11月26日(金)より公開される映画「幕が下りたら会いましょう」で、鳴かず飛ばずの劇団主宰者・麻奈美を演じた松井玲奈さん。自身や周囲との関係に複雑な思いを募らせる難役で映画単独初主演を果たした松井さんに、撮影中の苦悩、そして本作出演による収穫を聞きました。
◆松井さんは舞台に数多く出演されていますが、映画、ドラマといった映像作品と舞台では、どのような違いがあると考えていますか?
舞台は映像作品と違って稽古期間が長く、本番期間中も同じ芝居を繰り返しながらどんどんブラッシュアップしていく…そこは映像作品とかなり違うところだと思いますね。なので舞台の時は、毎回同じことをやる楽しさがありつつ、慣れてしまわないように心がけています。一方で映像作品は、その瞬間瞬間の瞬発的な表現を大切にできるのがいいところかなと。
◆「幕が下りたら会いましょう」は、松井さんにとって映画単独初主演作となります。出演の話を聞いた時の印象を教えてください。
そういったポジションを任せていただけることが、ありがたかったです。お話を頂いたタイミングでプロットを読んだのですが、失った妹との時間をどうしたら修復できるかという、自分自身の過去や家族と向き合うお話だったので、とても演じがいがあり、またやってみたい役だと思ったことが強く印象に残っています。
◆前田聖来監督とは、どのような話をしたのでしょうか?
撮影に入る前に、台本について何度かお話する機会を頂いて。麻奈美という役を演じる上での疑問点や、感情の流れとして気になった部分についてお話しながら、どうしたら作品全体がより良くなるか、ディスカッションさせていただきました。
◆麻奈美は松井さんと同世代です。演じていて共感した部分はありましたか?
共感みたいなことはあまり考えずに演じていましたね。自分自身と似ているところを探すよりは、彼女自身が何を考えていたのかを探っていた感じです。特に監督から「感情表現を抑えてほしい」と逐一言われていたので、内に秘めた思いを抑えることによって溢れ出してくるような、そういう部分を大切に演じました。
◆では、演じる上で難しかったことは?
やはり、その感情表現を抑える部分が一番難しかったです。腹が立った時もうれしいことがあった時も、あらゆる感情を抑えてぶっきらぼうに演じてほしいと言われていたんですが、最初はなかなか慣れなくて大変でした。
◆感情を表に出さない分、せりふの言い回しなどで工夫したり?
せりふの言い方で意識したことはないですが、相手に届ける時の届け方は、普段とは違うなと思いました。やっぱり、それだけの信頼関係が構築できていないと、ぶっきらぼうで、ある意味ぞんざいな言い回しにはならないと思うので。そこには相手との信頼関係があったり、彼女の甘えみたいなものもあったりするんじゃないかなと。そう思いながら演じていました。ただ、私は普段、そういう接し方をしないので、そういう意味ですごく難しかったですね。
◆あらためて、松井さんは麻奈美をどんな女性だと考えていますか?
やっぱり、どこか人に甘えている部分があったり、自分自身と向き合うことから目を背けて生きてきたような印象があります。ところが、妹の尚が亡くなったことによって、そこから自分や家族と向き合うことを始めていくんですよね。
◆そんな麻奈美の魅力的な部分を挙げると?
彼女が自分と向き合うことを始めて、周りの人からも影響を受けながら表情や受け答え、考え方などが徐々に変わっていくところは、一番人間らしくて魅力的だなと思いました。
◆麻奈美と母親の関係も印象的です。
監督から、親子の2人は似ていると言われていて、確かにそうだなと思う部分もありました。母も麻奈美に対してぶっきらぼうで、親子関係としては少しぎくしゃくしているように見えながらも、やっぱり芯の部分では繋がっていて。お互い言葉はなくても心が通じる部分だったり、本当はうれしいのにうれしい気持ちをうまく表に出せなかったり。当の本人たちは大変なんでしょうけど、私は演じながらそういう不器用なところが微笑ましくて好きだなと思いました。
◆筧美和子さんが演じた、妹の尚については?
実際に尚が画面に映っていなくても、尚はずっと物語の中に存在していて。麻奈美を演じる上でそこは常に意識していたので、尚という存在がすごく大きなものに感じました。実際、尚を演じた筧さんにお会いできたのは撮影の中盤ぐらいだったので、“やっと会えたな”という感覚がありましたね。撮影の序盤に尚が亡くなった後のシーンを撮っていたこともあってか、本当にいなくなってしまった人に会えたかのような感じで、とてもうれしかったです(笑)。
◆筧さんの印象はいかがでしたか?
