殺人事件の重要参考人となった女性実業家・真田梨央(吉高由里子)と、彼女を追う刑事で梨央の最愛の人でもある宮崎大輝(松下洸平)、そして梨央を支える弁護士・加瀬賢一郎(井浦新)の3人を中心に描かれるサスペンスラブストーリー『最愛』(TBS系 毎週(金)後10・00~)。第8話のラスト、事件現場に残されたものと同じボールペンを持つ人物として名前が挙がった加瀬。これまで真田家と梨央を献身的に支えてきた加瀬が一転、怪しまれる展開に…! ますます注目が高まる第9話(12月10日放送)の放送を前に、井浦新さんのインタビューをお届け。加瀬のキャラクターについて、そして気になる今後についてたっぷりと語っていただきました。「本当は言いたくないんですが…」と言いつつ、吉高由里子さん、松下洸平さんへの熱い思いも明かしてくれました。
◆ここまで加瀬を演じてきた中で、井浦さん自身の心境の変化はありましたか?
加瀬に関しては、1話から一貫してまして。塚原(あゆ子)監督、新井(順子)プロデューサーからも最初に言われていた“常に梨央に優しく寄り添う”っていうところを、加瀬のキャラクターを作っていく上で大切に、ブレないように徹底しています。加瀬としても、目の前で起きるさまざまなことに対しての心境の変化は少しずつあるんです。真田ウェルネスでのさまざまなこと、お転婆な梨央社長が引き起こしてしまうさまざまなスキャンダルに対して、その都度“大変だな”と思ったりもしていて。でも、1話から薄々感じてたんですけど、加瀬という人は良くも悪くもシンプルなマインドの人なんです。内側にあるものをずっと秘めてるわけではないんですけど、表に出していくタイプではないんですよね。本当に大切なもの以外への興味がなくて、ただひたすら真田ファミリーを支え続けている。その中でも、梨央の目標や夢というものを一緒になって支えることで加瀬も梨央の夢や見ようとしている景色を一緒に見たいというそういう思いだけというか。そういうすごくシンプルなマインドの人物なんだなというのは、演じていく中で確信してきた感じですね。僕としても、1話からずっと積み重ねてきた加瀬の人間性が、ずっとやってきた中で明確になってきたっていうふうに感じています。
◆梨央に対する優しい表情があれば、後藤(及川光博)に対する厳しい表情があったりとギャップのある役ですが、加瀬を演じていて楽しい部分はどんなところですか?
“シンプルなマインドを持つ” “梨央に優しく寄り添い続ける”ということを大切にしすぎると、役の輪郭がイメージしたままになりかねないというか。そこを塚原さんとも「壊すんじゃなく、どんどん役の輪郭を押し広げたい」と話していまして。“こういう言葉は使わないんじゃないか”とか、“こんな動きはしないんじゃないか”っていうものにあえてトライしてみることで、イメージの中にハマりすぎないようにしています。言葉遣いにしても、丁寧な言葉遣いだけにしていると執事のようになってしまうので、人間らしくしたいって思いがあったんです。ドラマとしては描いてはないんですけど、(梨央の兄の)政信(奥野瑛太)に対しても、加瀬は大切な真田ファミリーの1人としてどこか弟のような目で見ていると思うんです。大切で守ってあげたい気持ちもある。だから実際、政信が突っかかって来ることに対して、ちょっと人生の先輩のような対応で受け流してみたりとか。梨央に対しても仕事上では敬語だけども、その中でたまにタメ口が出てきてしまったりとか。突然部下から友達になっちゃうみたいなことを、一つのシーンの中で行ったり来たりするようなトライをしてみました。塚原監督が「ここはもっと抑えよう」と手綱を持っててくださってるので、僕はのびのびと、でもやりすぎないようにギリギリのラインを探っていく。そういうチャレンジが、加瀬を演じる上で楽しかったところですね。
◆加瀬にとっての“最愛”について、回を重ねてどのように感じていますか?
