4月にスタートしたテレビアニメ『SPY×FAMILY』(テレビ東京系 毎週土曜 午後11時~11時30分ほか)が人気沸騰中だ。原作は、マンガアプリ「少年ジャンプ+」で連載中の遠藤達哉による痛快ホームコメディ漫画。凄腕スパイのロイドが任務遂行のため、心を読める超能力少女のアーニャを娘に、美しき殺し屋のヨルを妻に迎えて疑似家族に。個性豊かすぎる3人が、互いに正体を隠しながら共に暮らす姿に“わくわく”させられる。そんな本作でロイド役を好演しているのが、江口拓也さん。キャラクターについてはもちろん、自身が思う“理想の家族像”についても聞きました。
◆『SPY×FAMILY』の放送が始まって、反響はいかがですか?
仕事で毎日いろんな現場に行くのですが、どの現場でも同業の演者さんやスタッフさんたちから「『SPY×FAMILY』見ました!」ってほぼ100%言っていただけるんです。それだけ注目されていて、たくさんの方々に見ていただけているんだなと実感できてうれしいです。
◆原作漫画はもともとご存知でしたか?
はい。「少年ジャンプ+」で連載が始まった当初から読んでいました。もともとスパイものは好きでしたし、スパイだけでなく超能力者や殺し屋まで登場して、その3人でどんな物語が繰り広げられるのかと興味を引かれて。予想していたシリアスさとは裏腹にコメディ色が強く、肩の力を抜きながら楽しめる読みやすい作品だなという印象を受けて、先々の展開がますます気になっていきました。
◆もしアニメになって自分が演じるとしたら…という思いもあったのでしょうか?
漫画を読むときにそういうことはあまり考えないですね。純粋にイチ読者として楽しんでいます。どの漫画でも、もちろんご縁があればアニメになったときに出させていただきたいというのはありますが、そういう思いを持ちすぎると、関われなかったときに悲しさが強くなってしまいますし。なので、常日頃からそこまでの想像はしません。
◆ロイドというキャラクターに対しては、どんな印象を持っていますか?
カッコいいですよね。スパイとして完璧で、何でもできる。そんなロイドですけど、自分の家族を作ることや、子供や奥さんと一緒に過ごすのは初めてで、それに対する戸惑いがリアルだなと。その過程を経て、常に冷静沈着でクールで、見方によっては冷たくも感じられたロイドの表情はどんどん柔らかくなっていく。人として大切な感情って何だろうと考えさせられます。“人間”というものに向かい合っているロイドの姿は本当に魅力的だなと思いますね。
◆ロイドを演じる上で特に意識していることは何ですか?
“スパイ感”みたいなものは念頭に置きつつ、アーニャやヨルさんの言動に対してどういうリアクションを返して、そのときの気持ちをどう表現するべきかというところに常に挑戦しているような感じで。どこまでスパイに徹して、どこまで砕けるか。そのメリハリは最初のころ、3話くらいまでは特に気にしていました。
◆3話と言うと、家族3人で街に出掛け、通りすがりのおばあちゃんをひったくりから助けた回ですね。
そうです。そのおばあちゃんから「とっても素敵な家族ね」と言われたのが、家族としての本当のスタートになったというか。それをきっかけに4話以降、ロイドの砕けた表情がどんどん出てくるようになったので、そこは大事に演じています。
◆モノローグが多いのもロイドの特徴かと思います。
確かに、モノローグとせりふが交差するシーンが多いですよね。作品によってはあえてモノローグとせりふを分けて収録することもあるのですが、『SPY×FAMILY』の場合は特にテンポ感や流れを大事にしているので、極力分けずに収録しているんです。それはつまり、瞬発力など声優としての技術が必要になってくるわけで。その要求に応えられるようにどんな用意をしておくべきか、ということは常に考えていますね。
◆アーニャ役の種﨑敦美さん、ヨル役の早見沙織さんとの共演はいかがですか?
