中村勘九郎&中村七之助インタビュー「今回は勉強や予習なしで楽しめる演目ばかり。いろんな歌舞伎の世界を楽しんでください」「赤坂大歌舞伎」

特集・インタビュー
2021年11月11日

中村勘九郎&中村七之助「赤坂大歌舞伎」インタビュー

十八代目中村勘三郎の「芸能の街・赤坂で歌舞伎を!」というひとことから2008年にスタートした赤坂大歌舞伎が4年ぶりに帰ってくる。父の遺志を継いだ中村勘九郎と中村七之助が今回選んだ演目は、2016年に歌舞伎座で初演され、大きな話題を集めた「廓噺山名屋浦里」(さとのうわさやまなやうらざと)。待望の再演を前に、作品にかける思いと、残り2演目の見どころをたっぷり語ってくれました。

 

◆まずは、赤坂大歌舞伎が4年ぶりに復活することへの思いについて、お聞かせください。

勘九郎:本来であれば、昨年も赤坂大歌舞伎として「怪談牡丹燈籠」を上演する予定でした。しかし、出演者が決まり、脚本も完成して、いよいよこれから稽古に臨むぞというタイミングで、残念ながら中止を余儀なくされまして。その悔しさがあるぶん、今年にかける思いは強いです。

七之助:昨年のことは本当に残念でしたが、またこうして赤坂に戻ってこられたことをうれしく思っています。今回の「廓噺山名屋浦里」は、兄ともいつか再演したいと話していまして。後輩たちからも人気の高い作品でしたので、それを(TBS)赤坂ACTシアターでできることを楽しみにしております。

◆「廓噺山名屋浦里」は笑福亭鶴瓶さんの落語を、2016年に歌舞伎として舞台にしたものでした。そもそもこの演目を歌舞伎でやろうと思われたきっかけは何だったのでしょう。

勘九郎:この作品はもともと、タモリさんが『ブラタモリ』で吉原の街を歩いていた時に聞いた花魁の話が面白くて、それを鶴瓶師匠に「落語にしたらどうだ」とお話されたのが始まりだったそうです。私はその師匠の新作落語(「山名屋浦里」)を日本橋で初めて聞いたのですが、始まって2分くらいで、頭の中に歌舞伎座の大道具が情景として浮かんだんです。小説などを読んで、“これを歌舞伎にしたらどうなるだろう?”と想像することはよくあるのですが、私にとって落語では初めてのことで。しかも、浦里という遊女が七之助にピッタリだと思いましたので、ぜひともこれを兄弟で演りたいと、終演後に若輩ながら鶴瓶師匠に直談判させていただきました。そこから一気に話が進み、一年も経たないうちに実現し、お陰様でお客様からも大好評を頂いたんです。特に千穐楽のカーテンコールのことはすごくよく覚えていますね。

七之助:うん、あの光景はちょっと忘れられないですね。

勘九郎:普段、歌舞伎にはカーテンコールがないんです。それに、「廓噺山名屋浦里」自体、大団円のラストが待っているわけでもなく、カーテンコールが起きるような演目でもない。にもかかわらず、お客様の拍手が鳴りやまなくて。ちょうどその時、鶴瓶師匠とタモリさんが観に来られていて、2人が歌舞伎座の舞台に上がってくださり、一緒になってお客様にご挨拶ができたのは一生の思い出です。

◆その時の上演以来、再演を望む声も大きかった作品ですが、お2人はこの作品の魅力をどのようなところに感じていらっしゃいますか?

