先日最終話を迎えたParaviオリジナルドラマ『東京、愛だの、恋だの』。特集の第2回となる今回は、主人公の和田かえを演じた松本まりかさんとタナダユキ監督のスペシャル対談! ユーモアたっぷりだったという撮影現場の裏話を聞かせてくれました。そんな楽しい現場で引き出された「素」の松本まりかの表情にも注目して見返して見ると、ドラマがさらに面白くなること間違いなし!
◆まずタナダ監督に伺いますが、今回、松本さんと一緒にお仕事をした感想から聞かせてください。
タナダ:本当に真摯に役に向き合ってくれる方という感じでした。今回が「はじめまして」でしたが、これまでいろんな作品でお見かけしていたので、お芝居に関しては、不安はありませんでした。ただここ2、3年くらいかな、今まで以上に注目されるようになった役が、わりと特殊な性格の人物が多くて。今回演じてくださった和田かえは、登場人物の中で一番ノーマルであり、一番揺れ動く人でもある。こういう等身大の役も松本まりかという人は全然できてしまうから、それをもっといろんな人に知ってもらいたいなと思いました。
◆真摯に役に向き合っていると感じた具体的なエピソードは?
タナダ:すごくよく覚えているのが6話の、ファーストサマーウイカさんとの病院のシーン。かえの感情がちょっと高ぶるんだけれども、せりふとしてはちょっと説明っぽいことを言わなければいけないんですね。もし言いづらいのであればせりふを変更しようかなと思ったのですが、そのシーンはまりかちゃん本人から「自分がセリフに合わせていけばいいので、がんばります」と言ってくださって。感動しましたね。
松本:すごく難しかったんですけど、あの場面にあのせりふは、なくてはならなかったんですよね。
タナダ:区切れないから、難しかったんだよね。
松本:そうですね。でもカットしてはいけないせりふで、私の(頭の中での)整理の問題だけだったんです。そこを乗り越えるのは、私がしなければいけない仕事だと思いました。でもかえは、日常の私からの延長線上で、息を吸うようにせりふが言えるくらいリアリティのある役でしたね。多分、6話のセリフが難しかったのは、その前に爆笑があったからだと…(笑)。
タナダ:スタッフがまりかちゃんを爆笑させたんですよ(笑)。なんでかと言うと、今回すごくタイトなスケジュールでの撮影だったので、なんとか自分たちのテンションを上げようとしていたんです。そしたら、だんだんコスプレ祭りのようになっていって、病院のシーンでは内トラ(スタッフがエキストラをやること)をやらないスタッフまで白衣やパジャマを着て。まりかちゃんが朝、現場に来ていきなりその状態だったから、「何やってるんだろう、この人たち?」って混乱してしまったのかなと。
松本:しかも、それがクランクアップの日で、朝から「ここは集中しなきゃ!」ってシーンだったんです。でも現場に入ったらその状態だったので、「なにごと!?(笑)」と思いつつ、幸せな気持ちになりました。ほかの日も、「今日は青縛りにしよう」「今日はヒョウ柄縛り」みたいに、皆さんコスプレしていて楽しかったんですよ。
◆ドレスコードみたいな感じだったんですね。
松本:そう、まさにドレスコード!(笑) メイクさんがCAさんの格好をして、「失礼します」って言って私のメイクをしてくれたこともありました。ユーモアある現場で、スタッフの皆さんも楽しんでいて、でも作品に向ける情熱はハンパない。「こんなにいい現場、ある!?」って思うくらい、現場にいるのが楽しくて楽しくてしょうがなかったです。そんなこと、初めてでしたね。
タナダ:もちろん、どの現場でもやっているわけではないんですよ(笑)。主演がそれを許してくれたから(笑)。まりかちゃんが楽しんでくれたから、スタッフも調子に乗って「今日は何縛りにする?」って考えるようになったんです。
松本:じゃあ、今回が初めてなんですか!? あれがタナダ組なんだと思ってました。
タナダ:いやいや、毎回やらないから(笑)。
◆ちなみに、どういう経緯でコスプレが始まったんですか?
