◆対する由紀乃は、まみとは対象的なファッションだなと思いました。市川さんが「ここ一番」という時にスタイリッシュなモード系ファッションを着こなす姿は、さすがだなと。
あれは、市川実和子さんだからこそ、ですね。由紀乃は基本的にあまり服には気を使わないイメージ。靴のつま先の皮が禿げていたらペンで塗っちゃうような。ただ、市川さんが演じていらっしゃるし、杏那さんもおしゃれなスタイリングを提案してくださったので、結果としてめっちゃカッコ良くなりました。メイクに関しても、脚本の坪田文さんがメイクオタでめちゃくちゃコスメに詳しいんですよ。美穂というキャラクターが生まれた瞬間から「20代後半になってもジル・スチュアートを使ってる子ね」とおっしゃっていました(笑)。メイクさんとも、4人のメイクに関していろいろ話をして。とても楽しかったですね。
◆4人の女性の中で、監督ご自身が一番好きなキャラクターは誰ですか?
誰だろう…みんな好きですが、美穂は、さゆりんご(松村沙友理)が演じたこともあり、彼女のなんとかして殻を破ろうとする様と美穂が、私の中で重なりました。美穂を演じる「松村沙友理」という人が変わる瞬間を見せてもらいました。すごく特別な瞬間に立ち合わせてもらったと思うので、そういった意味では、特に思い入れがありますね。
◆実際に松村さんが殻を破られる瞬間があったと。
松村さんは最初、私の演出に「はい」と答えるだけだったんですが、多分、日を追うごとに悔しさが募っていったんだと思います。それである日、トイレでギャラ飲み女子をいびるシーンで、初めて「美穂って、こういう感じですかね。どっちがいいですか?」と私に質問してきたんです。それからしばらくして、夜の六本木を走るシーンの撮影あったんですが、私には美穂ではなく、松村沙友理が泣いているようにしか見えなくて。10テイクくらい撮って、“どうしようかな、これでOKにしてしまおうかな…”と思っていたら、彼女が私のところに来て「もう1回やらせてください」と。スタッフが次の撮影準備のために動き出している中で「もう1回」と言うのは、ものすごく勇気がいることなんです。その瞬間ですよね、「人って、こんなに短期間で変われるんだ」と感じたのは。すごくうれしくなりました。そうして、このシーンが撮れたので、今では「本当にありがとう」と思っています。
◆この作品を撮って、結婚観に変化はありましたか?
私の中ではないんですが…反省として、結婚するもしないも選べる立場は、実は特権なんだなと思いました。選ぶ以前に制度の問題で結婚が“できない”人たちもたくさんいるので。そういう人たちを全く描かず排除してしまったのは、反省点です。実は、最近このことに気づいて、落ち込みました。結婚する、しないの選択肢がある時点で大分幅が広いんですよね。