七之助:とてもシンプルでハートフルな物語なんです。人と人の繋がりや愛情が前面に出ていて。中でも私が演じる浦里という役は本当に素晴らしく、自分の身の上話をするところがあるのですが、私も脚本でその場面を読んだ時、ものすごく情景が浮かびました。脚本を小佐田定雄先生が手がけていらっしゃるのですが、落語作家の方が書かれるとこれほどまでに情景豊かになるのかと感動しました。

勘九郎:それに物語が非常に歌舞伎っぽいんです。昨年予定していた「怪談牡丹燈籠」も元は三遊亭圓朝さんの落語(「牡丹燈籠」)でしたが、かつて落語が歌舞伎になる時には、こうした同じような感覚があったのかなと思いましたね。

◆また、先ほど七之助さんが「後輩からの人気も高い作品だった」とお話されていましたが、2016年の上演時はどのような感想が多かったのでしょう。

勘九郎:一番多かったのは、やはり「七之助がきれい!」というもので。その言葉を受け止めて、私は「でしょう!」という思いでした(笑)。というのも、鶴瓶師匠の落語を聞いて、私が何よりも大事にしたいと感じたのが、美しさだったんです。それで言いますと、ラストのシーンもそうですね。とにかく“美”を追求しましたので、皆様から「きれいだった」という声を頂けて本当にうれしかったです。

七之助:私に届いたのも同じく「きれいでした!」という声でした。女方の後輩たちがこぞって楽屋に押し寄せてきて、口々に「やりたい、やりたい」と話していて。実はこれには理由があって、なぜかと申しますと、歌舞伎の女方ってラストが不遇に終わることが多いんです。前半に一生懸命がんばっているのに、途中で死んで終わりだとか、最終的に幕切れにいないとか(笑)。でも、この「浦里」は女方がメインの物語ですし、最後まで舞台上にいるんですね。観に来てくれた(尾上)松也にいたっては、恥ずかしくて外に出られないくらい号泣していて。決して長いお話ではないのに、その短い時間の中で女方のさまざまな魅力が詰まっている。そこもこの作品の素晴らしいところだと思います。

中村勘九郎&中村七之助「赤坂大歌舞伎」インタビュー

◆そして今回は「越後獅子」(えちごじし)と「宵赤坂俄廓景色」(よいのあかさかにわかのさとげしき)も上演されます。「越後獅子」は勘九郎さんのご長男である勘太郎さんが赤坂大歌舞伎初登場となります。

勘九郎:父(勘三郎)はコクーン歌舞伎や平成中村座、それにこの赤坂大歌舞伎といろんな舞台を私たちに残してくれました。その空間を息子にも体験してほしいなと思ったんです。子供心にどこまで覚えているかは分かりませんが、舞台に立った記憶や劇場で感じた空気が、その後の人生にあるかないかでは大きく違ってくると思いますから。それに、「越後獅子」は舞踊ですが、10歳で1人で踊るなんてなかなか出来ないことですし、体力的にも大変な舞台ですので、本当にいい経験になるのではと思っております。

◆勘九郎さん自身は、初めて踊った時のことは覚えていらっしゃいますか?

勘九郎:もちろんです。9歳だったんじゃないかな。八月納涼大歌舞伎で踊らせていただきました。歌舞伎座という広い舞台でしたが、とても楽しかったのを覚えています。

◆そして、もうひと作品が「宵赤坂俄廓景色」(よいのあかさかにわかのさとげしき)。タイトルに赤坂の言葉が入っていますね。

七之助:「俄獅子」という踊りがございまして、それをベースにした作品になります。また、(TBS)赤坂ACTシアターがまもなく一区切りで改修に入るということもありますので、これまでの恩返しも兼ねて、赤坂の街とこの劇場に華やかな踊りをお届けしたいと思っております。兄の次男の中村長三郎も出ますので、みんなで勢揃いをして、大団円で終わりたいですね。

勘九郎:この赤坂の地で開催される「山王祭」は日本三大祭の1つですし、赤坂芸者衆の皆さんには私たちが赤坂大歌舞伎をやるたびに、本当によくしていただきました。ですので、最後に芸者が登場するこの演目は、まさしく赤坂大歌舞伎を象徴する踊りになるのではないかと思っております。

◆最後に、読者の中には歌舞伎に格式の高さを感じてなかなか劇場に足を運べない読者もいらっしゃるかと思います。そうした方々に向けて赤坂大歌舞伎の楽しみ方などについても教えていただけますか。