タナダ:1話に出演してくださった板谷由夏さんの回想シーンで、「(板谷さんを)ターバンをつけている人にしましょうか」ということになったんです。そしたら撮影時、なぜかターバン率が高くて(笑)。板谷さんもまりかちゃん同様、笑ってくれる方だったので、気持ちが和んで、そこからみんな調子に乗り始めたんです(笑)。今回は衣装・メイク部が元気なチームで。もちろん、もしもおふざけに走りすぎて仕事が疎かになったら注意したと思うんですけど、この人たちがとってもよく働くんですよ。
松本:いや、ホントによく働く! しかもおふざけすればするほど、もっともっと仕事に集中していくっていう、すごいことが起きていたんです。その姿を見て、感動してしまいました。今回のことで、ユーモアってすごく大事なんだなって思いましたね。タナダさんの作品って、絶対ユーモアがあるんです。ことさら人をキラキラ描かないし(笑)、作られたキュンキュンもない。「まりかちゃん、ブス顔して」って言ってきたりと、人の欠点もちゃんと見せるんだけど、それによって登場人物がもっと愛おしくなる。タナダ監督の作風みたいなものが、あの現場でも起きていたなって思います。
タナダ:よかった。いつ苦情を言われるかと思っていたから(笑)。
松本:なんなら、私も乗っかってましたし。
◆日常を過ごす松本さんの、いろんな表情が見られるドラマだと思います。タナダ監督は「普段の表情」みたいなものを引き出そうと思っていらっしゃったのでしょうか?
タナダ:今まであまり見たことがない「松本まりか」を見せたというのはありました。でもお芝居に入ってしまうとまりかちゃんは自然にできてしまうので、私から事細かく「こうしてほしい」「ああしてほしい」と言うよりも、まずやってみてもらって、何かあれば修正していく感じだったと思います。
◆松本さんの演技や表情で、特に印象に残っているものがあったら教えてください。
タナダ:毎話あったから1つ選ぶのは難しいけど…印象に残っているのは、ウイカちゃんの髪の毛を洗うシーンかな。ワッシワシ洗っていて(笑)、それが私にはすごく新鮮でした。まりかちゃん本人は、以前「お嬢様なの?」って聞いたことがあるくらい、品があるんですよ。なので、本人が思っている以上にがさつな感じで演じると、一般の人のがさつさに合致すると思っていたんです。そしたら最初からワシワシ洗っていて。思わず笑っちゃいました(笑)。
松本:タナダさんからはよく「がさつに、がさつに」と言われていましたね。あと、ぷぅっとした顔をしたり。
タナダ:かわいくなりすぎちゃうより、同性が見て魅力的に感じる、その加減はどこだろうって、一緒に考えながらやっていったよね。
松本:そうですね。
タナダ:今回は女性のスタッフが「同性から見て、本当にかわいい」とよく言っていたので、すごくうれしいなって思いました。まりかちゃんはあざといって言われがちだけど(笑)、お仕事をしてみて思ったのは、誤解されやすいのかな? と。本人は全くそんなつもりはないのに、かわいく見えすぎちゃうところがあるのかなと思いましたね。
松本:昔から本当に誤解されやすいですね。私にとってかわいいって、ものすごく嫌な言葉だったんです。トゲがあってバカにされているというか。本当にかわいい人って、内面から滲み出てくるものがあるじゃないですか。「ジワるかわいさ」と言うか。それがタナダ作品の登場人物たちには、ある。私はそこを目指したくて、今回は“何もしない”ことを意識したんだと思います。
◆仕事帰りの人が行くような飲食店で、大学時代の同級生・芦屋に愚痴をこぼすシーンもかわいかったです。
タナダ:芦屋とのやりとりは、なんて言うんだろう…男女を感じさせない、本当の友達って感じでしたね。そういう何気ないシーンが本当に新鮮でした。
松本:私は今回タナダ組で、やったことがないことばかりやりました。色気のない男友達とのやりとりとか(笑)。
タナダ:本当に「普段」のことなんだよね。
松本:そう。本当の私の「素」の部分って、今回みたいな感じなのかなって思うんです(笑)。今、世の中に出ているイメージのほうが虚像だなって思う時がありますね。
タナダ:そういえば、まりかちゃんって空手の黒帯なんだよね。
松本:はい、黒帯です(笑)。
タナダ:雑談していた時、それを聞いてびっくりしました。ある意味、黒帯から一番遠くにいる人だと思っていたから、なんだか面白くて。そういう、パブリックイメージとは違う部分がもっと表に出ると、もっともっと面白い役が来るんじゃないかなって思いますね。
松本:なんでしょうね…、私は本当の自分に自信がないのかも知れない。そういう部分を表に出すのが怖いのかも。
タナダ:黒帯が?(笑)
松本:いや、黒帯は全然いいんですけど(笑)、でも今回、かえを素に近い感じで演じられて、「あれでいいんだ!?」と思えました。それは私の中ではすごく大きかったです。
◆最終話では、あらためて「東京」ってどんなところだろうと考えさせられました。お2人にとって、「東京」はどんな街ですか?
