◆そうした中で、坂井さんが演じるのはベスという女性です。
ベスは元になっている「クリスマス・キャロル」にも登場する役。小日向(文世)さん演じる、嫌われ者のスクルージの会社で働くボブの妻であり、足の具合が悪い息子・ティムの母親でもあります。「クリスマス・キャロル」での彼女はそれほど目立った活躍をするわけではないのですが、ボブやティムの存在は原作の中で結構大きくて。そこを意識するわけではないのですが、今回の舞台ではとにかくティムをかわいがって、かわいがって、愛しぬいていこうと思っています(笑)。
◆ボブ役の村杉蝉之介さん、ティム役の川嶋由莉さんとの共演はいかがですか?
村杉さんは、私がイメージするボブそのものという感じです(笑)。飄々としつつ、家族をすごく大事にしてくれて。それに、クセのある登場人物が多い中で、もしかしたらボブは一番の常識人かもしれないと思っています。二幕では大活躍しますし、そこに向けて村杉さんがどんなお芝居をされるのかもワクワクしています。ティムは…とにかくかわいい(笑)。日に日にかわいさが増していっています(笑)。川嶋さんは一緒にお芝居をしていると、本当に7歳の男の子に見えますし。お2人との家族のシーンは演じていて、いつもすごく楽しいですね。
◆また、今作ではベスに限らず、登場人物たちがところどころで毒づくせりふがあるのも面白いです。
私もつい笑っちゃいます(笑)。“えっ、急にそんなこと言うの?”って。それもあって、今回の役作りに関しては、何でもありだなと感じています。ベスには息子をずっと思い続ける母親という一本の柱があるものの、それ以外ではあまりシーンごとで気持ちが繋がらなくてもいいのかなって(笑)。そもそも、私たちはてまりが作り出す物語の中の人間であり、そのてまりが結構いい加減に小説を書いていくので、言動がハチャメチャでも問題ない。今回はそうした気軽さがありますね(笑)。
◆ある意味で、何をやっても許されると(笑)。
そうなんです。いつもだと、“このキャラクターは、こんなせりふの言い方はしないかも…”と考えるのですが、今回は、“いや、これはてまりさんが書いていることだから!”といいわけが立つ(笑)。むしろお客さんには、てまりに操られておかしなことをやっている登場人物たち、というふうに見えたらいいなって。言葉で説明すると複雑に感じますが、そうした二重構造が実に見事で、面白くて。本当によく出来た脚本だなと思います。