藤木直人インタビュー「朗読の難しさを知れただけでも貴重な経験でした」Amazonオーディブル「ねじまき鳥クロニクル」

特集・インタビュー
2022年04月25日


プロの声優や俳優が朗読した本や多様なポッドキャストが楽しめる音声エンターテインメントサービスのAmazonオーディブル。日本語では初となる村上春樹さんの作品のオーディオブック制作が発表され、プロジェクト第一弾として藤木直人さんの朗読で「ねじまき鳥クロニクル」が配信される。このたび、収録を終えた藤木さんに朗読をしてみての感想や、「ねじまき鳥クロニクル」についての想いを伺いました。

◆まず今回、「ねじまき鳥クロニクル」の朗読をされることについて、率直な感想を教えていただけますか?

びっくりしましたね。これまで特に朗読というものに縁があったわけではないので、想像もしていないオファーでした。朗読劇は一度やったことがありますが、その時は登場人物になって、自分が送ったメールを一人称で読むというもので。今回のように物語を朗読するのは初めての経験だったので、「大変だろうな。難しいだろうな」と感じましたが、以前、蜷川幸雄さん演出の舞台「海辺のカフカ」で村上春樹さんの物語の世界の中に入って、登場人物をやらせていただいたこともあったので、運命かなと感じ、思い切ってやってみようと思いました。

◆最初はオファーを受けるかどうかも迷いがあったんですね。

村上春樹さんの作品はすごく人気があるので、イメージとは異なる表現をしてしまうと、そうじゃないって思う方が大勢いらっしゃるだろうなと思うし、いろいろなことを考えました。それはドラマのオファーでもそうで、もちろんお話をいただくこと自体はうれしいのですが、それを自分にこなせるのかという不安もあって。いろいろと考える中で、そういう選択肢もありました。

◆15日間かけて録音されたそうですが、その中で楽しいと思ったことは?

話自体が面白いので、それを一読者として読んでいくということは楽しかったです。あとは、少しずつですけど着実にゴールに近づいていくので、それは単純にうれしいことでした。

◆その中で、気づいたことはありますか?

いっぱいありました。この物語では長編の中で、主人公が一周して同じところに戻ってくるんですけど、ひとつ階が上になるというか、成長していくという印象があって。それは「海辺のカフカ」でも感じていて、カフカ少年は1階どころじゃなくてだいぶ上に成長していく話ですけど(笑)、そういうふうに自分も成長できたのかなとは思いました。とはいえ、録った音源を聞いてみたら、やっぱり人間って早々には変われないなと感じる部分もあるし…。ただ、朗読の難しさを知れただけでも、貴重な経験でしたね。

◆ちなみに、これまでにも村上春樹さんの作品を読まれていたのでしょうか?

僕が村上春樹さんに触れたのは結構遅くて、「1Q84」が出ると話題になった時に、初めて読んだんです。村上さんの作品の中で今も大好きな作品のひとつですけど、エンターテインメント性が高くて、非常に読みやすい作品だなと思います。

藤木直人インタビュー

◆今回の「ねじまき鳥クロニクル」はいかがでしょうか?

実は買ってから、途中までしか読んでいなかったんです(笑)。このオファーをいただいて、いい機会だったので最後まで読みました。そのあと、朗読することでも読みましたし、読む部分の下読みもしましたし、こんなに何回も読んだ小説はないですね。だから、もうすでに読んだ気持ちでいたら、「あれ、まだ収録してない…今からか!」みたいな感覚になる時もありました(笑)。

◆藤木さんから見た、村上さんの作品の特徴はどういったところでしょう?

いろいろな小説を読んでいるほうではないので、あまり大したことは言えないんですけど、やっぱり独特なユーモアセンスとメタファーでしょうか。明言しないじゃないですか。この「ねじまき鳥クロニクル」も、“果たして本当はどうだったのだろうか?”と思う部分がたくさんあって。

◆朗読していく中で、特に印象的だと思ったシーンはありますか?

全てのシーンが重要なので、1つだけ挙げるのは難しいですが、この「ねじまき鳥クロニクル」では戦争のことが描写されています。それもソ連…シベリアのことで、小説を読んでいる時にちょうどロシアのウクライナ侵攻があって、すごくリンクしたというか、戦争の恐ろしさを感じました。1巻の終わりのほうにある人間の皮が剥ぎ取られるというシーンは、とても読むのが難しそうだなと思っていて。淡々とした文体で、でも人間のそういう暴力だったり、エロスみたいなものを描き切るっていうのは村上さんの特徴だし、僕は書いてあることを読む、それで伝わるのかなとも思いました。

◆俳優としてドラマや映画に出演される時と、今回のような朗読では表現への取り組み方も異なるのでしょうか?

