勝地涼さんと仲野太賀さんがW主演で挑む舞台「いのち知らず」がまもなく開幕。作・演出を手がけるのは、岩松了さん。せりふの美しさや緻密な人間描写、それに刺激的な稽古場など、岩松さんが作り出す世界を愛してやまない2人に、あらためて舞台人の視点で感じる岩松作品の楽しさや、互いの役者としての魅力を聞いた。
◆今回の舞台は、勝地さんから岩松さんに直接お話を持ちかけたそうですね。
勝地:僕の初舞台は岩松さんが書かれた「シブヤから遠く離れて」(2004年)だったのですが、演出は蜷川(幸雄)さんでしたので、岩松さんから直接演出を受けたのは2年前の「空ばかり見ていた」でした。その時、これまでとは違った稽古の楽しさを経験し、いつかまた岩松さんの演出を受けてみたいと思ったんです。でも、そうやっていつまでも待っているだけじゃダメだと考え直し、舞台の公演中に、岩松さんの控え室に遊びに行くようなテンションでふわっと、「太賀と僕にホンを書いてくれませんか?」と言ってみたところ、「…へぇ、ふふん」ってまんざらでもない反応を頂きまして(笑)。それで現在に至ります。
仲野:そういう流れだったんですか!?
勝地:うん。でも、僕にとってこれはすごく大きな一歩で。僕はあまり自分から率先してこういうことをするタイプではないし、いざ行動に移そうとすると、勇気もいることだから。
仲野:そうですよね。今、お話を聞いていて意外でしたもん。だけど、勝地さんに指名してもらえたというのは、なんだかラブレターをもらったみたいですごくうれしいです(笑)。しかも、それが岩松さんの作品というのも最高に幸せですし。もちろん、W主演として2人で岩松さんの作品を背負う重みは分かっているつもりですし、生半可な気持ちではできないなと感じています。ただ、その半面、勝地さんとならやれるはずだという確信もありますので、今は本番がすごく楽しみです。
◆お2人をそこまで夢中にさせる岩松了さんの作品の魅力って、何でしょう?
仲野:物語の面白さやテーマの描き方はもちろんですが、とにかくせりふが美しいんです。それは演じていても、客として観ていても強く感じますね。
勝地:そうだね。ただせりふを丸暗記しろと言われると難解な部分があるけど、役として演じながら発すると、ものすごく気持ちがいい。
仲野:分かります。きっと言葉の美しさに一切の嘘がないからなんだと思います。
◆なるほど。ちなみに仲野さんは今回で岩松作品に出演されるのが5作目になりますね。
勝地:そんなに!? すごいね。最初の作品は?
仲野:下北沢のザ・スズナリで上演した「国民傘-避けえぬ戦争をめぐる3つの物語-」(2011年)でした。2作目が翌年の「シダの群れ 純情巡礼編」ですね。
勝地:そのあとに、「結びの庭」(2015年)と「二度目の夏」(2019年)か。今でもやっぱり緊張する?
仲野:します、します(笑)。でも、それ以上に楽しさのほうが強いです。岩松さんの舞台って、いつも目に見えない気配や面影のようなものがあると感じていて。僕はそれを“香り”だと思っているんです。ほかの劇作家の方と明確に違うのは、そうした形容できない演劇の香りが劇場に充満していて、かつ、それが心の中に強く残ることなんです。その舞台上に役者としていられるというのが本当に幸せで。それに岩松さんの美しい言葉やせりふって、岩松さんの作品の世界の中だけで成立するものだとも思っていて。だからいつも、“何でこんなことを書けるんだろう?”という驚きがあるんですよね。
勝地:そうなんだよなぁ。ものすごく分かる。
仲野:客席で見ていても、あれほどまでにため息が出るお芝居ってほかにない気がします。うっとりするし、それでいて、たまにゾッとする。その緩急もちょっと特別ですよね。
勝地:そういえば、少し前に一緒に観た岩松さんの舞台があったじゃない? 偶然、劇場でばったり会って。
仲野:松雪泰子さんとソニンさんが出てらした「そして春になった」(2020年)ですよね。
勝地:そう。あの時の太賀も最初はただ座ってたのに、少しずつ前傾姿勢になって、最後は食い入るように観ていて。それってすごいことだなと思ったんだよね。
◆それは無自覚にということですよね。
仲野:そうですね。なっちゃうんですよ。体が自然に前にいっちゃう。で、とことん作品に惹きつけられて、観終わったあとに、「はぁ〜〜〜」って深い息が漏れる。“ヤバい、ヤバすぎる! 何なんだ、この人は!?” “どうして、こんなのが書けるんだ?”って。岩松作品に何本出演しても、どれだけ僕が教養を身につけても、岩松さんは常に手の届かない遥か先にいる。いつもそんな感じなんです。
勝地:ホント、岩松さんって何なんだろう? 普段何をしてたら、あんな作品を生み出せるんだろう。散歩している時、どんな景色が見えているのか、すごく気になる。
仲野:たまに岩松さんが思い出話をしてくれることがあるじゃないですか。その時の言葉の描写もすごいですよね。心象風景について語っているだけなのに、心を持っていかれるというか。
勝地:うん。思い出話じゃなく、まるで戯曲だもんね。
仲野:そうなんですよ。それに勝地さんもきっと同じ経験があると思うんですが、舞台役者って、つい魔が差して、“自分でもホンを書いてみようかなぁ”って思ってしまうこと、ありますよね?
