◆再演の稽古初日はどんなお気持ちでしたか?
松下:初演の時ほど緊張はしなかったです。スタッフの皆さんも同じメンバーでしたから、不安もありませんでしたし。むしろ、どれだけ新鮮な気持ちで取り組めるかなと考えていました。あとは、やはり懐かしさがありました。稽古初日に靖子さんの《おとといね、上海のおじさんが来たとよ》というセリフを聞いた瞬間、3年前のことが、ばぁっと甦ったりして。
富田:そうなんだ。私はちょっと不思議な体験をして、稽古初日に台本の読み合わせをした時、3年前の浩ちゃん(松下さんが演じた浩二役)と、今の浩ちゃんが交互に出てきて、少し戸惑ったんです。
松下:へ〜! 面白いですね。僕はそういうのなかったです。
富田:だから、稽古の3日目くらいまでは、私の中に2人の浩ちゃんがいたんですよね。稽古中も、2人の浩ちゃんを見ながら演技をしていて。“これも再演の醍醐味なのかな?”、“再演って面白い!”って感じていました。
◆栗山さんの演出で初演との違いを感じたところはありましたか?
松下:今回は、初演以上にリアルさを追求していたように思います。例えば、声の大きさも、「普段しゃべっているぐらいのトーンで、2人だけの世界を作って欲しい」という演出がありました。「そうすればするほど、この舞台が庶民の話として成立していくから」と。というのも、この作品は戦争の悲惨さを描いていますが、そこを僕たち役者が過度に表現しすぎてしまうと、メッセージになってしまうんですね。でも、大事なのはメッセージを届けることではなく、あくまで庶民が長崎の原爆の犠牲になったんだと感じてもらうこと。だからこそ、会話をする時の声のボリュームもリアルにしたいと何度もおっしゃっていたのがとても印象的でした。また、もうひとつハッとさせられたのが、クリスチャンである母の伸子さんがお祈りをする動き。食事をする時やマリア様の像と向き合う時に何度かお祈りをする仕草があったのですが、それをやめたんです。
富田:そうでした。全部ではないのですが、何ヵ所かやめてほしいと栗山さんから言われました。それは彼女自身が神様を信じられなくなってきたことを意味するんですよね。
松下:原爆を落としたB-29に神父様も乗っていたはずなのに、なぜ同じ神様を信じる人たちの頭の上に爆弾を落としたのかと考え始めていく。息子を戦争で亡くし、伸子さんはひとりぼっちで生きてきたわけですが、この失った3年間を表現する方法として祈るのをやめるという演出を見て、今回の作品がより深くなったなと感じました。
富田:また、だからこそ、浩ちゃんが幽霊になって戻ってきてからの2人の関係性は、すごく丁寧に表現していきました。幽霊ではあるものの、生きていた頃と同じような空気感で過ごすことが、逆に息子を失った悲しさや、2人でいた時間がいかにかけがえのない大切なものだったかを表すことにも繋がりますから。もしかすると、お客様のなかには、“これ、本当にお芝居をしてるの?”、“親子という関係の役を使って遊んでない?”と思ってしまった方がいるかもしれませんが(笑)、それぐらい楽しそうな雰囲気を出せればいいなと思って演じていましたね。