田中みな実主演の映画「ずっと独身でいるつもり?」が11月19日(金)に公開。監督を務めたのは、これが出産後の復帰作となるふくだももこ。おかざき真里の漫画原作を「今を生きる女性たち」の物語に再構成したふくだ監督が、とても印象的だったという松村沙友理さんの変化を感じたシーンなどを含めた撮影エピソードを語ってくれました。
◆雨宮まみさんのエッセイをおかざき真里さんが漫画化した作品の映像化ということですが、出産後の復帰作としてこの作品を選んだ理由から聞かせてください。
おかざき真里先生の漫画が出版されてから数年経っている(2015年刊)ので、「今、結婚するのか、しないのか、というテーマを取り上げるのはどうなんだろう?」という悩みは、正直ありました。一番の決め手は、田中みな実さんを主演にという話があったからです。
◆俳優としての田中みな実さんとお仕事をされて、いかがでしたか?
私、いつも主演の方との距離感が下手で(笑)。「おいしい家族」の松本穂香ちゃんの時もそうでしたが、現場では役者さんとほとんど喋らないです。演出以外で話しかけたら、「役」への邪魔になるんじゃないかと思ってしまう。でも田中さんは自分の中にしっかり“まみ”像があったので、脚本の段階から田中さんと話をして、感じていることを反映したり。撮影初日はまみの部屋での田中さんのひとり芝居だったんですが、今までテレビで見たことがない、ちゃんと“1人でいる時”のテンションで田中さんがお芝居をして。「こういう顔、佇まいができる人なんだ」と思ったのを、今でも覚えています。
◆まみと由紀乃(市川実和子)の関係性や、主婦の彩佳(徳永えり)がメインキャラクターの1人になっていたり、さらに原作にはいないパパ活女子・美穂(松村沙友理)が登場するなど、原作と違う点がいくつかありますよね。
映画化するにあたり、プロデューサーや脚本の坪田文さんと話し合った際、みんな「漫画はおかざき先生だからこその素晴らしい描写がある」と感じていたんです。なので、原作をそのまま映画にはしないほうがいいなと。それで「今の女性たち」に置き換えていろいろと改変しました。例えば、漫画では「セックス・アンド・ザ・シティ」みたいに、友だちみんなで喋るような描写があるんですが、「『セックス・アンド・ザ・シティ』みたいにはしないでいよう」と意見が出たり。私も「SATC」が大好きだからこそ、また違う方向で独身の女性たちを描きたいと思っていました。なので、繋がりそうで繋がらない、みんな自分の人生を必死に生きていて、最後にふとすれ違う、くらいのまとめ方がいいなと。
◆メインキャラクター4人のファッションとメイクが、それぞれの職業や個性に合っていてとても印象的でした。
東京が舞台の話なので、各キャラクターのファッションには特にこだわりたくて、今回、ドラマ『私の家政夫ナギサさん』でスタイリストをされていた山本杏那さんにお願いしました。彼女、「このブラウスとスカートの組み合わせ、何ぞや!?」と思うような大胆でおしゃれなスタイリングをされる方で。まみは、落ち着いているけど小ワザが効いて、意外と色も取り入れているファッションというオーダーをしたら、杏那さんがすてきにまとめてくださいました。
◆対する由紀乃は、まみとは対象的なファッションだなと思いました。市川さんが「ここ一番」という時にスタイリッシュなモード系ファッションを着こなす姿は、さすがだなと。
あれは、市川実和子さんだからこそ、ですね。由紀乃は基本的にあまり服には気を使わないイメージ。靴のつま先の皮が禿げていたらペンで塗っちゃうような。ただ、市川さんが演じていらっしゃるし、杏那さんもおしゃれなスタイリングを提案してくださったので、結果としてめっちゃカッコ良くなりました。メイクに関しても、脚本の坪田文さんがメイクオタでめちゃくちゃコスメに詳しいんですよ。美穂というキャラクターが生まれた瞬間から「20代後半になってもジル・スチュアートを使ってる子ね」とおっしゃっていました(笑)。メイクさんとも、4人のメイクに関していろいろ話をして。とても楽しかったですね。
◆4人の女性の中で、監督ご自身が一番好きなキャラクターは誰ですか?
