一世一代のイベント“結婚式”で新郎新婦に寄り添うウェディングプランナーの奮闘を描いた映画「ウェディング・ハイ」。バカリズムが脚本を担当、バラエティに富んだ登場人物たちが入れ代わり立ち代わり爆笑シーンを繰り広げる本作で、新郎・彰人役を演じた中村倫也さん。常にニュートラルで新婦の願いを聞き入れる優しい彰人役についてはもちろん、現場における仕事のスタンスなども語ってくれました。
◆いよいよ映画が公開されますが、完成した作品をご覧になった印象はいかがでしたか?
バカリさんと大九監督のそれぞれのカラーが随所に出ている作品だなと。物語はとてもシニカルかつ鋭角な切り口なのに、しっかりと笑える要素があるのがバカリさんらしいですし、そこへプラスするように、大九さんによる、ただの喜劇映画にせず、観客にカタルシスを与えていく素敵さも強く感じて。また、バカリさんが描くせりふの妙もあるし、そうかと思えば、言葉はなくとも心の動きを映像で表現していく大九さんらしさもある。まさしくお2人の魅力が見事に混ざり合っているなという印象でしたね。
◆大九監督の現場でのディレクションは、どのような感じだったのでしょう?
これは僕に対してだけなのかもしれませんが、大九さんはいつも「ここでなんかやってみて!」みたいな感じなんです(笑)。何作もご一緒しているので、お互いの心の内が分かっているというのもありますし。だから、具体的に「このシーンは、彰人にとってこんな意味があるから、こういう動きをしてください」というような演出はまったくなくて。本当に、「ちょっとやってみて」ぐらいな感じですね(笑)。それを聞いて、僕からも「どんなノリが欲しいの?」って確認する程度で(笑)。たまに勝手にふざけちゃうこともありますし、とにかくいつもフランクに撮っています。
◆それは、ものすごい信頼関係ですね。
あとは、大九さんの作品には少しなよっとした男性が出てくることが多くて、僕もよくそのポジションを大九さんに求められるので、現場で会話をしていれば、なんとなく監督が欲しがっているものが分かるというのもあります(笑)。
◆そうなんですね。とはいえ、彰人はなよっとしているところもありますが、それ以上に優しさがあるように感じました。
その印象は映画を観た人によって、結構変わるみたいですね。「優しい男性」と言ってくれる人もいれば、「彰人みたいに自分であまり考えず、女性に合わせればいいと思ってる男性って多いですよね」と少し否定的な感想を持つ方もいて(笑)。本当にバラバラなんです。でも、僕にとっては、それがすごくうれしくて。やっぱり登場人物のことをどう感じるかは、人によって違ったほうが作品的には絶対に面白いですから。実際、僕自身も彰人がどんな男性なのか、細かく決めずに演じたので、これから映画が公開されて、皆さんからどんな感想が届くのか、すごく楽しみです。
◆ちなみに、「優しい男」という意見は、男性からのほうが多かったんですか?
半々だったかなぁ…。いや、男性からは「分かります」とか「共感しました」という声が多かったですね(笑)。男性は、どうしても披露宴の料理とかに無頓着な傾向がありますし、何が良くて何がダメなのかも分からないことが多いから、みんな彰人みたいな感じになっちゃうらしいです。その意味では、僕は結婚したことがありませんが、きっとこの映画には“新郎新婦あるある”のような内容がたくさん詰まっているんだろうなって。
◆中村さん自身は、こうした物事を決めていく際、率先して考えるほう?
時と場合によって違いますね。基本的には雑な性格なので、「もう、これでいいじゃん!」ってすぐに決めてしまうことが多いです。でも、自分で決めたいという人がいれば、待ちますね。逆に意見が多すぎて停滞するようであれば折衷案も出しますし。ものづくりも同じで、いろんな現場があり、いろんな役者さんがいますから、その時々で、何をどうすれば目の前の流れが良くなるかを見ながら動く。そういう軽やかな身のこなしを武器に、これまで生きてきました(笑)。
◆(笑)。自分で決める時の決断も早いんですか?
音速です(笑)。僕、たまにトークライブのようなイベントをするんですが、時間がなくてまわりのスタッフさんたちが慌てはじめても、僕1人だけ「大丈夫、大丈夫。これとこれを用意してください。あとはそれもあれば問題ないです」ってどんどん決めていっちゃいますね。
◆それは、最初からゴールが見えているから決断が早いということなんでしょうか?
どちらかというと、こだわりがないんですよ。役者の仕事もそうですが、お芝居の正解っていくらでもあるようで、実はあまりなくて、でも不正解は確実にある。その不正解のジャッジさえできれば、あとは正解だけなので、それなら細かく突き詰めなくても大丈夫だと思ってしまうんです。
◆なるほど。また、先ほど「彰人がどんな男性なのかを細かく決めずに演じた」とお話されていましたが、逆に、今回の役を演じる上で意識したことは?
