鬼才・万田邦敏監督による愛憎サスペンス「愛のまなざしを」が11月12日(金)に全国公開。TV LIFE webでは、公開記念カウントダウン特集と題して、連日出演者のインタビューをご紹介! 最終回となる第4弾に登場するのは、最愛の妻を亡くした心の傷を、患者である綾子を愛することで埋めようとする精神科医・貴志を演じた仲村トオルさん。万田監督とは3回目のタッグとなる今作。監督が求める動きを表現することに徹していた結果、本番中の記憶がほとんどないそうで…。
◆万田邦敏監督とは「UNloved」や「接吻」でもご一緒されていますが、今作の脚本を読んだ時はどんなことを感じられましたか?
シンプルに2つの感想がありました。1つは、また変わった女性が主人公の話だなと。もう1つは、この脚本を万田監督が撮ったら「UNloved」や「接吻」のように僕が好きなタイプの作品になるだろう、という期待です。
◆ヒロインの綾子は不安定すぎるがゆえに共感しづらい女性だと思いました。今回、仲村さんが演じられた貴志が綾子に惹かれていった心境を、どう解釈して演じていらっしゃったのでしょう。
多分、撮影している時は解釈しようとは思っていなかった気がします。撮影が終わり、完成したものを観てから感じたことなのか自分でも定かではないところがありますが、自分の中の空洞を埋めるというか。もしくは、そこまで自覚していなかったと思いますけど、「この傷み」を忘れるためにはもっと新しい傷みが必要だと感じて綾子に惹かれていったんじゃないか…。客観的に考えられるようになってから、そう思いましたね。
◆他の出演者から、万田監督の演出は、感情に関しては話さず俳優の動きを付けていくと聞きました。過去にご一緒された際、戸惑いなどはなかったのでしょうか。
約20年前に出演した「UNloved」のクランクイン前のリハーサルからそうでしたが、監督はとにかく動きとせりふの音、リズムのことだけを徹底して言われるんです。例えば「三歩歩いて止まってください」とか「左から振り返ってください」、それから「あごを引いてください。引きすぎです」「せりふに抑揚はいりません。音はもっと低く、強く」などといったように。そういった指示が全てだったので、そのリハーサルの時はほんの一瞬だけ戸惑いましたが、すぐに“これはすごく面白いな”って思いました。「気持ちを作ってくれ」とか「ここの感情はこうだ」、「このシーンの意味はこうなんです」みたいなことを一切おっしゃらないので、表に現れることこそが表現であり、表に現れていれば「中」はあるように見えるということなのかなと。そう思ってやってみたら、自分では心を込めなかったのに、心がこもったように(映画には)映っていたんです。それは「接吻」でもそうでした。
◆3回目となる今作で、新たな気づきのようなものはありましたか?
20年前の万田監督のストライクゾーンは、ボール1個分あるかないか…そこにボールがいくのか? みたいな狭さに感じていたんですが(笑)、ちょっとずつ広がってきているように思いましたね。この演技について何も言わないということは、こちらに委ねてくれている、もしくは今ので良しとしてくれたんだろうな、と。そういった変化は感じましたが、基本的には変わりなく、「公園から出ていく時はジグザグに歩いてみてください」というような指示を出していらっしゃいました。
◆本当に細かく動きを付けていかれるんですね。綾子役の杉野さんはそれについて「振付するように」とおっしゃっていました。
まさに斎藤工くんと公園で話すシーンは、振付に近い感覚でした。その動きの意味を何とか自分で見つけようと試みたこともある気がしますが、戸惑っても「言われた通りにやろう」というほうを選択したことがほとんどだったと思います。
◆何よりも監督の求める動きや声を表現していくことが重要な作業になると。
積極的に操り人形になるというか(笑)。その結果、何かが映像に残るだろうと思えるんです。それは、“分からないけどやってみよう” “万田監督だったら大丈夫”という信頼感があるからだと思います。“どうしてこの人はこう動いたのか”、その理由に当たる感情を見つけてから動くよりも、考える前に動いてしまったほうがその時の感情が見つかったり、あらかじめ自分で用意していなかった心の状態が生まれたりするんです。そうしたほうが面白いなと、僕自身も感じています。
◆動けば自然と感情が付いてくる。確かに、普段生きていると「こう感じたからこう動く」なんて思ったりしないですからね。