勝地:あるある(笑)。
仲野:でも、岩松さんのホンを読むと、すぐ筆を折りたくなるんです(笑)。“あぁ、無理!”って。
勝地:めっちゃ分かる!(笑) 少しは書けるかもしれないけど、岩松さんのホントのすごさを知ってるから、公演が終わった瞬間に破り捨てると思う(笑)。
仲野:(笑)。でも、そうやって岩松さんの戯曲に圧倒されて、筆を折った人ってたくさんいるんでしょうね。
勝地:“こんな天才いたら、自分の出番ないわ!”ってね(笑)。
仲野:そうそう! …って、すみません。テンション上がりすぎて、話が脱線しちゃいました(笑)。え〜と、何を一番言いたいかというと、今回の作品に携われて本当に幸せだということです!
◆(笑)。では、岩松さん演出の稽古で楽しみにされていることは?
勝地:今回の舞台の台本が完成していないので(※取材時)、まだ何とも言えないのですが、岩松さんの作品ではよく役者が意味不明なダンスというか、動きをさせられることがあるんです。「空ばかり見ていた」では、僕がそれを任されたんですけど…あれって、今回はどっちがやるんだろうね?
仲野:気になりますよね(笑)。僕らのどちらかなんですかね。新名(基浩)さんかもしれないですよ?
勝地:あ、そうか。まさかの岩松さん本人っていう可能性もあるしね(笑)。
仲野:光石(研)さんかもしれない(笑)。
勝地:あ〜、見てみたい(笑)。岩松さんの舞台にはそうした無茶ぶりみたいなところもあるのが、僕は楽しみです。ただ、それを自分に振られる時がものすごく怖いんです。動きは決まってなくて、岩松さんからも「…とりあえずやってみようか」って言われるだけなんで(笑)。
仲野:あれ、ものすっごくプレッシャーがかかりますよね。
勝地:正解もないしね。「空ばかり見ていた」の時は稽古の最後まで不安で、本番前に岩松さんからアドバイスをもらおうと思ったの。ただ、岩松さんって役者から「これって大丈夫ですか?」とか、「あそこはどうすればいいですか?」と聞かれることを嫌うのを知ってたから、なんとなく岩松さんの控え室にいって、ただ座ってたのね。“何か言ってくれないかなぁ”という思いで。そしたら、「お、もうすぐ本番だね。あのダンス、期待してるよ!」って言われて(笑)。
仲野:ははははは!
勝地:それで何だか吹っ切れて。“もう、その時どきで自分が感じたものを体で表現していけばいいや!”って。それに、もしかしたら僕が助言を求めにきたことが見透かされていたんじゃないかとも思ったの。
仲野:あぁ、それはあるかも。岩松さんのことだから、どっちか分かんないですよね。
◆確かに、岩松さんの稽古場では役についての説明を乞うのはタブーだという噂をよく耳にします。
勝地:たまにそれを知らずに、岩松さんに「このせりふはどういう意味ですか?」って聞きにいく方がいて、ハラハラして見てます(笑)。大体、岩松さんから返ってくる答えは「僕だって分かんないよ!」なんですけど(笑)。
仲野:でも、たまに答えてる時も見かけますよ。だから、一概に絶対に禁句とは言えない気がします。
勝地:本当?「空ばかり見ていた」の時は誰一人聞きにいけなかったなぁ(苦笑)。
◆お2人は、舞台で共演されるのが今回初になります。お互い舞台人としての魅力をどんなところに感じていますか?
勝地:太賀の出演作は、最近だと「二度目の夏」を見ましたが、主役をしっかり支え、時には自分も主演のような存在感を出していて、あらためて舞台人としてのすごさを感じました。何より、立ち姿が美しいんです。いつも役としてしっかり舞台上に“いる”。だから美しく見えるのかなって。昔、蜷川さんと岩松さんが、「今の若い役者は板の上にしっかりと立っていられないんだよな」とおっしゃっていて、僕もその言葉を肝に銘じているんですが、太賀はそれがちゃんとできているんです。
仲野:本当ですか? そういうふうに見てくださっていたなんて、めちゃめちゃうれしいです! 勝地さんはやはり舞台の場数が違いますし、そんな方に一目置いてもらえているというのは励みになります。勝地さんの舞台の魅力は、僕が言うのもおこがましいのですが、とにかくお芝居が巧い。何をやっても受け止めてくれるんです。だから今回は、僕も勝地さんからどんな球がこようが受け止める心積もりで臨んで、一緒に豪速球のキャッチボールができたらなと思ってます。
勝地:いいね。変化球じゃなく、豪速球同士でね。僕もそう言ってもらえてうれしいよ。
◆では、お互いの出演作で好きな舞台を挙げていただくと?
