先日、40歳の誕生日である9月14日にニューアルバム「Imaginary」をリリースしたMIYAVIさん。本作にはオリジナル曲に加え、カバー、コラボを含むバラエティに富んだ楽曲を収録。完成までの経緯や次々と新しいことに挑戦していく原動力などについてもお伺いしました。
◆ニューアルバム「Imaginary」ができるまでの経緯について、教えてください。
最初の予定では、去年の3月、4月には仕上げるつもりだったんです。でも、コロナ禍でツアーも延期になり、ロサンゼルスから自分のチームを呼ぶこともできなくなってしまった。それに、アルバムという作品はやっぱりオーディエンス、ファンの皆さんの前で演奏して初めて完成形になるもの。ツアーができないまま「Holy Nights」と立て続けにアルバムを2枚出すというのは、自分としてもあまり納得できなかったので一度寝かせることにして。今年に入って、もう一度具体的な作業を再開させました。
◆コンセプトが先か、それとも、1曲1曲作り上げていき、まとめたものなのかというと?
最初はもっとコンセプチュアルな1枚にしようと思っていたので、実はこのアルバムに入れようと思っていて入れなかった楽曲もたくさんあるんです。逆に、ECCのプロジェクトテーマ曲「Are You With Me?」など、別の企画として書いたものなど、当初は入れようと思っていなかった曲も入っています。まず何よりも、今回は暗い歌を入れたくなかった。コロナの状況下で、ちょっと無理してでも元気が出るようなアルバムにしたかった。それもあって、バリエーション豊かな感じに仕上がったのかなと。今、アルバム聴きする人より曲単体で聴く人が多いから、1つひとつのメッセージや明度、ポジティブさを重視しました。一貫して伝えたかったのは、“未来を感じること”そして“自分を開放する”ということ。未来を感じられて、自分を開放することができれば、何だってできる。このアルバム自体、最初から思い描いていたものではなく、環境が変わっていく中でいろんなトライをしてたどり着いたものなんです。
◆世の中の現状も、制作スタイルや方針に大きく影響しましたか?
はい。やはり、コロナの影響はとても大きかったですね。前作「Holy Nights」はコロナ前に作ったものですが、既に気候変動に性差別、人種差別などいろんな問題が地球上にあふれていて。僕自身、難民支援の活動をしながら、“この状況下で自分は何を歌うべきなのか”というものに重きを置いて作ったアルバムでした。さらに、そこに追い討ちをかけて新型コロナウイルスという感染症が世界中に広がってしまった。これは僕だけではなく、全てのクリエイティブに関わる人たちが、問われたと思うんですよ。“今、自分は何を表現すべきなのか”と。去年はツアーも延期になってしまったので、自宅のスタジオからのバーチャルライブ配信、チームラボや、バーチャルリアリティーにXR技術の活用など、とにかくいろんな方法を試しました。そんな中「想像力、思い描く力、創り出すバイタリティー、ゼロから一を創り出すことこそが自分たちの武器なんじゃないか」というところにたどり着いた。そこにこそ、自分たちクリエイターの存在意義があるのではないかと。僕らはイメージして、クリエイトすることで未来を指し示したり、感じることができる。今、日本には“こっちだよ!”と道筋を示してくれるリーダーがいない。長い夜も、明日が来るから越えられるのであって、“明日ね…来るとは思うけど…どうかな”みたいに言われたら、誰だって不安になりますよね(笑)。来るって言ってよ! って。そんな状況だからこそ、僕ら音楽家にできることは、未来は明るいということを信じて、それを歌にして伝えることなんじゃないかなと思ったんです。
◆新たな作品が届き、そこに触れることで感情が動き、行動を起こすパワーにもなると。
僕だって、迷いや不安はありますよ。今だって、不安を全く感じていないわけじゃない。以前のような、汗をかいてダイナミックにみんなと一緒に楽しめるライブ、あの日々は本当に帰って来るんだろうか!? って思う。10月からアメリカツアーに入る予定ですが、本当に正しい方向に進んでいるのだろうか、という迷いはゼロではないし。でも、ただ何事もやらずに屈してしまうのは嫌なんです。去年にしても、コロナのせいで何もできなかったとは絶対に言いたくなかった。失われた1年にはしたくなかった。虚しいままで年を越したくなかったから、年末の最後の最後まで走り抜けました、正直今年になって、もう少し明るい未来になるかなと思っていたけど、まだ状況は好転していない。それでも作品が出せるのは、聴いてくれる人がいるからだし、だから僕らも歌い続けていられる。商業的かどうかは別として、僕なりのメッセージを歌い続けることが、自分の存在理由であり、存在意義だと思っています。
◆アルバムを通して聴くことは少なくなったと言われていますが、この「Imaginary」はとてもドラマチックで、ライブをイメージさせてくれます。
もちろん、そこは意識しています。でもぶっちゃけると、このアルバムは最初の2曲で完成(笑)。最初の2曲で、言いたいことは全部言っちゃってる。“好きだー!”ってシンプルに告白して、はい、以上! みたいな。残りの9曲は、カップリングです、みたいな(笑)。両A面のシングルを、カップリング曲をたくさんつけて出しました! という感じ。
◆元Wanna Oneのメンバーであるカン・ダニエルとのコラボ曲など、カップリングにしてはぜいたくすぎるラインナップです(笑)。
ああ、そうですね。彼ともたまたま縁があってコラボすることになったんです。彼も僕のことも知っていてくれて、ぜひ! と言ってくれた。あらためて彼の作品も聴いたんですが、最近、特に変わったような気がしています。アーティストとしての方向性が固まったというか、目覚めた感じがある。このアルバムには入らなかった曲も候補としてあったんだけど、この「Hush Hush(feat. Kang Daniel)」がいいと言ってくれたので、アルバムに入れることになりました。
◆外からの提案や流れに乗ってみるということも多いですか?