加瀬の“最愛”は、変わってないんだなって思います。3話の始まりのナレーションで、加瀬は自分の家族について語ったんですよね。他の人たちもそれぞれ自分の“最愛”について語ったんですけど、加瀬にとってはそれが家族で。でも、血がつながってる、つながってないってことじゃなく、真田家との関係はそういうものを越えたところにある。梨央との関係も、きっかけは梓さん(薬師丸ひろ子)の「うちの娘のこと、加瀬君に任せたよ」ってことだったかもしれないですけど、仕事もプライベートも支えていくっていうことを15年以上してきて。それ以外は本当にないんですよね。本当にこの人はすごくシンプルなマインドを持っているなと。でも、加瀬の“最愛”の形っていうのは、もしかしたら多くの人が持ってる“最愛”の形でもあるのかもしれない。登場人物の“最愛”の形の中で一番シンプルというか、普通なんじゃないかと思ってるんです。分かんないですけどね、9話と10話でテーブルをひっくり返すかもしれないですし(笑)。今の所はそんなふうに思ってます。
◆加瀬には“普通さ”があると捉えていらっしゃるんですね。
今ロケが終わってオフィス街にいますが、ちょうどお昼時なのでたくさんの人がお昼に向かっていて。加瀬もその中の1人にいても何の違和感もないというか。そういう感じなんですよね、加瀬の存在って。後藤さんがここにいると浮くんですけど(笑)。後藤さんとちょっと並べて見ると、後藤さんみたいな繊細さって意外と加瀬は持ち合わせてなくて。後藤さんは公園の芝生の上では絶対寝っ転がらないでしょうけど、加瀬はきっと寝っ転がっちゃう。どんなに梨央社長が自由奔放で、「やるな」っていうことどんどんやって振り回されても、加瀬は鼻血は出さないですし(笑)。そういう図太さも持ってるんですよね。そういう意味でも加瀬って、マンションの隣の部屋に住んでる人ぐらいの距離感の人だと思ったりして。サイコパスのような人でも、今の所はないですし。特別な能力を持ってる訳でも、個性が強い訳でもない。本はだいぶ好きみたいですけど。そういう普通の人が持つ“最愛”ってどれぐらい強いのかなって、10話に向けて僕も楽しみなんです。
◆視聴者の方たちが“加瀬キュン”で盛り上がってることについてどう思っていますか?
“加瀬キュン”は僕が勝手に作りました(笑)。1話が終わったぐらいのタイミングで新井プロデューサーのインタビューを読んだ時に、「このドラマは“ジリキュン”だよね」って塚原さんと話してて。「“ジリキュン”って何だ?」と。普段はあまりそういう言葉に興味がないので、「“ジリキュン”って面白いな~」と感じたんです。最初は“ジリキュン”が埋もれてたので、それをイジることから始まりました。新井さんが折角キーワードを言ってたのに、公式のSNSでもひと言も出てなかったので「公式さんが拾わなくてどうするんだ!」と。それで「新井Pが視聴者にお答えします!」って企画の時にも、僕が「“ジリキュン”が全然流行ってないんで、他の言葉を考えましょうか」って投稿して参加したり。とにかく“ジリキュン”イジりをしてたら、だんだん面白くなってきて。全部にキュンをつけてやろうって、本当に適当です(笑)。何の思いもなく“加瀬キュン”とか、「大輝のキュンで大キュンって語呂がいいな」とか勝手にやってたら、視聴者の方たちもありがたいことに拾ってくださって。でも正直、僕はその時点で飽きちゃってて(笑)。最近はもう使ってないです。でも、広がっていくってすごいなと思いますし、楽しんでくださっててありがたいなって感じてます。
◆オンエアをご覧になっていかがですか?
