作家・燃え殻が2016年に発表したデビュー作を映画化した「ボクたちはみんな大人になれなかった」。主人公・佐藤の21歳から46歳までを繊細に演じ分けた森山未來さんと、彼がずっと忘れられない初めての恋人・かおりを演じる伊藤沙莉さんが、それぞれの役に対する熱い思いなどを語ってくれました。
◆初共演のお2人ですが、佐藤役を森山さんが、かおり役を伊藤さんが演じると分かった時はいかがでしたか?
森山:かおり役が沙莉ちゃんになると聞いた時、“やるぞ!”といった気持ちになりましたね(笑)。僕の中では『全裸監督』のがらっぱちなメイクさんのイメージが強くて、“本人はどんな感じの人なんだろう?”とは思っていました。
伊藤:森山さんは以前から共演したい役者さんだったので、単純にうれしかったです。でも、実際の森山さんがどういう方なのかは知らなかったので、どんな佐藤になるのか楽しみでしたね。
◆佐藤とかおり、役作りについてはいかがでしたか?
伊藤:この物語のかおりは、あくまでも佐藤から見たかおりなので、結局のところ、ヒントも答えも、ほぼないんです。だから、とても難しい役だと考えてしまい、入り口からつまずいてしまいした。でも、よくよく考えてみたら、どの役にもヒントや答えがあるわけではないし、意外と一般的な女性を演じればいいのかな? というところに行き着きました。かおりが特別な子というわけでなく、佐藤にとって特別な子であればいいのかなと。
森山:37歳という僕の実年齢で考えたとしても、22歳は15年前のことですし、初めて人を好きになった時に感じたことを、ずいぶん前のところから手繰り寄せてこなければいけない気がしたんです。なので佐藤の役作りは、ある意味緊張感を持ってやっていました。そして、かおりというよりも、沙莉ちゃんにどう近づくべきなのか、という距離感の問題もあったので、現場では迷惑をかけたなと…。
◆2人の恋は文通きっかけで始まりますが、実際に文通されたことは?
伊藤:あります! 小学生の時、9歳ぐらいだったと思うんですが、お仕事で一緒になった子と文通してました。メールは母を介してしかできないので、2人だけの話がしたかったんです。
森山:僕は小学校の高学年ぐらいの時からこのお仕事をしていたので、PHSを持たされていたんですよ。だから、手紙を何度もやりとりしたイメージはなくて、中学生のころ、クラスでやっていた交換ノートの印象が強いです。仲良しの男女でやっていました。
◆1995年〜99年の時代に生きたキャラクターを演じた時の感想は?
伊藤:私、94年生まれで赤ちゃんだったから、その時の街並みはまったく知らないわけですよ。そんな中、まず思ったのは、街のルール的なものや、ファッションにしても、どこか自由そうで活気があっていいなって。ラフォーレ原宿前での待ち合わせのシーンでは、エキストラさんたちがその時代の服を着て歩いていたんですが、なんかすてきでしたね。どこか人目を気にしながらも、自分がやりたいことのほうが勝っている感じがして。
森山:僕と佐藤は10歳ぐらい違うんですが、佐藤とかおりが原宿を歩くシーンを撮っていた95年のあの頃、現場で控室として使っていた建物の近くに、かつて民家を改造した抹茶屋があったんです。そこは当時、母とよく行っていたお店で。それに佐藤とかおりが一緒に迎える2000年のカウントダウンの時も、15歳ぐらいの僕は渋谷で舞台をやってました。つまり、佐藤の世代としては生きてはいないけれど、そこにはいた。そもそもセンチメンタルな作品なので、そういったエモーショナルな部分に引っ張られないように気をつけていましたが、そういう接点を感じ取ることで引っ張られそうになりましたね。
◆完成した作品を観た感想、そしておススメのポイントは?
森山:この映画にはいろんな要素がある中で、コミュニケーションツールの変化も描かれています。この25年ぐらいで、自分の手で書く文通から電話、SNS、そしてコロナ禍と時代は移り変わっていきますが、どの時代においても人と関わりたい、出会いたいという気持ちは変わりなくあって、人との関わりによって生まれるエネルギーを渇望している。そういった意味では、カルチャーや時代をことさら強調しているわけでもないので、すべてのツールに触れていない人が観ても楽しめる作品になったんじゃないかなと。
伊藤:確かに、私もこの作品を通じて知ったことがありました。この映画で取材される時、「あの時代の感覚が刺さりました」と言われても、世代的にそれが分からないのは悔やまれるところですが、時代の流れだったり、今の時代の便利さや不便さなどが分かりやすく描かれている映画だと思います。
森山:若い時の佐藤のビジュアルに関しては、あの手この手を使っています(笑)。ただ、CGの使い方に関してはとてもナチュラルでしたね。
伊藤:この映画は1人の人生を振り返っていますが、周りの人たちの人生も色濃いものだったし、それぞれの結末に至るまで、みんながみんな頑張って戦っている姿も面白かったです。そして、やっぱりラストのシーンにはグッときましたね。
PROFILE
森山未來
●もりやま・みらい…1984年8月20日生まれ。兵庫県出身。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。現在、ダンス、演劇、映像などカテゴライズに縛られない表現者として活躍。主な出演映画作に「モテキ」「苦役列車」「北のカナリアたち」「怒り」「アンダードッグ」など。2022年公開予定の劇場アニメ「犬王」では友魚の声を演じる。
伊藤沙莉
●いとう・さいり…千葉県出身。2003年にドラマデビュー。2020年は「劇場」「ステップ」「タイトル、拒絶」「ホテルローヤル」「十二単衣を着た悪魔」と多数の映画に出演。2022年公開予定の映画「ちょっと思い出しただけ」に葉役で出演する。
作品情報
「ボクたちはみんな大人になれなかった」
2021年11月5日(金)より
シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかロードショー
同日、NETFLIX全世界配信
(STAFF&CAST)
原作:燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮文庫刊)
監督:森義仁
脚本:高田亮
音楽:tomisiro_
出演:森山未來 伊藤沙莉 萩原聖人 大島優子 東出昌大 SUMIRE 篠原篤
配給:ビターズ・エンド
(STORY)
1995年、佐藤誠(森山未來)は、加藤かおり(伊藤沙莉)と出会い、生まれて初めて頑張りたいと思う。かおりの言葉に支えられ、がむしゃらに働く佐藤だったが、1999年、かおりはさよならも言わずに去ってしまう。その後、佐藤は志していた小説家にはなれず、ズルズルとテレビ業界の片隅で働き続ける日々。そして2020年、社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳の佐藤は、いくつかの再会をきっかけに“あの頃”を思い出す…。
公式サイト:https://bokutachiha.jp
公式Twitter:@bmo_movie
公式Instagram:@bokutachiha_movie
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