誰だろう…みんな好きですが、美穂は、さゆりんご(松村沙友理)が演じたこともあり、彼女のなんとかして殻を破ろうとする様と美穂が、私の中で重なりました。美穂を演じる「松村沙友理」という人が変わる瞬間を見せてもらいました。すごく特別な瞬間に立ち合わせてもらったと思うので、そういった意味では、特に思い入れがありますね。
◆実際に松村さんが殻を破られる瞬間があったと。
松村さんは最初、私の演出に「はい」と答えるだけだったんですが、多分、日を追うごとに悔しさが募っていったんだと思います。それである日、トイレでギャラ飲み女子をいびるシーンで、初めて「美穂って、こういう感じですかね。どっちがいいですか?」と私に質問してきたんです。それからしばらくして、夜の六本木を走るシーンの撮影あったんですが、私には美穂ではなく、松村沙友理が泣いているようにしか見えなくて。10テイクくらい撮って、“どうしようかな、これでOKにしてしまおうかな…”と思っていたら、彼女が私のところに来て「もう1回やらせてください」と。スタッフが次の撮影準備のために動き出している中で「もう1回」と言うのは、ものすごく勇気がいることなんです。その瞬間ですよね、「人って、こんなに短期間で変われるんだ」と感じたのは。すごくうれしくなりました。そうして、このシーンが撮れたので、今では「本当にありがとう」と思っています。
◆この作品を撮って、結婚観に変化はありましたか?
私の中ではないんですが…反省として、結婚するもしないも選べる立場は、実は特権なんだなと思いました。選ぶ以前に制度の問題で結婚が“できない”人たちもたくさんいるので。そういう人たちを全く描かず排除してしまったのは、反省点です。実は、最近このことに気づいて、落ち込みました。結婚する、しないの選択肢がある時点で大分幅が広いんですよね。
◆では、今後撮ってみたい作品はありますか?
先ほどの話に通じますが、今作はあまりにも登場人物の幅が狭かったと思っています。女性も一種のマイノリティーであるから、今回はそれに特化する気持ちでしたが、シスジェンダーのヘテロセクシャルの人しか登場しないので、“なんて狭いんだ”と。なので、これからはそうではない人たちも、当たり前に作品の中で生きてほしいです。心身の性が一致してない人、同性を好きな人、恋愛をしない人も、誰の周りにもいますから。あと、こういう結婚がテーマの映画だと「結局、1人で生きていくぜ」とまとまることが多いじゃないですか。「1人で生きていくと、今は決めます」みたいなことが、唯一ポジティブである終わり方みたいになっていますよね。だから新しい選択肢を考えたい。本当は終わり方がポジティブじゃなくてもいいはずなんですよね。
◆この作品は完成披露試写が有観客で行われました。お客様を目の前にした気持ちはいかがでしたか?
人が集まることが、こんなにもエネルギーをもらえることなんだなと思いました。このことに関しては、いまだに言語化できないんですが。コロナ禍になって、“リモートめっちゃ便利やん”と思っていましたけど、「やっぱり、全然違うぞ」と。今までいろんな映画人が舞台あいさつなどで感極まって涙を流したり、熱い思いを語ってらっしゃいましたが、正直実感がなかったんです。「今の感じでも悪くないやん」「一席空いてるの、変なおじさんとかに絡まれへんし、楽なあ」って。一観客としてはこの状況も快適でしたが、作り手としては、やっぱりこの数年はおかしな世界だったんだなと、今回初めて気づきました。だからみなさんにはどんな作品でも「観られる時は、映画館で観たほうが絶対にいい」と伝えたいです。
PROFILE
ふくだももこ
●1991年8月4日生まれ。大阪府出身。2016年、小説「えん」がすばる文学賞を受賞し、小説家デビュー。2019年に「おいしい家族」で長編監督デビューを飾る。監督作として映画「君が世界のはじまり」、ドラマ『深夜のダメ恋図鑑』『カカフカカ』などがある。
作品情報
「ずっと独身でいるつもり?」
2021年11月19日(金)全国公開
(STAFF&CAST)
原作:おかざき真里(原案:雨宮まみ)「ずっと独身でいるつもり?」(祥伝社フィールコミックス)
監督:ふくだももこ
脚本:坪田文
出演:田中みな実 市川実和子 松村沙友理 徳永えり 稲葉友 松澤匠/山口紗弥加/藤井隆 /橋爪淳/筒井真理子
主題歌:にしな「debbie」(WARNER MUSIC JAPAN)
企画・配給:日活
(STORY)
10年前に執筆したエッセイで一役有名ライターとなった本田まみ(田中みな実)。現在36歳で独身のまみは、仕事にやりがいを感じながらもヒット作を書けずに迷走中。周囲からは「ずっと独身でいるつもり?」と心配されている。一方、まみが出演する配信番組をきっかけに、まみのエッセイを支えに自立した生き方を貫く由紀乃(市川実和子)、夫への小さな不満を抱えながらインスタ主婦を続ける彩佳(徳永えり)、パパ活女性をしながら若さを失うことに怯える美穂(松村沙友理)の人生が交錯し始める。
公式HP:https://zuddoku-movie.com
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text/佐久間裕子