◆なるほど。ちなみに仲野さんは今回で岩松作品に出演されるのが5作目になりますね。
勝地:そんなに!? すごいね。最初の作品は?
仲野:下北沢のザ・スズナリで上演した「国民傘-避けえぬ戦争をめぐる3つの物語-」(2011年)でした。2作目が翌年の「シダの群れ 純情巡礼編」ですね。
勝地:そのあとに、「結びの庭」(2015年)と「二度目の夏」(2019年)か。今でもやっぱり緊張する?
仲野:します、します(笑)。でも、それ以上に楽しさのほうが強いです。岩松さんの舞台って、いつも目に見えない気配や面影のようなものがあると感じていて。僕はそれを“香り”だと思っているんです。ほかの劇作家の方と明確に違うのは、そうした形容できない演劇の香りが劇場に充満していて、かつ、それが心の中に強く残ることなんです。その舞台上に役者としていられるというのが本当に幸せで。それに岩松さんの美しい言葉やせりふって、岩松さんの作品の世界の中だけで成立するものだとも思っていて。だからいつも、“何でこんなことを書けるんだろう?”という驚きがあるんですよね。
勝地:そうなんだよなぁ。ものすごく分かる。
仲野:客席で見ていても、あれほどまでにため息が出るお芝居ってほかにない気がします。うっとりするし、それでいて、たまにゾッとする。その緩急もちょっと特別ですよね。
勝地:そういえば、少し前に一緒に観た岩松さんの舞台があったじゃない? 偶然、劇場でばったり会って。
仲野:松雪泰子さんとソニンさんが出てらした「そして春になった」(2020年)ですよね。
勝地:そう。あの時の太賀も最初はただ座ってたのに、少しずつ前傾姿勢になって、最後は食い入るように観ていて。それってすごいことだなと思ったんだよね。
◆それは無自覚にということですよね。
仲野:そうですね。なっちゃうんですよ。体が自然に前にいっちゃう。で、とことん作品に惹きつけられて、観終わったあとに、「はぁ〜〜〜」って深い息が漏れる。“ヤバい、ヤバすぎる! 何なんだ、この人は!?” “どうして、こんなのが書けるんだ?”って。岩松作品に何本出演しても、どれだけ僕が教養を身につけても、岩松さんは常に手の届かない遥か先にいる。いつもそんな感じなんです。
勝地:ホント、岩松さんって何なんだろう? 普段何をしてたら、あんな作品を生み出せるんだろう。散歩している時、どんな景色が見えているのか、すごく気になる。
仲野:たまに岩松さんが思い出話をしてくれることがあるじゃないですか。その時の言葉の描写もすごいですよね。心象風景について語っているだけなのに、心を持っていかれるというか。
勝地:うん。思い出話じゃなく、まるで戯曲だもんね。
仲野:そうなんですよ。それに勝地さんもきっと同じ経験があると思うんですが、舞台役者って、つい魔が差して、“自分でもホンを書いてみようかなぁ”って思ってしまうこと、ありますよね?
勝地:あるある(笑)。
仲野:でも、岩松さんのホンを読むと、すぐ筆を折りたくなるんです(笑)。“あぁ、無理!”って。
勝地:めっちゃ分かる!(笑) 少しは書けるかもしれないけど、岩松さんのホントのすごさを知ってるから、公演が終わった瞬間に破り捨てると思う(笑)。
仲野:(笑)。でも、そうやって岩松さんの戯曲に圧倒されて、筆を折った人ってたくさんいるんでしょうね。
勝地:“こんな天才いたら、自分の出番ないわ!”ってね(笑)。
仲野:そうそう! …って、すみません。テンション上がりすぎて、話が脱線しちゃいました(笑)。え〜と、何を一番言いたいかというと、今回の作品に携われて本当に幸せだということです!