勝地:やっぱり岩松さんの作品になってしまいますけど、「結びの庭」ですね。「二度目の夏」も好きでしたけど、「結びの庭」での太賀のダンスが衝撃的で(笑)。
仲野:それ、いつも言ってくださいますよね(笑)。
勝地:本当にすごくよかったの。“意味なんてどうでもいい。それは観た人が自由に捉えればいい”っていう感じがして、そこにハッとさせられて。でも「二度目の夏」を観た時も、“また成長してる!”って思ったなぁ。
仲野:めっちゃうれしいです!! 僕が好きなのは、何度も話題に出ている「空ばかり見ていた」です。勝地さんが演じた土居という役はファニーな部分とシリアスなところの緩急がすごくて。本来なら相反する要素なのに、勝地さんが演じるとしっかり共存している。しかも、その二面性が切り替わって表現されるたびに劇場が静まり返ってましたし、あのハイブリッドな役には衝撃を受けました。
勝地:土居という役は、そうした緊張感を与える存在だったよね。少し怖くて。
仲野:そう! ものすごく怖かったです。それに勝地さんからは、まだまだ僕たちに全てを見せていない底知れなさを感じることがあるし、お芝居を見ていても、どれが本当の勝地さんなのかが分からなくなる。それをぜひ、皆さんにも劇場で味わってほしいなと思います。
勝地:今回の舞台も、あらすじを見る限りだと「空ばかり見ていた」の時のようなシリアスな展開になるのかな…?
仲野:どうなんでしょうね。さっぱり分からないです(笑)。
◆岩松さんは「いのち」と「友情」をテーマにしたいとおっしゃっているようですが…。
勝地:蓋を開けてみないと分かんないですよ(笑)。命や友情の定義に限ったことではないかもしれませんが、「不明瞭なものやはっきり分からないものの現在地を描きたい」とお話されていました。また、「簡単なせりふは2人には与えたくない」ともおっしゃっていて。それを聞いて、ますますどんな舞台になるのか分からなくなりました(笑)。
仲野:そういえば、「“今”を書くつもりだ」ともおっしゃってましたよね。先ほどの“不明瞭なものの現在地”にもつながることですが、「言葉にしてしまったら、それは過去になる。言葉にできないから“今”なんだ。今回はそこを書く」って。
勝地:うん。「コロナを書いたら、それはもう過去だよ」と言っていて。すごい言葉だよね。「渦中にいたら、全てが見えない。過ぎ去って行くから全貌が見えるんだ」って。
仲野:そうした発言一つとっても、やっぱり天才だなって思います。しかも毎回、最終的には僕らなんかの想像を軽く超えてくる戯曲を持ってこられるし。それもあって、戯曲を頂く瞬間ってすごく幸せなんです。誰よりも早く岩松さんの戯曲を読める喜びも含めて。
勝地:分かる。正座して読みたくなるよね(笑)。…ということで、どんな作品になるかは僕らも楽しみにしているところですが、絶対に素敵な舞台をお見せできるという自信がありますので、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。
PROFILE
勝地涼
●かつぢ・りょう…8月20日生まれ。東京都出身。最近の出演作にドラマ『ネメシス』、映画「アンダードッグ」「サイレント・トーキョー」、舞台「ゲルニカ」、ナレーション『ドキュメント72時間』など。
仲野太賀
●なかの・たいが…2月7日生まれ。東京都出身。最近の出演作にドラマ『オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ』、『#家族募集します』、『コントが始まる』など。現在公開中の映画「ONODA 一万夜を越えて」に出演している。
作品情報
M&Oplays プロデュース 「いのち知らず」
2021年10月22日(金)~11月14日(日)に本多劇場ほか、宮城、大阪、島根、山口、熊本、広島、愛知で上演
(STAFF&CAST)
作・演出:岩松了
出演:勝地涼、仲野太賀、新名基浩、岩松了、光石研
(STORY)
人里離れた山間で、ある施設の門番として住み込みで働いているロク(勝地涼)とシド(仲野太賀)。2人には街で自動車の修理工場を立ち上げるという夢があった。ある日、彼らは同じ門番として働く年嵩のモオリ(光石研)から衝撃的な話を聞かされる。彼らが守るこの施設では、死んだ人間を生き返らせる研究をしているというのだ。やがて施設からにじみ出る不穏な影に、2人は翻弄され始めていく…。
公式サイト:http://mo-plays.com/inochishirazu
photo/関根和弘 text/倉田モトキ hair&make/井草真理子(APREA) styling/上井大輔(demdem inc.)(勝地)、石井大(仲野)
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2021年10月28日(木)23:59