ロイドはアーニャの何気ない言動で考えをあらためたり、それまでの自分だったらまずしなかったような行動を取ったりするんですけど。僕自身も、種﨑さんのお芝居一つひとつがどう来るかによって用意してきたプランが変わることがあって。種﨑さんの魅力的な表現に乗っかっていくじゃないですけど、すごい相互作用しながら作っていっている感覚がありますね。それは早見さんも同じで。ヨルさんの殺し屋としてのヤバい雰囲気と、だけど普段は天然っていうコントラストの表現も絶妙で、すてきだなと思っています。
◆アフレコの現場では、お二人と何かやり取りされているんですか?
こういうご時世ですが、お二人とは極力一緒に収録できていて。とはいえなるべく静かにしていて…まぁ、そもそも僕自身あまりしゃべるタイプでもないのですが(笑)…でもそれがゆったりしたいい空気感を生んでいます。静かながらも信頼感を持って、安心してマイクの前に立てていますね。
◆本作は家族がテーマとなっていますが、江口さんの“理想の家族像”はありますか?
家族って、例えば我が子であれば血のつながりとか定義はいろいろあるでしょうけど。でも、本当に大切なのはお互いを思いやり尊重し合えることなんじゃないですかね。ロイドを見ていても、結局アーニャもヨルさんも他人でしかないんですけど、それでも2人のためにこうしてあげたいという感情が芽生えていて。本来スパイは目立ってはいけないと分かってはいても、予測不能な事態が起きてどうするべきかという選択肢を迫られて、結果、2人のために勝手に体が動いてしまう。利害など関係なく心に従ってしまう瞬間があるんですよね。血のつながりだけで考えてしまうと、本当に大切なものが見えなくなってしまうことがどうしてもありそうで。そうなると、尊重し合うなんて難しいじゃないですか。そこを大切にできるのが、すてきな家族なんじゃないかなと思います。
◆なるほど…! では最後に、江口さんが思う本作の魅力を教えてください。
この作品を見ていると、あらためて家族っていいなって思えるんです。作品によっては例えば何かに立ち向かう姿に勇気をもらえるとか、情熱を呼び起こしてもらえるとか、友情が素晴らしいとか、アクションが爽快だとか、その瞬間に感じることはいろいろあるでしょうけど。この作品は、実際問題として“あなた自身の家族はどうですか?”という問いかけを常にもらえるというか。自分の人生に持ち帰れる大切な感情を教えてくれる作品だなと思います。家族って当たり前の存在になりがちで、気恥ずかしさもあって普段あらためて何か考えることってないじゃないですか。僕自身もそれが強くなっていたんですけど、でも最近ふと家族のことが思い浮かぶようになったのは、この作品に関わったおかげだと思います。
PROFILE
江口拓也
●えぐち・たくや…5月22日生まれ。茨城県出身。B型。代表作は、『機動戦士ガンダムAGE』(アセム・アスノ役)、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(比企谷八幡役)、『ULTRAMAN』(諸星弾役)、『王様ランキング』ドーマス役など。
番組情報
TVアニメ『SPY×FAMILY』
テレビ東京系ほか
毎週土曜 午後11時~11時30分ほか
<STAFF&CAST>
原作:遠藤達哉(集英社「少年ジャンプ+」連載)
監督:古橋一浩
制作:WIT STUDIO×CloverWorks
オープニング主題歌:Official髭男dism 「ミックスナッツ」
エンディング主題歌:星野源「喜劇」
声の出演:江口拓也(ロイド・フォージャー)、種﨑敦美(アーニャ・フォージャー)、早見沙織(ヨル・フォージャー)、吉野裕行(フランキー・フランクリン)、甲斐田裕子(シルヴィア・シャーウッド)、山路和弘(ヘンリー・ヘンダーソン)、小野賢章(ユーリ・ブライア)
ほか
text/M.TOKU
この記事の写真
©遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会