そうなんです。今回の作品でいえば、演じる仲村トオルという人物の感情が空っぽであればあるほど、貴志という人物の感情に100%リンクするというか。そのせいなのか、今回は現場での本番中の記憶がないんです。ホント、ほとんど残っていない。その前後に、例えば「あの日は帰りに駐車場で車を出そうと思ったら細かいお金がなくて(くずすために)さまよったな」ということは覚えているんですが(笑)。
◆撮影中、貴志を演じている時の記憶はほとんどないと。
斎藤工くんとビルの屋上にいるシーンを撮ったんです。でも本編からカットになったので、撮ったことすら忘れていて。実は今日、そのシーンの話題になって思い出したんですが、「雨が降りそうだな、このシーンできるかな?」と思ったことは覚えているんです。でもその時、どんな会話があったのかは覚えていない。そのシーンで斎藤くんが僕を抱きしめたらしいのですが、それも全然覚えていないんです。抱きしめられるって相当インパクトのある行為だと思うんですが、それすら忘れてるって、どういう状態だったのかなと。自分の中ではまだ解明されていないんですけど(笑)。
◆いわゆる、役になりきっているという状態でもないわけですよね。
そういう状態でもない気がします。「役が憑依していた」「なりきっていた」とカッコ良く言いたいところだけど(笑)、どうもそれとは違うなって。すごくシンプルに考えれば、とても必死だったっていうことかな、と思ったりはしますね。撮影期間が12日と短く、僕自身は貴志という人間を動かすことに必死になっていて、自分で何かを見たり感じたりしたことがゼロに近かったのかもしれない…それが今のところの自分で分析した答えになるのかなと。
◆貴志と綾子を見ていると、何度も「もう離れたほうがいいよ」と思いました。貴志と綾子の共依存的な関係性については、どう思っていらっしゃいますか?
それも完成してからいろいろと感じましたが、現場では「なぜ?」と思わないようにしていた気がします。これもここ数年感じていることですが、僕が答えを見つけるのではなく、観てくださる人たちがそれぞれの答えらしきものを見つければいいのではないかと。「自分はなぜ惹かれたのか、なぜこの嘘を信じたのか、それはこういう理由だから」というつもりで演じると、観てくださる方にそのことしか伝わらない気がするんです。そうすると、作品からとても少ない情報量しか伝わらない。万田監督が演出される時に、動きや形、音の響きやスピードのことしか言わないのは、具体的な感情を言葉にしてしまうと、そこで表現しなかったことが落ちてしまうからなのかなとも思うんです。その人物が何を思って行動したのか…それはお客さんが考えればいいことで、僕が決めることではないなって。
PROFILE
仲村トオル
●なかむら・とおる…1965年9月5日生まれ、東京都出身。1995年に映画「ビー・バップ・ハイスクール」で俳優としてデビュー。以降、『あぶない刑事』シリーズ、『チーム・バチスタ』シリーズなど、人気の映像作品に多数出演。現在放送中のドラマ『日本沈没―希望のひと―』では総理大臣役で出演中。
作品情報
「愛のまなざしを」
2021年11月12日(金)全国公開
(STAFF&CAST)
監督:万田邦敏
脚本:万田珠実、万田邦敏
出演:仲村トオル、杉野希妃、斎藤工、中村ゆり、藤原大祐、万田祐介、松林うらら、ベンガル、森口瑤子、片桐はいり
配給:イオンエンターテイメント 朝日新聞社 和エンタテインメント
(STORY)
貴志(仲村トオル)は患者の話に耳を傾けてくれると評判の精神科医。6年前に亡くした妻・薫(中村ゆり)に囚われ、薬で精神を安定させる日々を送っていた。ある日、患者としてやってきた綾子(杉野)は、治療関係を越えて、貴志と愛し合うようになる。しかし綾子は、貴志の薫への断ち切れない思いや、薫との子である祐樹(藤原大祐)の存在を知ると、猛烈な嫉妬し、独占欲を抱くようになる。そして前妻の弟・茂(斎藤工)に近づき…。
公式Twitter:@aimana_movie
公式Instagram:@aimana_movie
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photo/TOMO(tweety) text/佐久間裕子 hair&make/宮本盛満 styling/中川原寛(CaNN)
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2021年11月19日(金)23:59