関水(渚)さん演じる新婦の遥といる時と、彰人が高校時代の男友達とつるんでいる時の、ちょっとしたギャップが欲しいと大九さんがおっしゃっていたので、そこは少しだけ変えました。でも、彰人のようなタイプの男性は男同士でいても、そんなに立ち位置や振る舞いは変わらない気がしていて。なので、明らかに分かりやすく変えるということはしなかったです。
◆言われてみれば、遥といる時の彰人は言葉を飲み込むことが多く、男友達といる時は思ったことをそのまま口にしていますね。
そうなんです。そのぶん、遥といる時は心の声としてモノローグで語っていて。そうした、“あえて口に出さない”というちょっとした気遣いができる男性であるというのも、意識したことの一つでした。
◆では、遥という女性に対してはどのような印象を持たれましたか?
純粋で、真っすぐな女性…ぐらいかな(苦笑)。いや、語弊があるかもしれませんが、僕はあえて彰人と遥を、強い個性のないどこにでもいそうなカップルにしようと思ったんです。というのも、彼らのまわりにいる友人や親族たちがみんな濃い人ばかりで(笑)。2人はそうした皆さんの個性を引き立たせるポジションだと感じたんです。だから、僕らが普通であればあるほど、みんながイキイキしていく。それもあって、彰人役に関しても、あまりキャラクターの背景などは考えずに演じていったところがあります。
◆遥役・関水渚さんとの共演はいかがでしたか?
関水さんとは初共演でした。最初の印象は“真面目な人”。そうしたら彼女、デビュー作の映画で賞を受賞したことによってプレッシャーに苛まされていたようで。やっぱり真面目な人だなと思いましたね(笑)。僕なんかは、つい「そんなの気にすることないよ」って軽々しく口にしちゃうんですけど、それでもまだ悩まれているみたいで。そうしたところからも、間違いなく真面目な人なんだろうというのが伝わってきました。
◆そんな関水さんが演じる遥の元カレ役を演じたのは、岩田剛典さんです。
岩ちゃんとは、現場で会った時に少しだけ話をして、「裕也みたいな残念な男の役、初めてでしょ?」という会話をしたのを覚えています。ネタバラシになるから詳しくは言えないんですが、結構すごいことになっているんですよ(笑)。台本を読んだ時から、僕の中ではそれがすごく楽しみで。これはもう、ぜひ観てくださいとしか言えないですね。
◆そして今回、ウェディングプランナー役として主演されたのが、篠原涼子さん。
篠原さんもイメージどおりの人で、とてもフランクな方でしたね。現場にたまたまご親族が観に来られていて、一緒に仲良くお話もさせていただいて。それに、何よりとてもおきれいな方なので、撮影中はずっとお顔を拝見していました(笑)。
◆今作では、ウェディングプランナーとして無理難題に巻き込まれていく時の、篠原さんのいろんなリアクションがとても面白かったです。
それはやはり、かつて『ごっつええ感じ』で鍛えられたからでしょう(笑)。ただ、ご本人としては、もっとはっちゃけたかったみたいです。でも、役のポジション的にできなかったようで。そうやって頑張って自分を抑え、控えめな演技に徹している姿もおかしかった。もし、もっとはっちゃけることが許されていたのなら、僕も乗っかっていろんなリアクションをして楽しみかったですね。それは、また別の機会まで取っておきます。
◆では、そのほかの共演者の皆さんのシーンで印象に残っているのは…?