とても柔らかい雰囲気の方で、かわいいな〜と思って見ていました(笑)。そんなにたくさんお話する時間はなかったのですが、劇中では短いながらも、尚に触れる瞬間が何度もあって。そうした瞬間は、とても特別な時間だったなと思います。
◆映画には「始めることよりも続けることのほうが大変」というせりふが出てきます。麻奈美を演じながら、このせりふをどのように捉えていましたか?
彼女自身が体現していることのように感じていました。麻奈美が、売れなくてもずっと演劇の世界に身を置いているのは、彼女の“逃げ”もあったのかもしれないけど、芝居と真剣に向き合っていたからこそだと思うんです。確かに続けることは大変ですが、それだけの情熱や深い思い、未練がないと、あそこまで続けられないなって。
◆ご自身も、このせりふに共感できる部分はありますか?
女優をやっている今が実際にそうだなと思います。もちろん始めるのも大変で、分からないことだらけで学ぶことばかりでしたし、今もまだ学んでいる最中で、力不足だなと感じることもたくさんありますが…。それでもやりたいと思うからこそ、大変でも続けているんだと思います。
◆あらためて、撮影を振り返っていかがですか。
意識していたわけではないのですが、撮影以外の部分でも常に感情を抑えて、役と向き合っていたなという印象が強く残っています。撮影自体は、監督がとても分かりやすく演出をつけてくださり、欲しいものを明確に伝えてくださるので、とても芝居しやすかったですね。
◆撮影の合間もわりと静かに?
もともとそんなに現場で楽しく話をするタイプではないんですが、特に麻奈美はあまり感情を表に出さない役だったので、撮影の合間も特に何をするわけでもなく、静かに現場にいて、“やるべきことをやる”、自然とそうなっている感じでしたね。
◆完成した作品を見た時は、どのようなことを感じましたか?
客観的に見た時に、やっぱり麻奈美がどんどん変化していく様子がとても興味深かったです。特に東京に行って亡くなった尚の洋服を着るシーンは、“東京にいるから仕方なく尚の服を着ている”という気持ちで衣装合わせをしましたし、実際に撮影している時もそういう意識だったんですが、作品として見た時に、そこにすごく違和感を感じて…。東京に来て少し空回っている麻奈美が、別の人間に成り代わっているようにも見えたんです。そして、地元に戻って自分の服に着替えてから、彼女は自分が本当にやりたいことを見つけて進んでいく。そうした彼女の変化が、着ているものからも伝わってくるような気がして。それは、撮影中には自分自身で気づいていなかったので、見ていて面白いなと思いました。
◆麻奈美はとても難しい役柄だったと思いますが、この映画は自分にとってどのような作品になったと思いますか?
本当に撮影中はカメラの前で感情を表に出さないようにしていたんですが、それでも抑え切れない感情は自然と溢れ出してくるんだなというのを、この作品を経験することで強く感じました。今までにない体験を何度もしましたし、自分にとって大きな経験になったと思います。
PROFILE
松井玲奈
●まつい・れな…1991年7月27日生まれ。愛知県豊橋市出身。2008年芸能界デビュー。「幕が下りたら会いましょう」に続き、2022年公開予定の映画「よだかの片想い」にも主演する。
作品情報
「幕が下りたら会いましょう」
2021年11月26日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
(STAFF&CAST)
監督:前田聖来
脚本:大野大輔、前田聖来
主題歌:「CRY〜戻りたい夜を〜」Jam Flavor
出演:松井玲奈/筧美和子、しゅはまはるみ、日高七海、江野沢愛美、木口健太、大塚萌香、目次立樹、安倍乙、亀田侑樹、山中志歩、田中爽一郎、hibiki(lol-エルオーエル-)、篠原悠伸、大高洋子、里内伽奈、濱田のり子、藤田秀世、出口亜梨沙、丘みどり/袴田吉彦
配給:SPOTTED PRODUCTION
(STORY)
実家の美容室を手伝いつつ、鳴かず飛ばずの劇団を主宰していた麻奈美(松井玲奈)のもとに、ある日、東京で働いていた妹・尚(筧美和子)が亡くなったという知らせが入る。その日、尚から着信があったにもかかわらず電話に出なかった麻奈美は、複雑な思いを抱いてしまう。そんな中、劇団仲間の早苗(日高七海)と一緒に妹の部屋を引き払いに東京に向かった麻奈美は、様々な人々との出会いと再会を経て、自分自身と向かい合うことになる。
公式サイト:https://makuai-movie.com
公式Twitter:@makuai_movie
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photo/神藤剛 text/水上じろう