演出家・松尾スズキと作家・藤本有紀がタッグを組んだ舞台「パ・ラパパンパン」。本作は、150年以上にわたって愛され続ける「クリスマス・キャロル」を下敷きに、女性作家と、彼女が描く物語の住人たちが織りなすファンタジックなミステリーコメディとなっている。そこで、この作品で初めて松尾スズキワールドに挑む坂井真紀さんを直撃。稽古を経て見えてきた作品の全貌や見どころをたっぷりと語ってもらいました。
◆脚本、演出、キャストと全てにおいて豪華な舞台ですが、最初に出演のオファーがあった時はどんなお気持ちでしたか?
松尾スズキさんの演出舞台に出ることは、役者としての1つの目標でもあったんです。“いつか出たいな” “出られたらいいな”とずっと思っていて。ですので、お声がけいただいた時は、“やった!”という気持ちでした(笑)。
◆松尾さんの舞台に初参加というのはちょっと意外でした。
松尾さんが監督をされた映画「108〜海馬五郎の復讐と冒険〜」でお仕事をさせていただいたことはあるのですが、舞台は初めてなんです。実際に演出を受けて感じるのは、とにかく優しい!(笑) こちらがうまくお芝居できない時、そのダメなところを長所に変えてくれる魔法を持っている方で。そのため、私たち役者は臆することなく、自由に演技ができる。どんな表現をしても、いい方向に向くように調整してくださいますし、本当にたくさんの引き出しをお持ちなんだなと、感じています。
◆明確に「こういうお芝居をしてください」と指示されるのではなく、まずは役者のやりたいように委ねてくださるんですね。
そうなんです。こちらが自分で、「そうか、このままではダメだな」と気づくきっかけをくれる。しかもそれを乗り越えると、どんどん自分の役のお芝居が楽しくなっていくんです。そこが、松尾さんの演出で一番感動したところですね。“なるほど、こうやって松尾ワールドはできていくのか!”と肌で感じましたし、その中に役者としていられることが本当に幸せです。
◆では、台本を読まれての印象は?
今作は「クリスマス・キャロル」をベースにしつつ、そこにミステリー要素が加わり、ちょっと複雑で面白い構造になっています。しかも登場人物のほとんどが、松たか子さん演じる小説家・てまりが作り出す物語の中の住人という設定でして。それに、一幕はコメディ要素が強く、後半になるにつれて本格ミステリーになっていく。そうした構造や物語の変化が、とても面白いです。とはいえ、一幕では16人のキャストがほぼ全員ステージ上にいるシーンもあり、たまに役名がこんがらがったりしますけど(笑)。
◆藤本有紀さんの台本の面白さは、どんなところだと感じていますか?
物語の流れがとても軽やかで、楽しいですね。リズム感があって、軽快にお話が進んでいく感じがすごく好きです。藤本さんといえば、NHK連続テレビ小説の『ちりとてちん』や『カムカムエヴリバディ』、それに松尾さんが主人公を演じていた『ちかえもん』など、映像作品を数多く手がけていらっしゃるイメージが強いですが、もともとは舞台を書かれていた方で。ですから、舞台らしいテンポや掛け合いがすごくあって、すっとせりふが入ってくる印象があります。