◆お2人が陽の実の母である左千代のことを話すシーンがとても印象的でしたが、まさにそうやって生まれたのかなと思いました。
このシーンこそ「反射」の真骨頂みたいなものでした。台本を見ても、気が滅入るくらいのページ数がありました(笑)。今泉監督と会話をしていなくても、物語の中のなんらかの分岐点であり、陽にとって何かのきっかけになる大事なシーンだったので、丁寧にやりたいと。今泉監督は、どう撮影していくかものすごく考え込む方で、撮影前には次に撮るシーンのために台本と向き合って、頭の中にものすごくいろんなものを張り巡らしているのが分かるんです。そして僕は、台本でこのシーンを読み込んでいけばいくほど、直の気持ちの奥底にだんだん手が届き始めて、「この言葉はもっと広げて伝えたい」「こっちはもっと削いでこの言葉を付け足したい」と、自分の中で広げたり削ったりの作業ができるようになり、テストの時に監督と志田さんと一緒にいろいろ試しました。
◆いろいろ試した上で、あの長い長回しのシーンを撮っていったんですか?
台本の中では3ブロック、4ブロックに分かれていたとても長いシーンで、1回ずつカメラを止めて、シーンごとに撮っていくのも一つの手ではあったと思います。でも、とても静かなシーンなんだけど、陽と直、2人の心はとても激しく動き続けているシーンなんです。だから台本を読んで、僕は1シーン1シーンカメラを止めて撮っていくのは無理だろうなと思っていました。それでテストの時に、とりあえずそのシーンを一連で監督に見てもらったんです。そしたら監督がボソッと「このシーン切れないな」とおっしゃって。テストの時の2人の芝居を見て、監督が長回しでいこう決めたんです。面白かったのは、監督と3人でその場で生まれる心の動きを大切に撮影していたら、直の言葉の途中で、志田さんが陽のセリフをポンッと吐いたんです。直の言葉は台本にもある言葉なんですが、それを聞かずとも、陽には直が伝えたい言葉がちゃんと伝わっていたんです。とても素直に陽の言葉が出てきたので、監督とも「直のこの言葉はいらないですね」ということになりました。そんなふうに1回のテストでいろんな実験をしながら整理して、本番は一発で撮りました。だから現場の緊張感はすごかったですし、監督のOKが聞こえたあとに現場の士気が上がったことを感じた、面白いシーンでしたね。