タナダ:まりかちゃんは、東京出身なんだよね?
松本:はい。私は東京出身なので、「東京」という街に特別感がないんです。東京の人って、実は東京のことはそんなに知らないんですよね。東京タワーにも仕事でのぼったことがあるくらいで、当たり前にそこにあるから、それを見て「東京だ!!」って感じることもない。なので私は、東京以外の故郷が欲しかったって思うタイプです。なんで自分にはほっこりした故郷がないんだろうって。だから今回、お三方の脚本を読んで、「東京って、意外と素敵じゃん」って視点を持たせてもらいました。発見が多かったです。
タナダ:私は地方出身なので、若いころは東京出身の人がうらやましかったです。情報や選択肢が多いから。でも今は地方出身でよかったなとも思います。選択肢があまりに多いと、逆に何を選んでいいか迷っちゃうだろうなと。そして今の私にとって東京は、とても居心地のいい場所だったりします。これは6話で描かれていますけど、人口が圧倒的に多くて、いい意味で人混みに紛れることができるから。外国の大きな都市もそうですが、東京っていい意味で他人に関心がない。好きなことを好きなようにやっても、「こういう人いるよね」って放っておいてくれる。それも温かさのひとつの形なのかなって、東京にいると思えたりしますね。
PROFILE
松本まりか
●まつもと・まりか…1984年9月12日生まれ、東京都出身。2000年にドラマ『六番目の小夜子』で女優デビュー。2018年ドラマ『ホリデイラブ』のあざとかわいい役柄で注目を集める。最近では、ドラマ「それでも愛を誓いますか」に主演している。
タナダユキ
●たなだ・ゆき…1975年生まれ。福岡県出身。映画監督・脚本家。映画『百万円と苦虫女で』で第49回日本映画監督協会新人賞を受賞。手がけた作品に『ふがいない僕らは空を見た』、『ロマンスドール』、『浜の朝日と嘘つきどもと』などがある。
番組情報
Paravi オリジナルドラマ『東京、愛だの、恋だの』
全7話 独占配信中
(STAFF&CAST)
監督:タナダユキ
脚本:向井康介、ペヤンヌマキ、タナダユキ
出演:松本まりか/毎熊克哉、梶裕貴、一ノ瀬颯、清水葉月 ほか
(STORY)
不動産会社で働く35歳の和田かえ(松本まりか)は、何らかの事情で住まいを探そうとする女性や、悩みを抱える知人たちと日々関わっていく。プライベートでは大学時代から10年つき合っている恋人・橋本竜也(梶裕貴)との同棲話が出るが、竜也の浮気が発覚。かえは別れを切り出す。また竜也のことも話せる大学時代からの男友達・芦屋勇作(毎熊克哉)との関係にも変化が…。
公式サイト:https://www.paravi.jp/static/tokyo_aikoi
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©️Paravi
text/佐久間裕子