僕も視聴者の皆さんと同じように物語を楽しんでるんです。何でかっていうと、ドラマ見た時に感じる感覚が、毎回台本が上がって来て最初に読んだ感覚から超えるものを作ってくださるんですよね。自分が台本で読んだ大輝のせりふが、(松下)洸平君が大輝として積み重ねてきた思いを乗せた言葉になった時に「こんな言い方になるのか」っていうふうに変わりますし。「あのせりふ、梨央はあんな顔で言うんだ、意外だったな」とか。だからこそ、自分も楽しんだ瞬間のフレッシュな気持ちをそのままSNSに載せてしまうと、“加瀬キュン”みたいに変な言葉が出てきてしまったりするんですけど(笑)。そういうのを視聴者の方が拾ってくださって、ドラマだけじゃない場外乱闘というか(笑)。物語には全然リンクはしてませんが、役の雰囲気ともちょっと変わった状態で洸平君ともSNSを通してやりとりしたり。そういうのもひっくるめて楽しんでくださってるのは本当にありがたいですよね。
◆TBS公式YouTubeチャンネルの「『最愛』しゃべくりルーム」の中で、“7話のホームセンターでよろけた梨央の荷物を持ってあげるのはアドリブだった”というエピソードが紹介されて、ネット上では「井浦さんは地が加瀬なんじゃないか」と話題になっていますが…。
あ、地が加瀬の井浦新と申します。加瀬に関してはもう芝居してないです。ドキュメンタリーです。…これで大丈夫ですか?(笑) 適当に書いておいてください(笑)。
◆今回、松下洸平さんと初共演してみて感じた魅力を教えてください。
これは本当は何かを介してじゃなく、終わってから本人に言いたいなと思ってたことなんですけど…、まぁいいかな。洸平君に関しては、とにかく初めましてからのスタートで。役柄的にも梨央を中心に対峙して、それぞれの梨央への寄り添い方や守り方っていうものがあるからこそぶつかっていくっていう関係なので、お互いどういうお芝居ができるのかって楽しみにしていました。1話から4、5話ぐらいまでは、何かしらワンシーン必ず大輝と加瀬のバチッとしたシーンがあって。僕は「ここはバチバチしちゃっていいやつですよね?」っていう感じで、前のめりでしたね。分かりやすく大声で畳みかけるとか、それとも静かにだけど間違いなく火花が散ってるとか、いろんなやり方があるなと考えながら。初共演っていうのは1回限りのご縁で、次に他の現場で会ったら、これを経た2人の何らかの芝居になってしまう。お互いの手の内が読めない『最愛』での洸平君とのお芝居は、楽しんで大切にしていきたいって思いが、正直一番強かった。洸平君もしっかり応えてくれてましたし。特に面白いなと感じたのが、僕の大輝のせりふの読み方と、洸平君の読み方全然違うんですよね。“洸平君だったらこうしゃべってくるかな” “加瀬のせりふはどうしようかな”ってイメージを張り巡らせるんですけど、どれにも当てはまらないものを必ず本番に出してくる。僕はあまり芝居を決めないで、相手との反射のし合いが楽しいと感じるので、本番に芝居が変わってきたら変わったなりにやるんですけど。洸平君の体の中に流れてるリズムがきっと独特なんですよね。息を吸って、こんなところで止めて、最後の言葉はこんなふうに吐き出してくるのかっていう。それを受けて加瀬のリズムに持ってくるためにも、自分の中でエンジンがどんどん回転するんです。自分が予測したものじゃないものが毎回来るので、本当に楽しいです。“なんで今、体をこうやって動かしたの?” “そのせりふを言いながら、そんな体の動かし方するの?”って話を洸平君に振ってみたりするんですけど、本人は全然気づいてないのも面白くて。あと、バチバチした芝居をやっていくと、予定調和になったり慣れてしまったりもするので、“そうならないぞ”って自分に言い聞かせる目標として“バチバチフレッシュ”で“バチフレ”って残しておこうってSNSに書いたんです。さっきの“ジリキュン”の延長線上の言葉なんですけど(笑)。今、8話までやってきて、大輝と加瀬のお芝居の間合いとか、空気感がいまだにフレッシュな状態でいれてるのは洸平君のおかけだなと思ってます。
◆では、吉高さんについてはいかがでしょうか?