(俳優としての)役は、その登場人物になることだと思うんです。その人の言葉として、どう伝えていくかというところで、感情が大きく動くシーンもあれば、そうじゃない淡々としたシーンもあって。いかにその人になり切るかっていうところで、見ている人に届くか届かないかみたいなことをやっている。でも朗読はある種、俯瞰的というか。小説を書いている人の切り口に近いような気もするけど、朗読劇でもないし、ラジオドラマでもないので、どこまで気持ちを入れるのかっていうのはすごく難しいところでした。

◆そういった中で準備されたことなどはありますか?

他の方が読まれている作品を資料としていただいて、それを聴きました。そうしたら、感情を入れすぎず、淡々と読んでいる印象を受けたので、朗読とはそういうものなのかもと思ったんです。主観が入りすぎると、聴きづらいのかもしれないなと。でも登場人物がたくさん出てくる中で、キャラクター同士の掛け合いでどっちがしゃべっているか分からないと、聴いていて物語が分からなくなってしまうので、そこだけは分かるようにしたかった。そこのさじ加減は難しかったです。

◆読むスピードも重要になってくるのでは?

そこはやっぱり難しいですよね。どんな話かにもよるじゃないですか。子供に絵本の読み聞かせはしているので、あれくらいの短さなら、キャラクターのせりふのスピードや展開に強弱はつけられますけど、小説はひたすらに長いので、考えすぎてやると多分、永遠に終わらないだろうなって(笑)。あと、それぞれの持っている持ち味というか。ナレーションの仕事は何回もやっていますし、他のナレーションの方の作品を耳にする機会もたくさんあって、いろんなやり方があるんだなと思う中で、自分はどういうものが得意なのかということはいつも意識していますね。自分ができること、自分がしなきゃいけないこと、自分がこれから取り入れていきたいことについては、いつも考えています。

◆普段からAmazonオーディブルを聴かれたりしていましたか?

そういうものがあるっていうこと自体を知らなかったです。でも実は、僕の周りでも聴いている人が多くて。活字を読むのが苦手な人でも耳から入ってくるということで利用していたり、小説を読みながら聴いたりするという人もいて。僕も最近はなかなか本を読まなくなって活字離れが進んでいますけど、中高生の時はそこそこ読んでいたし、文章を読む楽しさもやっぱりあるじゃないですか。そういう人間からすると、ちょっとカルチャーショックでした。

◆ご自身がこの作品の朗読を聴いてみたいと思う作品はありますか?

最近読んで、すごく面白いなって思った本が「嫌われた監督 落合博満はどう中日を変えたのか」(鈴木忠平・著/文藝春秋)でした。章ごとにさまざまな選手や関係者の視点で語られるので、もし自分が朗読するってなったらお手上げだなって。選手だけでも数多くのキャラクターが出てくるので、読み分けはちょっと無理だろうなって思います(苦笑)。

◆今回の仕事をきっかけに、今後は本を読む際もこれまでとは違う視点が加わりそうですね。

今回やらせていただいたことで、これからはより気をつけながら小説を読むようになるかもしれないですね。小説を読む時って、字面をバーっと目で追っちゃう時があるじゃないですか。でも今後は一語一句を丁寧に追うようになったり、意味的な一括りをより意識しながら読むようになったりするかもしれないです。

◆最後にメッセージをお願いいたします。

真剣に聴かれると思うとプレッシャーなので、ウォーキングやドライブしながら聴いてもらえるといいですね。僕自身も、録ったものを行き帰りの車の中で聴いていたんですけど、それぐらいが1番いい(笑)。かなりの長編なので、聴くのも大変だと思うんですけど、一生懸命頑張って最後まで読み切ったので、最後まで聴き切っていただけるとうれしいです。

PROFILE

藤木直人
●ふじき・なおひと…1972年7月19日生まれ。千葉県出身。A型。現在『恋なんて、本気でやってどうするの?』(カンテレ・フジテレビ系全国ネット)に出演中。

配信情報

Amazonオーディブル「ねじまき鳥クロニクル―第1部 泥棒かささぎ編―」
2022年4月25日(月)が配信

6月1日(水)には「第2部 予言する鳥編」、7月15日(金)に「第3部 鳥刺し男編」を配信予定。

作品ページ:https://www.audible.co.jp/nejimakidori

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