皆川猿時さん! 強烈でした!! “得体の知れない感”が、これでもかと炸裂していました(笑)。皆川さんはスピーチのシーンも最高だったんですが、披露宴の場面でたくさん見せてくれた合いの手もとても印象的で。式場での撮影は引きの画も多かったので、基本的に出演者のほとんどの皆さんが現場にいらっしゃったんです。そうした中で、皆川さんは必要以上に「よっ!」とか「おめでとっ!」って叫んでいらして。しかも、それが本編ではほとんど使われていないっていうのが、たまらなくカッコ良かったです(笑)。
◆残念すぎます(笑)。
いや、でもその心意気が素敵なんですよ。この仕事を長くしていれば、自分が映っていないこととか、どれだけアドリブを入れても使われないことは分かっていると思うんです。それでも、撮影の流れの中で会話に隙間ができれば、すぐさま埋めてくださる(笑)。もちろん、今回演じていらした役柄がそういうキャラクターだったというのもありますが、本当に素晴らしい先輩だなと思います。…と、言いつつ、その時は心の中で、「先輩、疲れるでしょうから、今は体力を温存してください」って思っていましたけど(笑)。また、それ以外で印象的だったのは、岩ちゃんとおさむっち(向井理)のシーン。2人とは共演シーンがほとんどなかったので、でき上がった映像を見て、“イケメン2人がなにやってんだ”と笑っちゃいました。ホント、バカだなぁって(笑)。
◆お話を伺っていても、いろんな要素がてんこ盛りなのが伝わってきます。でも、それだけ盛りだくさんなのに、すべての展開がテンポよく進んでいくので、あっという間でした。
そこはやはり、脚本を書かれたバカリさんの構成力のすごさですよね。結婚式前と披露宴、そして結婚式後という3段階の流れが、とても見やすくて。それに、いろんな物語がスパークして、絡まり、最後はみんながハッピーになっていく。その脚本の力も強く感じましたね。また、突然モノローグで「俺の人生は…」と語り出す人もいて、愛すべきかわいいおバカなキャラもたくさんいる。すごいのは、そうしたモノローグをうまく活かして、回想する人がどんどん増えていくにつれて、後半では「もう、どうでもええわ!」と言わんばかりに、モノローグが途中でぶった切られたりする(笑)。つまり、お客さんの目線でのシニカルな笑いも入れているんですよね。いろんな種類の笑いを随所に盛り込んで、観客を飽きさせないセンス。そこも実に見事だなと、ただただ感心するばかりでした。
◆この映画が公開される日は大安吉日です。中村さんは、こうした縁起や験担ぎなどは、普段気にされますか? …という質問をしようと思ったのですが、以前「まったく気にしない」とお話しされていたのを思い出しました(笑)。
よくご存知で(笑)。そうなんです。僕、まったく気にしないんです。大安吉日がどういう日なのかも分かっていないぐらい。願掛けもしないですし。そもそも、自分以外のものに何かを託さないんですよ。最近よく「ルーティーンはありますか?」と聞かれることが多いのですが、そうしたものに縛られたくない気持ちのほうが強いですし、ルーティーンや願掛けといったものが邪魔に思えてしまう。その結果、こういったフラットな性格の人間ができ上がってしまったわけですが…(苦笑)。でも、いついかなる時もコンディションが整っている状態にする。そのためには何も持たず、何にも頼らないのが一番だと思っています。
PROFILE
中村倫也
●なかむら・ともや…1986年12月24日生まれ。東京都出身。主な出演作に、ドラマ「珈琲いかがでしょう」(2021年/テレビ東京)、映画「水曜日が消えた」(2020年)、「ファーストラヴ」(2021年)など。2022年の待機作に、映画「ハケンアニメ!」(5月20日公開)、配信作品「仮面ライダー BLACK SUN」がある。初のエッセイ集「THE やんごとなき雑談」が発売中。また、雑誌「ダ・ヴィンチ」にて新連載「中村倫也のやんごとなき雑炊」がスタート。
作品情報
「ウェディング・ハイ」
2022年3月12日(土)より全国ロードショー
(CAST&STAFF)
出演:篠原涼子
中村倫也、関水渚、岩田剛典
中尾明慶、浅利陽介、前野朋哉、泉澤祐希、佐藤晴美、宮尾俊太郎
六角精児、尾美としのり、池田鉄洋、臼田あさ美、片桐はいり
皆川猿時、向井理、高橋克実
脚本:バカリズム
監督:大九明子
主題歌:東京スカパラダイスオーケストラ 「君にサチアレ」(cutting edge/JUSTA RECORD)
配給:松竹
(STORY)
結婚式、それは新郎新婦にとって人生最大のイベント!
お茶目だけど根は真面目な石川彰人(中村倫也)と、いつも明るい新田遥(関水渚)のカップルも、担当ウェディングプランナーの中越(篠原涼子)に支えられながら準備を済ませ、ようやく式当日を迎えていた。
しかし…結婚式に人生を懸けていたのは2人だけじゃなかった!?
新郎新婦の紹介VTRや主賓あいさつ、乾杯の発声など、結婚式お決まりの演目に並々ならぬ情熱を注ぐ参列者たち。熱すぎる想いが暴走し、式は思わぬ方向へ…。中越は新郎新婦のSOSを受け、披露宴スタッフと力を合わせ様々な問題を解決しようと奔走する。しかし、式場に遥の元カレや、招かれざる闖入者も現れて…。
果たして、絶対に「NO」と言わない敏腕ウェディングプランナーは、全ての難題を解決し、最高の結婚式を2人に贈ることができるのか!?
公式HP:https://movies.shochiku.co.jp/wedding-high-movie/
公式Twitter:@wedding_high
公式Instagram:@wedding_high_movie
©2022「ウェディング・ハイ」製作委員会
photo/河野英喜(エントランス) text/倉田モトキ hair&make/松田陵(Y’s C) styling/戸倉祥仁(holy.)
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2022年3月19日(土)23:59
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