これも、本当は人様には言いたくないんですけど…(笑)。今回新井さんも、現場にいるさまざまなスタッフも、吉高さんのことを「天才だ!」って言うんですよね。僕はどちらかというと彼女はそんな簡単に“天才”ってひと言で括れるタイプじゃないと思うんです。彼女は不器用だと思ってますし、不器用だからこそ努力を惜しまない。でも、その積んできた努力やキャリアを生かしたとしても、根が不器用ですから。そんな簡単に何でもかんでもうまくやってのけられるタイプじゃない。ただ、彼女は力では芝居しなくて。その場に流れてる空気感、彼女自身の体の中のリズムというものを最大限に自然に生かすことにすごく長けた人なんだと。お芝居が自然に見えるのは、自然なお芝居をしてるんじゃなくて、どんな時でも肩の力を抜いているから。そして、役と本人を同化させることができるタイプの女優さんだと思うんです。それって誰でもできることでもないですし、天才だからできるわけでもないと僕は思ってます。彼女が19歳で、僕もまだ31歳か32歳ぐらいで、まだ人間としてとても未熟な時期に会っていて。そんな未熟者同士だった2人が、10数年経って共演して。実際そういう会話はしてないですけど、お互い“まだまだだね”というのが感じ取れてしまったりするのが気恥ずかしかったです。でもそういう気恥ずかしさとか、出会ってから10数年経ってる背景を、梨央と加瀬にも当てはめられて。だから彼女のことを自然に見つめていられるし、芝居のスイッチを入れた状態でも向き合っていられる。僕にとって吉高さんは稀有な存在だなって思います。今回、梨央と加瀬というそれぞれの役柄や関係性をどこまで作り上げていけるかなっていうのは、やっぱり楽しみでしたし。芝居上のみで作っていくことは正直簡単ですけど、そういうお互いの関係性や背景や気恥ずかしさっていうものを織り交ぜながら役を作れるっていうのは、なかなかできないことでもあるので。そういう中で作っていく相手としては本当にありがたいなと思ってますね。吉高さんにそんな“ありがたいな”なんて思ったことなかったのに(笑)、今回自分の中でもビックリするくらい、彼女に対しての尊敬の念っていうものが大きく膨れ上がりましたし。本当に久しぶりにご一緒することによって、彼女が吉高由里子として背負ってきたものを感じました。それが僕の中で、彼女への敬意として広がっていきましたね。…というのを、終わってからサッと言って帰ろうかなと思ってたんですけど、皆さんに言ってしまいました(笑)。
◆最後に、第9話、第10話を楽しみにしている、視聴者の方へメッセージを!
8話の最後に、加瀬に犯人フラグが立ってしまったんですけど(笑)。といってもまだ9話、10話とありますから。そう簡単に犯人フラグを立たせてたまるかと思っています(笑)。同時に梓社長も怪しくなってきてますし、大輝の幼なじみの藤井(岡山天音)も、まぁいい面構えで(笑)。自ら犯人に立候補していってるような雰囲気を醸し出してますし。でも、僕の中では正直“大ちゃん犯人説”はちょっとあるんじゃないかなっていうのも、まだ皆さんに忘れないでほしいと思っていて。ああいう不器用でみんなにキュンとされてるやつが、実は一番悪いやつなんじゃないかっていうふうにちょっと思ってるところもあるんです。まだ2話あるので、犯人捜しを楽しんでいただきたいなと思います。あとやっぱりこの『最愛』の一番の醍醐味は、犯人捜しを凌駕してくるそれぞれのヒューマンドラマだと思います。全ての人たちが大切に抱えている“最愛”のぶつかり合いっていうのが、一番の魅力でもあるので。8話まで積み重ねてきたそれぞれの“最愛”の大きさが、今後もどういうふうにぶつかり合って、交ざり合っていくのか。どんどん開いていったり、閉じていく人もいるかもしれないですし。その人間ドラマは、残りの2話にかけてまだまだここからさらに加速していくと思うので、犯人捜し以上にその人物たちの“最愛”の物語を楽しんでいただけるのではないかと思います。
PROFILE
井浦新
●いうら・あらた…1974年9月15日生まれ。東京都出身。A型。最近の主な出演作は『にじいろカルテ』『あのときキスしておけば』、映画「神在月のこども」「恋する寄生虫」など。映画「ニワトリ☆フェニックス」(2022年春予定)、「こちらあみ子」(2022年予定)の公開が控える。
番組情報
金曜ドラマ『最愛』
TBS系
毎週金曜 後10・00~10・54
<第9話(12月10日放送)あらすじ>
昭(酒向芳)の遺体と一緒に池から発見されたウェルネスホームのペンは、梓(薬師丸ひろ子)が会社設立の記念品として作った特注品だった。持っているのは梨央(吉高由里子)、加瀬(井浦新)、後藤(及川光博)、政信(奥野瑛太)、梓の5人。警察はその中の誰かが、事件の時に落とした可能性があるとにらんでいた。
同じころ、富山県警の藤井(岡山天音)が、捜査一課からはずれた大輝(松下洸平)を訪ねて来る。いつものように軽口をたたくが、帰り際、藤井が何かを言いかけてやめたことが大輝はひっかかる。
そんな中、政信が社長を務める真田ビジネスサービスの30周年記念パーティーの翌日、真田ウェルネスの寄付金詐欺疑惑と、しおり(田中みな実)の不審死に関する週刊誌のスクープ記事が出て…。
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