富田靖子&松下洸平「庶民の視点で描かれた戦争の物語。今の時代にも通ずる思いを感じてください」舞台『母と暮せば』

特集・インタビュー
2021年11月05日
富田靖子&松下洸平「母と暮せば」インタビュー
『母と暮せば』 撮影:宮川舞子

◆幽霊の息子が現れるというファンタジーさがありながらも、息子といる時の幸せな時間や、それでも本当はいないんだという悲しい感情をリアルに表現されていったんですね。

富田:そうなんです。だから、伸子は浩ちゃんの体を触りそうになるんですが、触れないんです。心の底から楽しそうに会話をしていて、思わず「ばかだね〜」って触りそうになるんですけどその瞬間、“…あ、触れちゃいけない”という感情が伸子には生まれる。
松下:そうだったんですか。そうした感情でお芝居されているのは気づきませんでした。

富田:全部が全部ではなく、栗山さんから「そこは触れてください」と指示された部分は触れていますけどね。でも、それ以外のシーンでは触れなかったです。伸子のなかに、“手が体をすり抜けてしまうかも”という怖さと、もしそうなったら“浩ちゃんはやっぱりこの世にいないんだ”ということが現実になってしまう辛さが生まれますから。

松下:なるほど、確かにそうですね。それに、このお芝居って、喜びと悲しみが行ったり来たりするんですよね。(浩二の恋人だった)町子の話をして2人が暗くなったあとに、そのことを忘れるように、急に「母さんは、なして助産婦になったと?」って思い出話をして盛り上がったり。それが2人の感情の複雑さを表していますし、今回再演で戯曲と向き合ってみて、改めて脚本を書かれた畑澤聖悟さんの巧みな筆運びに驚かされましたね。

富田靖子&松下洸平「母と暮せば」インタビュー
『母と暮せば』 撮影:宮川舞子

◆では、この舞台を今のこの時期に再演したことの意義についてはどのように思われましたか?

松下:この3年間で世の中が本当に大きく変わりましたよね。当たり前だったものがそうではなくなり、大切なことがしっかりと伝わっていなかったり。今回の稽古場での栗山さんの言葉にもあったのですが、これらは長崎の原爆被害を隠そうとしたことへの庶民からの怒りともリンクしているように思うんです。それは3年前の初演にはなかった新たな繋がりですし、時代によって作品を通して伝えたいこと、伝えなければいけないことは変わっていくんだなと、この再演を通して強く感じました。

富田:だからこそ、来年も再来年も、十年後だって、やれる可能性があるのなら、ずっと繰り返し上演すべき作品だなと感じますね。できれば、『父と暮せば』とセットで上演してほしいです。もっと言えば、浩ちゃんは大変かもしれないけど、『木の上の軍隊』とも一緒に連続上演したいですね。(※『父と暮せば』『木の上の軍隊』『母と暮せば』はこまつ座の「戦後“命”の三部作」と呼ばれ、松下洸平は『木の上の軍隊』にも出演)

松下:えっ? えぇ!? いやいやいや! それは無理ですって(苦笑)。

富田:無理なの? どうして!? 絶対できるって。大丈夫、私がいるけん!(笑)

松下:ちょ…何を根拠にそんなことをいいよるん?(笑)

富田:そもそも、あんたも、やるべきと思っとるでしょう?

松下:思っとるよ。思っとるけど…(笑)。いや、やっぱりちょっと待ってください。僕ひとりでは大変ですって。『木の上の軍隊』もほぼ2人芝居ですし。

富田:例えば、『母と暮せば』を最初に上演し、次に『父と暮せば』をして、最後に『木の上の軍隊』という流れなら大丈夫じゃない?

松下:3週間おきにとかですか? なるほど、それなら稽古する時間もありますね…。(まわりのスタッフが頷くのを見て)いや、皆さんも、「うん、うん」じゃないですって(笑)。ただ、本当にそういう機会があるのなら、頑張らないといけないなとは思っていますね。

富田:本当!? 頑張ろうね。…なぁんて、私も「大丈夫!」って言いながら、“ちょっと私、嘘つきかも…”って思ってる(笑)。いざやるとなると、本当に大変な作品ですからね。

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