◆3回目となる今作で、新たな気づきのようなものはありましたか?
20年前の万田監督のストライクゾーンは、ボール1個分あるかないか…そこにボールがいくのか? みたいな狭さに感じていたんですが(笑)、ちょっとずつ広がってきているように思いましたね。この演技について何も言わないということは、こちらに委ねてくれている、もしくは今ので良しとしてくれたんだろうな、と。そういった変化は感じましたが、基本的には変わりなく、「公園から出ていく時はジグザグに歩いてみてください」というような指示を出していらっしゃいました。
◆本当に細かく動きを付けていかれるんですね。綾子役の杉野さんはそれについて「振付するように」とおっしゃっていました。
まさに斎藤工くんと公園で話すシーンは、振付に近い感覚でした。その動きの意味を何とか自分で見つけようと試みたこともある気がしますが、戸惑っても「言われた通りにやろう」というほうを選択したことがほとんどだったと思います。
◆何よりも監督の求める動きや声を表現していくことが重要な作業になると。
積極的に操り人形になるというか(笑)。その結果、何かが映像に残るだろうと思えるんです。それは、“分からないけどやってみよう” “万田監督だったら大丈夫”という信頼感があるからだと思います。“どうしてこの人はこう動いたのか”、その理由に当たる感情を見つけてから動くよりも、考える前に動いてしまったほうがその時の感情が見つかったり、あらかじめ自分で用意していなかった心の状態が生まれたりするんです。そうしたほうが面白いなと、僕自身も感じています。
◆動けば自然と感情が付いてくる。確かに、普段生きていると「こう感じたからこう動く」なんて思ったりしないですからね。
そうなんです。今回の作品でいえば、演じる仲村トオルという人物の感情が空っぽであればあるほど、貴志という人物の感情に100%リンクするというか。そのせいなのか、今回は現場での本番中の記憶がないんです。ホント、ほとんど残っていない。その前後に、例えば「あの日は帰りに駐車場で車を出そうと思ったら細かいお金がなくて(くずすために)さまよったな」ということは覚えているんですが(笑)。