◆なお、今作は黒羽麻璃央さん、小島聖さんとの3人だけの舞台でした。実際に共演されてみての印象はいかがでしたか?
すごく楽しかったです。僕が“流行り病”を患ってしまったことで、皆さんより遅れて稽古に参加したのですが、その時点でお2人は僕が想像していた何倍も完璧にお芝居を仕上げられていて。“そんなに細かい動きまで作り込んでいたの?”と驚くくらいの精度でした。それを見て、“足を引っ張るわけにはいかない”と、僕も新たにスイッチと気合いを入れ直したところがありますし、反対に、お2人もそんな僕の姿を見て刺激を受けてくださったように思います。
◆田中さんが感じた、お2人の役者としての魅力はどんなところでしょう?
聖さんは毎回すごく新鮮なリアクションを取られる方。おさむさんってある程度の動きは演出でつけてくださるんですが、それと違うことをしても、物語が成立していれば何も言わないんです。聖さんも、まさにその日その日の感情を大切にされていて。本当はハグをするシーンであっても、気持ちがそこまで達していないと、あえてハグをしないという選択を取ることもありました。僕もそれに合わせてお芝居を変えていったので、毎日ライブ感があって楽しかったですね。麻璃央は今回、物語の土台を担っているところがあったので、アドリブを仕掛けてくるということはあまりなかったです。おさむさんの演出を忠実に守っているような感じもして。でも、ところどころに遊びを入れてくることもあり、そこは僕も一緒に楽しんでいました。
◆また、田中さんのお芝居も、映像作品や舞台を拝見するといつも自然で、それでいて、どの役もキャラクターが違うのに、必ず“田中さんらしさ”が感じられます。役を演じる上で普段から意識されていることはあるんでしょうか?
僕、役作りというものをしないんです。そもそも役作りの仕方が分かっていない(苦笑)。もちろん、役によっては説得力を持たせるために、見た目を変えていくという役作りの方法はあると思います。でも、体つきを変えていくには相当な時間が必要なので、その時間がない場合は妥協するしかない。それに、役の性格や内面についても、ある程度の共感はできても、100%その人物になりきるのは不可能だと思っていて。なぜなら、殺人犯の心理はやっぱり理解できないですし(笑)。そう思うようになってからは、あえて役作りはしないようになっていました。
◆台本から受ける印象をそのままストレートに役に投影していくということですか?
そうですね。当然、以前演じた役と近いキャラクターを任される時は、まったく同じにならないようにしようと考えます。ただ、それを意識してしまうことで、今度は逆に作りものっぽくなってしまう危険性もあるので、必要以上に意識しないようにもしていて。それにありがたいことに、今おっしゃってくださったように、作品ごとに役が違って見えるという声を頂くことが多いので、あまりそこは気にしないようになりました。
◆では最後に、これから放送をご覧になる方に向けて、田中さんがこの作品を通して感じた思いをお聞かせください。
“死”や“希望”をテーマにした物語ですので、いろんなメッセージが詰まっています。僕の中にも届けたい思いがたくさんありました。でも一番大事なのは、見てくださる方が、何を、どう感じてくださるかですので、僕1人の感想や思いはさほど重要ではないと思っています。ましてや、僕がこの作品でどう見られるかということも、全く気にしていません(笑)。ただ、唯一思ったのが、こうしたご時世ですので、月人としてではなく、田中圭個人として、この作品をご覧になる方にエンタメの楽しさであったり、ハッピーな日々を送ることの喜びや大切さを伝えていきたいと思いました。そうした気持ちになるのはすごく珍しいことなのですが、それが今の僕の使命なんだとこの作品を通して感じましたね。
PROFILE
田中圭
●たなか・けい…1984年7月10日、東京都出身。現在、音楽番組『MUSIC BLOOD』の司会を担当。また、映画「そして、バトンは渡された」などに出演中。12月10日(金)より映画「あなたの番です 劇場版」が公開予定。最近の出演作に、ドラマ『ナイト・ドクター』『先生を消す方程式。』映画「総理の夫」。
番組情報
舞台「もしも命が描けたら」
CS衛星劇場 2021年12月12日(日)後5・30よりテレビ初放送
※本編終了後に、鈴木おさむと出演者3名による座談会を放送
(配信時の座談会映像とは別編集Ver.)
(STAFF&CAST)
作・演出:鈴木おさむ
アートディレクション:清川あさみ
テーマ曲:YOASOBI
出演:田中 圭、黒羽麻璃央 小島 聖
(STORY)
ある日の夜、深い森の中で星野月人(田中圭)は35年間生きてきた自分の人生に終止符を打とうと、ロープに首をかけていた。哀しい境遇に生まれ、画家になる夢も諦めた彼はこの世に絶望していたのだ。が、そんな矢先、不思議な力を得る。最初は半信半疑だった月人も、やがて自分の力の存在を受け入れつつ、それでも変わらぬ質素な日々を送っていた。しかし空川虹子(小島聖)との出会いによって、彼の日常が大きく変わり始める。月人の願いはひとつ。虹子を笑顔にすることだけだった…。
photo/宮田浩史 text/倉田モトキ hair&make/花村枝美(MARVEE) styling/山本隆司(style³)