラスハウス』に出ていた木村花さんが亡くなってしまって、ステイホーム期間というのもあり、精神的にいろんなものを受け取ってしまったんです。昨年から今年にかけてみんなうっ憤が溜まっているのか、ネット上がどんどん過激になっていて、炎上とかアンチとかが増えているなと感じている中であのような事件が起きてしまって。ある種自分も毎週番組を楽しみに見ていた人間だったので、見るという行為自体、ちょっと加担しちゃってたのかな? って1、2週間ぼうぜんとしてしまったんです。木村さんの苦しみがどこからどこまで全部か分からないですけど、ネットだけじゃなく、テレビに出て見世物みたいになっていることもストレスになっていたのかな? って思うと、自分も正義のヒーローとは言えないんじゃないかなって。正義にも悪にも成り切れない自分について考えている中でこの歌詞が出てきたんですよね。
◆正義と悪の区別ってすごく難しいですよね。自分にとっては正義でも相手にとっては悪であったり、またその逆もしかりで。
線引きがすごく難しいものではありますよね。ネット上でアンチみたいに書いている人も、実は何かに傷ついていて、そうしないと立っていられない精神状況なんだろうなとか思うと、そこを否定して生まれるものって何もないのかなって思うんです。アンチって人の命に関わっていることなので、当然わだかまりはあるし、悪いことはしているんですけど、だからこそ「おまえがダメなんだよ」じゃなくて「あなたは誰ですか?」と問うことで考え直すきっかけみたいなものができたらいいなと。どんな場所でもある一定の思いやりを等しく持っていられたらいいのになって思いますね。
◆相手に対する思いやり、ちょっとした気遣いがあるかないかで随分変わりますよね。
想像力ですよね。自分のパターンだとこうだけどっていうのは考えられても、相手のパターンまで想像するのって余裕がないと難しいと思うんです。だから、なるべく人は人って思って想像力を働かせようとしていますね。コロナ禍の状況も相まってみんな精神的に疲弊しちゃってるのかもしれないですけど、常に思いやりを忘れないようにしていれば、相手を苦しませるようなこともなくなると思うので。あと、文字ベースだとけんかみたいになってしまうことでも、意外と会ったり電話で話したら分かり合えたりすることもあると思うし。
◆確かに文字だけだと相手の受け取り方によって誤解を生じてしまうこともありますからね。
まさに音楽の意味って、言葉で補い切れないあふれた部分の感情が音になると思っていて。メロディーとかリズム一つで悲しい感情か楽しい感情かは何となく分かるじゃないですか。だから、作詞をする時は楽しいとか、悲しいとか、愛してる、泣いたとか具体的な言葉をなるべく使わず情景とか比喩とかで想像できるように、感情を直接書かないようにしています。意外な方向性で想像して聴いてくれている方もいるので、あまり感情を指定しすぎないようにしたいなって。言葉だけじゃない表現があるからこそ音楽っていいなと思うし、ずっととらえようがなくて、飽きないんですよね。
◆確かにそうですね。では最後にファンの方、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
大変な状況が続いていて、しんどい人もたくさんいると思うんですが、音楽は説教も励ましもしなくて、ただそこにあるだけなんです。でもそれにすごく救われることもあると思っていて。例えば何も言わないけどただ隣にいてくれる親友とか家族とか…音楽ってそういう存在になれるんじゃないかなと思うので、この作品が聴いてくれる人にとって、家族、親友、戦友などのようなものになってくれたらいいなと思います。ぜひたくさんの方に「KOE」を聴いていただけたらうれしいです。
PROFILE
佐藤千亜妃
●さとう・ちあき…1988年9月20日生まれ。岩手県出身。B型。4人組バンド・きのこ帝国(現在活動休止中)のVo/Gt/作詞作曲を担当。現在はソロ活動に専念する傍ら、他アーティストへの楽曲提供やプロデュースを手掛けるなど、多岐にわたって活動中。
リリース情報
ニューアルバム
「KOE」
現在発売中
●photo/田中和子(CAPS) text/星野彩乃 hair&make/SAKURA(まきうらオフィス)styling/町野泉美 衣装協力/Name.、KAIKO
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2021年9月29日(水)23:59