僕は結構ありますね。制作にしても、普段はロサンゼルスで作るんだけど、今は向こうに行けないし、こちらに人も呼べない。だから今回は逆に東京にいるからこその布陣でやるべきだなと思い、サウンド面ではco-producerとしてJeff Miyahara氏を招き、ビジュアル面はKing Gnuの常田(大希)君率いるPERIMETORONにお願いさせてもらいました。綾野剛君に紹介してもらったんだけど、新しい世代のクリエイターだよね。ジェフのポップ性、ボーカルアプローチにもすごく学びがあったし、自分の声に関しても新しい発見があった。今までのやり方とは違う分、戸惑うことも、乗り越えるまで大変な時期もあったけど、やるからには身を委ねなければいけない。サウンドクリエーション、キャンバスの中に音をどう置くかという部分やボーカルアプローチはジェフの意見をたくさん取り入れたし、アルバムのアートワークは「New Gravity」で歌っていることを彼らなりに拡大解釈して表現してもらった。いろんな分野で、自分たちが作ってきた重力=常識やルール、しきたりみたいなものがある。でも今、当たり前なことが当たり前じゃなくなったり、必要なものが必要じゃなくなったり、反転が起こっている。どんどん変わっていく価値観の流れの中に僕らはいる。どこに新しい基準(重力)を定めるか、そういったことを歌っています。今こそ古いしがらみから抜け出して、新しい重力を設定し直すチャンスだと捉えるべきなんじゃないかと。
◆逆境にありながらも、次々と新しいことに着手し、挑戦していくMIYAVIさんのパワーの源というのは?
うーん、どうだろう。気持ちはあるのに、やらないことの気持ち悪さを知っているからかな? 失敗することだけを恐れてしまうのは、応用力がないから。やってみて、うまくいかなかったときにどう立て直すか。それは、やってみた本人にしか分からないし、やってみないことには身につかないと思うので。
◆音楽活動以外では、Amazon Prime Videoで配信中の『ザ・マスクド・シンガー』やNetflixで配信中の『KATE』に出演しています。
Amazon Prime VideoとNetflixも、テレビではないけど“TVLIFE”の枠に入るんだ!?(笑)『ザ・マスクド・シンガー』は、あんなにも何もしなくてもいい現場は初めてでした(笑)。フゥ~! と盛り上げて“誰かな?”“あれ、違うか!?”と、好き放題予想して、パフォーマーたちの素晴らしいパフォーマンスを楽しんでいるだけ、という(笑)。それこそ、お茶の間でテレビを見てワーワー言っている感覚でしたね。あと、みんなが知っている曲を歌ってくれているので、あらためて邦楽、日本の歌謡曲の良さを再発見できました。大泉洋さんのMCも面白いし、進行も上手です。制作自体は日本のバラエティ番組のスタッフが作っているので、お茶の間でも気兼ねなく見て楽しんでいただけると思います。本当に日本のバラエティのテンポと海外のダイナミックな規模感の良いバランスだと思います『KATE』のほうは、舞台が日本で、他に浅野忠信さんや國村隼さんなどが出ていて、たまたま「こういう役柄があるんだけどどう?」とオファーして頂いたことがきっかけで。世界初、アクションもできるギタリストの誕生です(笑)。そのうち、ギターで戦ったりするんじゃないかな(笑)。
PROFILE
MIYAVI
●みやび…“サムライギタリスト”として世界から高く評価されているギタリスト。エレクトリックギターをピックを使わずに全て指で弾くという独自の“スラップ奏法”で注目を集め、これまでに約30か国350公演以上のライブとともに8度のワールドツアーを成功させている。
リリース情報
ニューアルバム
「Imaginary」
現在発売中
●photo/干川 修 text/根岸聖子 styling/櫻井賢之[casico] 衣装協力/GUCCI
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2021年10月4日(月)23:59