七之助:赤坂大歌舞伎では、いつも歌舞伎座とほぼ同じ演出のものをお見せしています。でも、2013年に兄と演った『怪談乳房榎』もそうですが、不思議なことにお客様の反応が全然違うんですね。これが面白くて、赤坂はとっても盛り上がる。もしかすると、赤坂は街の雰囲気からもらう賑やかな印象のまま芝居を見られるので、そうした変化の違いが観る方の心に生まれるのかもしれません。

勘九郎:それはあるかもしれないね。本当に演出は変えていないんですよ。それは父の遺志でもあって。赤坂大歌舞伎でも、平成中村座でも、父は「お客さんの拍手などに惑わされて、分かりやすい演出に変えるようなことは絶対にしてはいけない」と言い続けてきました。私たちもそれを肝に銘じてやっているのですが、それなのに見てくださる方々からは、「(TBS)赤坂ACTシアターだから、分かりやすい演出やせりふにしてくださったんですね」と言われるんです。

七之助:そうした感想は本当に多いですね。

勘九郎:それが我々役者にとっても、ものすごく面白い経験で。もちろん今回の演目も、内容、せりふ、振付を変えることなくお届けしますので、ぜひ気軽に観られるこの機会に生の歌舞伎の世界を感じていただければと思います。

七之助:特に今回の演目は、どれ1つとして予習をしてくる必要はありませんからね(笑)。何も勉強せず、ただ席に座っていただければ楽しめるものばかりなので、初めてご覧になる方にはすごくオススメです。

PROFILE

中村勘九郎&中村七之助「赤坂大歌舞伎」インタビュー

中村勘九郎
●なかむら・かんくろう…10月31日生まれ。東京都出身。1986年に「盛綱陣屋」小三郎役で初御目見得。翌年に「門出二人桃太郎」兄の桃太郎役で二代目中村勘太郎を名乗り初舞台。2012年、父・十八代目中村勘三郎の前名である中村勘九郎を六代目として襲名。歌舞伎以外にも、舞台「おくりびと」「真田十勇士」や、映画「清須会議」「銀魂」、NHK 大河 ドラマ『新選組!』『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』などに出演。

中村勘九郎&中村七之助「赤坂大歌舞伎」インタビュー

中村七之助
●なかむら・しちのすけ…5月18日生まれ。東京都出身。1986年、「檻」祭りの子勘吉役で初御目見得、87年「門出二人桃太郎」弟の桃太郎役で二代目中村七之助を名乗り初舞台。女方としての近年の活躍は目覚ましく、歌舞伎界を担う女方の1人。歌舞伎以外にも映画「ラストサムライ」「真夜中の弥次さん喜多さん」、舞台「ETERNAL CHIKAMATSU」などに出演。

作品情報

「赤坂大歌舞伎」

TBS開局70周年記念「赤坂大歌舞伎」
2021年11月11日(木)~11月26日(金) 東京・TBS赤坂ACTシアター

(STAFF&CAST)
一、
「廓噺山名屋浦里」
出演:中村勘九郎、中村七之助、中村虎之介、中村鶴松、片岡亀蔵、中村扇雀
原作:くまざわあかね
脚本:小佐田定雄
演出:今井豊茂
美術:中嶋正留

二、
「越後獅子」長唄囃子連中
出演:中村勘太郎
『宵赤坂俄廓景色』長唄囃子連中
出演:中村勘九郎、中村七之助 、中村虎之介、中村長三郎、中村鶴松、片岡亀蔵、中村扇雀

(STORY)
時は江戸時代。とある地方藩の江戸留守居役である酒井宗十郎は堅物として知られ、まわりからやや煙たがられていた。ある時、次の寄合で「江戸の妻」(馴染みの女)を自慢し合おうという話題で盛り上がり、宗十郎はそれを自分に恥をかかせるためのものだと悟る。そこで彼は、かつて偶然遭遇した吉原一と名高い遊女・浦里に会わせてもらおうと、店に頼み込む。器量も金もない宗十郎は店の主人から相手にされなかったのだが、その話をふすまの奥で聞いていた浦里がある行動に出るのだった…。

公式サイト:https://www.tbs.co.jp/act/event/ookabuki2021

 

text/倉田モトキ

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